2023.11.06
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思考ツールを使って、若者の政治への関心を高めるプランを構想(後編) タブレットで学習者主体の授業を実現

徳島県のモデル校として教育現場のDX化を進める板野町板野中学校を取材した。前編では「民主政治と日本の政治」の単元で若者の選挙への興味関心を高める手立てを考える授業を紹介した。一人一台のタブレット・思考ツールを活用して、生徒自身の考えを言語化することをメインに授業は進む。一昔前のような、一方的な講義を受けるのではなく、ひとつの課題に対してそれぞれが主体的に取り組む姿が授業内では見てとれた。
後編では、授業者の丹羽広樹先生、教育DX推進担当の市川尚将先生へのインタビューをリポートする。「次世代の学校・教育現場を見据えた教育DX推進事業」事業検討委員の泰山裕先生(鳴門教育大学教育学部 准教授)にも同席いただいた。

徳島県「次世代の学校・教育現場を見据えた教育DX推進事業」について

Society5.0時代に活躍するグローバル・リーダーの育成に向け、デジタルトランスフォーメーションを教育現場に取り入れ、児童生徒の学習の基盤となる資質・能力である情報活用能力を育成するための創造的かつ意欲的なモデル事業に取り組むとともに、学校教育における学び方、教職員の働き方の抜本的な転換を図り、その成果を県内の学校に広く普及することを目的とした事業。生成AIやドローンなどの教材を活用した先導的な事例研究も進めている。

2023年度は、徳島県内の中学校3校、小学校2校の計5校がモデル校として、各校が児童生徒や地域の実情に応じた次のような研究目標を設定し、実証研究に取り組んでいる。ICTを活用した各教科学習における授業改善などについて、事業検討委員による専門的な見地からの指導、助言を得ながら研究を推進している。

  • 各教科学習等における効果的なICT活用について
  • 情報モラル教育について
  • ICTを活用した教員の働き方改革について

公開授業や研究成果の報告会等を通して、県内各校の指標となる取組、優れた手法や事例を情報共有し、好事例を横展開することで、徳島県GIGAスクール構想のもと、全体的な引き上げを図り、Society5.0を見据えた児童生徒の資質・能力の育成を図っている。

思考ツールを活用して、情報活用能力を育成

丹羽 広樹 教諭

―本日の授業「民主政治と日本の政治」で工夫した点を教えてください。

丹羽教諭 一方的な講義型の授業ではなくGoogle スプレッドシートやGoogle ClassroomなどのICTを活用し、主体的に学べる授業になるように工夫しました。

―ICTを取り入れた授業と従来の授業ではどのような違いがありますか。

丹羽教諭 今までは教科書の内容をなぞるような、知識を獲得することがメインの授業でしたが、思考ツールを活用することで、本当に正しいのか生徒自身が疑問を持ち考え、頭の中を整理・分析できるようになったと感じています。

市川教諭 日々、思考ツールを活用して学んでいますが、手段が目的にならないよう、いかに有効活用できるかを模索しています。単に調べるだけなら、現代の子どもたちはほとんどできていますが、収集した情報を本来の目的に合わせて取捨選択し、まとめたり分析したりする力には個人差があり、その部分を補完するのが思考ツールです。生徒同士が考え方を共有し、全体の底上げにつなげたいと考えています。

以前は先生方が各授業に適した思考ツールを選択、配布して使わせていましたが、課題解決能力育成のために、今年度からは生徒自身で選択させる場面を増やす取組を始めました。

丹羽教諭  また、タブレット活用の良さとして、自分自身で主体的に情報を検索して調べられる点、他の生徒の意見を簡単に確認できる点が挙げられます。自分が分からないことでも他の生徒の意見をヒントに気づきを得られるため、学力に関わらず、自力で進めやすくなります。

市川教諭 MetaMoJi ClassRoomは、クラスで一斉に書き込むと全員の意見を一度に確認できるので、話し合い活動にも有効です。使い始めた当初は、主に学級活動や道徳の授業で取り入れやすいことを先生方に案内しました。各教科での使い方については、それぞれ特性がありますが、まずは時短になることや、挙手しない生徒の意見も取り上げられることを知ってもらうのが最初の一歩ですね。

DXによる効率化

―時短化の取組について教えてください。

市川教諭 一人一台環境はコロナ禍の2021年度からスタートしたのですが、タブレットでGoogleフォームに毎日健康状態を入力してもらうことから始めました。

以前はプリントを配布して授業のアンケートを集めていましたが、Googleフォームにしたことで、回答する生徒も、集計する先生も負担が軽くなりました。特に、文化祭や体育祭などの行事の振り返りと反省点や改善点のアンケートは、データ化されているのでまとめの文章作成作業もかなり時短になります。今日の授業後も、生徒や参観者に4~5問のアンケートに回答してもらいましたが、回答をすぐ一覧で見られるので、とても便利です。

また、授業のワークシートをMetaMoJi ClassRoomで配布したり、高校入試の過去問をタブレットに入れることで、プリントのコピーや用紙の保管、管理などの負担がかなり軽くなったと感じています。その他、学級の連絡にGoogle Classroomを取り入れました。

生徒の主体性をもっと引き出す

市川 尚将 教諭

―生徒さんはどのような活用をされていますか。

市川教諭 生徒会活動や委員会活動など授業以外でも、何か調べたり、生徒が主体的に活用する場面が見られます。授業中に板書を写しきれなかった子が、撮影し、後からノートにまとめたり、写真を撮って記録することも多いようです。先生が活用方法を教えるのではなく、生徒同士で便利な方法を見つけて教え合い、自然に活用できている印象です。

―DX化推進に当たって、苦労していることはありますか。

市川教諭 タブレットの使用範囲については教育委員会が権限を持っているので、権限を学校に移してもらうための交渉に苦労しました。やりたいことがあっても"学習上必要のないサイト”として、アクセス制限がかかってしまう点は難しく感じています。

もっと使わせたいけれど、緩くしすぎてしまうと逸脱してしまう生徒もいるので、同時にモラル指導も行なっていく必要があり、学校としても線引きが難しいと感じています。タブレット使用への規律と利便性の両輪を意識し、バランスをとることが重要だと感じています。

―最後に、今後やってみたいことなどを教えてください。

市川教諭 カリキュラムを大きく変えることは、なかなか難しいですが、教科等横断的な学びの要素を増やしていきたいですね。例えば現在、商品開発の取組を地域の企業と進めているのですが、原価計算は数学、流通は社会科です。生徒がもっと広い視点で日々の授業を捉えることができると、さらに主体的に取り組めるでしょう。そのためには各教科を担当する先生方のスキルアップや授業改革が必要となり、野望は大きいですが、注力していきたいと考えています。

記者の目

今回の取材を終えて一番印象的だったことは、先生自身がまず学ぶことを怠らず、大変革の時代に対応していく姿勢だ。一人一台の端末が整備され、一昔前より情報は集めやすくなったが、集めた情報を取捨選択し課題解決につなげるための手立てを使いこなせる人は多くない。未来ある子どもたちを育てていくためにも教育の場はまだまだ伸びしろだらけなのかもしれないと感じた。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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