中学校技術家庭科でのプログラミング模擬実践授業をリポート レゴ®エデュケーションカンファレンス2019
8月に開催された「レゴ®エデュケーションカンファレンス2019」では、2020年初め頃に日本を含むグローバルで発売予定のプログラミング教材『レゴ®エデュケーション SPIKE™プライム』を利用した技術分野の模擬実践授業が公開された。計測・制御をプログラミングすることにより、高齢者や障がい者支援の課題解決ロボットを製作するというこの授業を通じて、プログラミング教育による学びをさらに確実なものにするためのヒントを見つけていただけると嬉しい。
<授業クラス>
- 日時:2019年8月7日(水)
- 学校名:神奈川大学附属中学校 PC部(新中学3学年での授業を想定)
- 指導教諭:神奈川県相模原市立相原中学校 荒木佑輔
- 単元名:D情報の技術 (3)計測・制御のプログラミングによる問題解決
- 題材名:「高齢者支援や障がい者支援者のために計測・制御の技術を使って解決しよう!」
レゴ®エデュケーションのSTEAM教材『SPIKE™プライム』とは?
WeDo2.0やマインドストーム®EV3など、様々なレゴ®ブロックやパーツを組み合わせることで、子どもの自由な発想を活かし、学習意欲に結びつけるレゴ エデュケーション(レゴ社の教育部門)のプログラミング教材の数々。今回取り上げるSPIKE™プライムは、小学校高学年から中学、高校生を対象としたSTEAM教材だ。学習用プログラミング言語「Scratch」ベースのソフトウェアによる直感的な操作性を踏襲し、ハンズオン(実体験型)とデジタル型の学習を併用したプロジェクトを通して、論理的に考え、客観的に問題を発見・解決する力を磨くことができる。
※SPIKE™プライムの発売は2020年初旬を予定しており、本時は英語ベータ版ソフトウェアを使用した(発売時は日本語版ソフトウェアを提供予定)。
授業を拝見!
教室には2〜3名で1グループをつくり、9グループ総勢20名程度の生徒が着席。生徒たちは過去にレゴ エデュケーションのEV3というプログラミング教材を扱っており、ロボットの組み立てやセンサーの扱いには慣れている様子だった。事前に配布されていたワークシートには、各自プログラミングをするためのアイデアやプログラムがすでに記入され、ロボットは生徒たちにより組み立てられた状態で待機していた。
『計測・制御の技術を利用してみよう』ワークシート内容[見本]
- 高齢者・障がい者支援のアイデア
- 発想したアイデアから1つを選び、仕組みを具体化
- アイデアをイメージ図に書き起こす
- アイデアを動かす手順(プログラム)を図で表す
本時の狙いと流れを確認(10分間)
まずはグループごとに計測・制御の技術を用いて、生徒たちが高齢者や障がい者のために何を作ろうとしているのか、口頭で発表。クラス全体で課題を確認しあい、続いて荒木教諭が本時の授業のポイントについて触れた。
「大事なことは2つ。センサーで色や物体、距離、力などを計測するプログラムを入れることと、安定して動作が行われるように作ること。3回やって1回しかうまく動作しないようでは、実社会で安全に使うことができませんよね」
動作の安定性や正確性を製作物完成の条件として強調した荒木教諭。もちろん、システムの変更が必要な場合には、時間内であれば何度でもやり直しが可能であり、出来上がりが事前に想定していたものと全く違う形であっても問題ない。ワークシートに記入した各自の狙いを達成することが最終目標なのだ。
グループごと作業開始(20分間)
生徒たちはある程度組み立てていたロボットを、プログラムで動かし、ロボットを完成に近づけて行く。しかし、いくらプログラムを組むことができても、センサーが反応しない、モーターが回らないなど、イメージ通りに動作はしない。生徒たちはどこに課題があるのか試行錯誤する時間を過ごしていた。
荒木教諭はこの間、グループを回りアドバイス。作業時間の生徒とのやり取りについて「解決方法は一つではないですし、教師が言うことが正しいわけではないので、考えさせる質問を投げるようにしていました」という荒木教諭。「どういう動きをさせたいの?」と生徒のイメージに対して、質問や助言を繰り返し、考える視点を与えていた。
段差の昇降をサポートするロボットのプログラムを組んでいるグループは、重さを感じることで上下に動く仕組みを考えているが、なかなか動かない。変更点は赤字でワークシートに書き、改良を重ねていた。
発表(15分間)
3グループが代表として発表。以下ではどんなロボットができたのかご紹介する。
段差を昇降する自動スロープ。
車椅子などでも段差をスムーズに昇降するロボットを考えた。圧力センサーを使い、5ニュートン以上の重さで動くようにプログラミング。
しかし実際に圧力を加えてみるが、歯車が滑らかに作動せず昇降しない。荒木教諭は「2年生で学んだエネルギー変換の仕組みをうまく利用できるといいですね」とアドバイス。過去の学びを複合的に組み合わせる応用力も、中学校技術科のプログラミング教育で身につけたい力だ。
高齢者の生活をサポートする手押し車
手押し車で買い物や、外出する高齢者。生徒たちはそういった日常の光景からヒントを得たようだ。
持ち手に付けられた圧力センサーでスイッチが入ると前進し、前方に取り付けられた距離センサーが7cm以内に障害物を感知すると止まる仕組み。また、時間が足らず完成しなかったが、かごの下にはカラーセンサーがあり、段差を感知すると自動で停止するプログラムを考えているところであった。
視覚障がい者の白杖をより進化
視覚障がい者が道の安全確認に使う白杖の周囲に超音波センサーを搭載し、障害物の有無を知らせるシステムを考えた。
障害物のある位置は、前後左右の場所ごとモーターの回転数を変え振動で伝える。また、杖を手放してしまったときには、音を出して白杖の位置を知らせる機能も披露した。
「目の見えない人への工夫がわかりますね」と、相手の立場に立って考える姿勢を評価した荒木教諭。生徒はもっとシンプルなデザインにしたいと、意気込みを語って発表を終えた。
生徒からはさらにプログラミングの作業を進めたいという表情も見て取れたが、ここで45分間の授業は終了した。
授業を振り返って
生徒の声
今回の授業を終えた生徒に、授業の感想を聞いた。
「頭の中ではイメージができていても、実際にものを動かしてみようと思うと、うまくいきませんでした。また、プログラミングが複雑になればなるほど、あとから修正する際にミスが出やすくなります。できるだけ簡単でわかりやすいプログラムを組むことが大切だと思いました」
修正・改善していくプロセスまでを想定してプログラムを組むことの重要性を把握できており、技術科の授業外でも活かせる思考性が身についているようだ。
荒木教諭より
「今回の授業は模擬授業ということもあり45分間の限られた時間で授業を設計したので、課題を高齢者や障がい者の支援に限定していました。ですが、中学校3年生となれば普段の生活の中から課題を発見し、解決方法に今までの技術科の学びを応用することもできるはずです」と生徒たち自らの問題発見・解決力に期待を述べる荒木教諭。
段差を昇降する自動スロープを作った生徒たちに「エネルギー変換の仕組みを利用できるといい」とアドバイスしていたように、過去の学びを組み合わせ、解決策を導くことが技術科の目指すところだ。さらに、それが安定性と安全性を持ち合わせ、実社会で使われることも想定している。
最後に、今後の技術科のプログラミング教育についての期待や展望について伺った。
「教師自身が授業を楽しむことが大切だと思います。答えを教え込むのではなく、課題を見つけ可視化して、解決に導く。そのプロセスの手助けをすることが、教師の役目です。子どもの発想を認めて、そのために何ができるのか一緒に考えることに、楽しんで取り組んでみてください」
記者の目
本格的な中学校のプログラミング教育の実施を目前に、多くの先生方の前で模擬授業を行った荒木教諭。まだ日本では未発売のSPIKE™プライムだったが、授業中は答えを与えることではなく、生徒を導くことに徹し、授業をやり遂げた。「教師自身が授業を楽しむことが大切」というように、生徒との試行錯誤の時間を楽しんでいたことが、授業成功の鍵だったのだろう。
構成・文・写真:学びの場.com編集部
画像提供:LEGO Education
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