2023.08.07
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ChatGPTの仕組みや影響力を生徒目線で考える(後編) 学びを立体化するICTを活用した教科横断の探究学習

東京都教育委員会が、児童生徒が夏休みの宿題でAIの回答をコピーして、そのまま提出させないように注意喚起を促す通知を出したり、文部科学省が運用ガイドラインを策定するなど、学校現場での取り扱いが話題となっているChatGPT」。前編では、ChatGPTをテーマとした授業の様子を紹介した。後編では、和光学園のデジタルシティズンシップ教育や、ICTを活用した教科横断の探究学習の取組について、情報科・小池則行教諭、音楽科・青柳貴宏教諭、国語科・荒井真由美教諭にインタビューした。

AIは仕事や生活に役立つことを知ってほしい

情報科 小池則行教諭

―メディアリテラシーやデジタルシティズンシップについて、何年前から授業を行っていますか?

小池則行教諭(以下、小池) 授業で「デジタルシティズンシップ」という言葉は2014年から使い始めました。入学してすぐ、生徒に情報機器利用にまつわる実態アンケートをとり、自分たちの普段のウェブやデバイスとの関わり状況を分析することから始めています。日本の学校教育では「〜してはいけない」といった禁止的なアプローチが主流ですが、個人的には「失敗から学ぶ」ことも必要だと思っています。もちろん人生の取り返しがつかなくなるような失敗は論外ですが、多少は転びながら、自分事として捉えられるような学びを提供していきたいですね。

―ChatGPTやAIについて、当初、生徒たちはどのように考えていましたか。また、授業でAIモデルを作成した後、どのような変化が見られたか教えてください。

小池 AIを学習するにあたり、まず生徒にアンケートを実施しました。「AIと聞いて何を思い浮かべますか?」という質問には、人工知能、ペッパーくん、未来、便利、画像生成といった回答が見られました。さらに「身の回りにあるAIに何がありますか?という質問には、Siri、アレクサ、Google、ChatGPT、ファミレスの配膳ロボットという回答が目立ちました。これらの結果から、生徒の回りでAIはすでに浸透している一方、AIとの関わりを自覚していないとも捉えることができます。

前回の授業では、AIはさまざまな仕事に役立つことを知り、またAIの作成は誰でも挑戦できることを体感してもらうため、Teachable Machineで機械学習モデルを体験させました。

一学期の終わりには、Adobe Expressを使って、デジタルポスターなどの作品を作る予定です。そこに向けてデジタル・シティズンシップやChatGTPを教えているので、どのような作品が生み出されるのかとても楽しみですね。

クラウドデフォルトの学習環境へシフト

取材後の授業で制作された作品

―和光学園の情報科のカリキュラムの特徴について教えてください。

小池 デジタルシティズンシップ教育から情報デザイン、Googleマップなどを用いた地理空間的思考を深める学び、データ分析、プレゼンテーションと広範囲にわたります。 高校1年生は、メールのアイコン・署名の設定から、作法について学び、その後はGoogleドライブなどのクラウドツールを流暢に扱えるように学習を重ねていきます。

2013年頃からはクラウドツールを用いた学習を主軸としています。それ以前はWordやExcel、PowerPointを使っていましたがインストール型では学ぶ環境が限られてしまいます。授業はあくまで学びへのきっかけづくりをする場。授業以外でも自主的に学びを掘り下げてもらいたいという想いから、クラウドデフォルトに移行しました。多くの生徒がデジタルツールを使いこなしているので、授業では彼らのポテンシャルをいかに引き出すかが重要になってくるでしょう。

―今後、構想している新しい取組があれば、教えてください。

小池 学校の存在意義をもう一度考え直す必要があると考えています。テクノロジーが進化した今、勉強は学校に来なくとも行うことが可能です。つまり、学校という空間であえて学ぶことの価値を問い直さなければいけないフェーズに入っていると思うのです。そこから見出された考えを授業プランとして構築することが今後のカギになってくると言えるでしょう。

ICTを使うことで主体的に学びやすくなる

音楽科 青柳貴宏教諭

―ここからは、ICTを活用した教科横断の探究学習の取組について伺います。まず音楽科では、どのようにICTを活用していますか。

青柳貴宏教諭(以下、青柳) 中1では「きらきら星」の変奏曲を編曲するという課題を楽譜作成ソフト「Flat」で行いました。このソフトを使うことで、音色やリズム、メロディーをアレンジできるうえ、楽器もトランペットやシンセサイザーなど多くの種類から選べます。コードネームも入力でき、たとえば「C」ならば“ドミソ”、「G」ならば“ソシレ”といった具合に簡単に伴奏のアレンジができます。一番の魅力は選択した音がその場で鳴ることです。自分が考えた楽譜をすぐ耳で確認できるので、音楽の構造と基礎を学ぶにあたり大変有益と考えます。

―国語科では、どのようにICTを活用していますか。

荒井真由美教諭(以下、荒井) 中3では意見広告ポスターをPCで作成しました。インターネット上の画像と情報を取り入れて、生徒ならではのアイデアを駆使するというものです。

また、グループ発表の一環でGoogleスライドを活用しました。安部公房の小説『公然の秘密』の橋の上での会話について、“どんな立場の人が、どんなことを発言したか”をグループで考えてもらいました。そのまとめをスライドに書き起こし、発表したというかたちです。中3ということもあり、ITへの知識は豊富で、私が特に指示しなくても自主的に取り組む姿が印象的でしたね。

古文 x 音楽 x ICTのコラボで学びが立体化

国語科 荒井真由美教諭

―昨年、中学2年生で、枕草子「春はあけぼの~」に曲をつける授業に取り組んだそうですが、きっかけは何ですか。

荒井 古文はそのまま読むだけだとどうしても世界観が頭に入りにくいのが課題です。枕草子の世界に入るには音楽とのかけ合わせが有効と考え、青柳先生に「枕草子にバックミュージックをつけたい」と相談を持ちかけました。

青柳 これまでにも社会科と英語科と音楽科で「Black Lives Matter」をテーマに「マーティン・ルーサー・キング牧師の演説やブルース音楽から公民権運動を考える」という取組を行ったため、その経験を活かせるのではと感じました。また、5音階(ペンタトニックスケール)の日本音階を用いることで、生徒が気軽に古典の世界の作曲に挑戦することができると考えました。

―コラボレーション授業は何時間展開したのですか。また、予想外のことはありましたか。

青柳 7、8時間を費やしました。ペンタトニックはメロディーを組みやすいメリットがあるものの、不協和音が生じやすいというデメリットもあります。ピアノなど楽器を習っていない生徒の作品の中には、所々、不協和音となっている作品もありました。本人に指摘したところ「不協和音だとは思わなかった」と答える生徒もいました。協和音と不協和音の違いの聞き取りが難しいと知ることができたのは予想外でしたが、大きな気づきとなりました。

―生徒の反応はいかがでしたか。教科横断でない場合に比べ、理解に違いは見られましたか。

荒井 映像だけでも非常に効果的ですが、さらに聴覚という感覚が加わることで、文学の世界が立体化するとわかりました。

青柳 課題の作成はAdobe Expressを用いましたが、テンプレートがあるので自分の心象風景に近い画像を簡単に選べていた様子です。客観的に捉えていた文学の世界が可視化されたことで、学習がより深まったと感じています。操作はスマホの延長に近いので、授業をスムーズに進められたのも良かったです。生徒は既有知識をベースに取り組めていました。

―教科横断授業ではどのような点が壁となりやすいでしょうか。

青柳 コラボ授業を行うには大きな概念から出発することが大切です。ただ、その共通の概念を探すのは簡単ではないでしょう。今回は「日本の伝統文化」という共通概念から授業を構想しましたが、たとえば数学の二次関数など単元の細部から授業を構想してもコラボは難しいかもしれません。

―今年度は、国語×美術×音楽による「詩に絵をつけ、ICTでイメージに合った、雨垂れやせせらぎなどの環境音を入れて作品にする」といった取組も構想しているとお聞きします。ICTを活用した制作活動によってどのような効果がありますか。

青柳  ICTを使うことで主体的に学びやすくなると捉えています。クリエイティブな思考が育ちやすくなるので、自分の中の価値判断を構築できるのも良い点ですね。さらに、学びの履歴が残るため、自分のポートフォリオを見る感覚で振り返ることができるのも一つのポイントと思います。

荒井 映像や音楽を加えることで理解が深まるのもICT活用の魅力であると考えます。文字からイメージする力が弱くなっている現代においては、なくてはならないツールとも言えるかもしれません。とはいえ映像は二次元の世界。私としては現実的な体験もしてほしいと思っています。たとえば、自然の中で木の葉のざわめきを聞くなど、リアルな世界で自分の感性を磨いてほしいと思っています。

記者の目

作文も瞬時に作成できることから、学びへの影響が懸念されているChatGPT。一方で、授業の取材を通じて「ChatGPTはあくまで参考程度」といった雰囲気が生徒から漂っていたのが印象的だった。小池教諭曰く、「調べ物をするときにGoogleを使うのと同じような感覚でChatGPTも、学びを深めるために上手に活用できればいいのではないか。」とのこと。最新テクノロジーのメリット・デメリットをしっかり理解しつつ、上手に向き合いたいものだ。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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