2020.11.02
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実社会で活きる・使える英語教育! (後編) PBLの単元構想についてインタビュー

静岡大学教育学部附属浜松小学校で外国語教育を実践する常名剛司教諭は、PBL(Project-Based Learning:課題解決型学習)に取り組んでいる。2020年からは学習指導要領により小学校5、6年生は外国語活動が教科になり、小学校でもますます外国語教育の重要性が高まっている。これまで文法や語彙力など、どちらかというと技能に偏りがちだった日本の英語教育。子どもたちが早期に外国語学習をスタートすることは、最初の段階でつまずいてしまえば、かえって英語に対する苦手意識や学習意欲の低下などのリスクも高まってしまうことにつながりかねない。
こうした課題に対して、1つの答えとなるかもしれないのが、常名教諭の取り組むPBLや、CLIL(Content and Language Integrated Learning:内容言語統合型学習)の場面設定による授業構成だ。海や川にあるごみを素材に、分別方法や海洋プラスチックごみ問題なども学んでいく浜松小学校3年生の外国語授業は、子どもたちが楽しみながら実際に外国語を使う力を身につけられる授業だった。
実生活や社会問題のテーマを元に英語を学ぶ前回の授業レポートに続き、本稿では浜松小学校の英語教育や、小学校3年生段階でどんな授業づくりを意識しているのかなどを常名教諭にインタビューした。

学んだことを「自分ゴト」として捉える外国語教育を

静岡大学教育学部附属浜松小学校 常名剛司教諭

―浜松小学校での英語教育について伺います。PBLの単元構想について、どのように取り組んでいらっしゃいますか?

常名剛司(敬称略 以下、常名) まず、本校では、外国語教育を他校よりも早い小学校1年生からスタートしています。学習指導要領のカリキュラムとは異なりますが、本校での取り組みが将来的に地域や他校の外国語教育に対して、何らかの提案ができるように、という研究活動としての意味合いもあります。

現在、本校ではPBLを取り入れた外国語授業を行っています。PBLについては、私自身が個人的なライフワークとして取り組んでいる研究活動の一つ。かつてアフリカの在外教育施設で教師として働いていました。当時、その学校に通ってくる子どもたちや親御さんから「インターナショナルスクールの授業は、プロジェクト学習なんだよ」という話をよく聞かされていたんです。

実際の社会課題を取り上げ、「自分ゴト」としてこれらの問題を捉えながら問題解決場面を取り入れて実践していくPBLの良さは、勉強したことが教室の外の世界へとつながっていることです。PBLは、単なる外国語の習得、ではなく将来子どもたちが社会で生きていく上で必要な力、汎用的な資質や能力を身につけることにもつながるのでは、と捉えています。

―PBLの単元構想とは具体的にどんなものでしょう?

常名 基本的にPBLに取り組むに当たって、子どもたちが生活の場で「困っている外国人を助けたい」という気持ちを持ったり、同じ地域に暮らす外国人と話をしながら異文化を理解したりできる子どもを育てたいという思いがあります。

そのため、こうした子どもたちの姿を念頭に単元を構想しています。

今回、単元のテーマに「SDGs14 海洋プラスチックごみをへらそう」というテーマを選んだ理由は?

常名 子どもたちが実際の生活や社会とつながっていると感じられるテーマを、と選びました。

授業の導入では、実際に写真撮影してきた自分たちが住む美しい街・浜松の「海が汚い」という場面を子どもたちに見せながら問題意識を持ってもらいます。中田島砂丘のごみ問題は、海を通じて世界とつながっていますし、この地域に住む日本人だけでなく、外国の方たちともみんなで協力しながら解決していかなければならない問題です。また、ごみの出し方についても「外国の方が日本に来て困っていることナンバーワンがごみの出し方だ」という情報を子どもに授業で見せています。

そうすると「ああ困っている外国の人がいるんだ」「何とかしないといけないし、共生する外国の方もみんながちゃんとできるようにするにはどうしたらいいんだろう」と子どもたちが気付く。そんな導入をしてきました。

浜松小学校では、他教科や他領域と関連づけたCLILについても取り組んでいますが、いったいどんな学習方法なのでしょうか?

常名 CLILとは、ヨーロッパで先行して行われている内容言語統合型学習です。これまでの英語教育では、基本的に日本語で大体わかっている知識や内容を英語に置き換えて表現を学んでいくという手法がほとんどでした。

これだと、子どもたちは高学年になったときに「それはわかっているよね」「わざわざ英語で言わなくてもいいよね」というように、子どもの気持ちやモチベーションが上がりにくいという課題がありました。

「だったら初めから英語で新しいことを学んだ方が、英語も身につけられるし、新しい知識の習得や学習もできて一石二鳥でいいんじゃないか」という発想で取り組んでいるのがCLILです。ヨーロッパでもイタリアやスペインで研究が進んでいる学習指導方法です。

今回で言えば、海洋プラスチック問題やごみの分別という社会科や総合の学習内容を英語で学んでいます。

授業づくりのねらいと工夫そして今後の課題とは

小学校3年生段階の外国語活動ですが、授業づくりで特に意識していることは?

常名 今回取り上げたテーマや授業で出てくるごみに関する単語などはかなり難しいというのは私自身も自覚しています。登場するフレーズ自体は「This is〜」などがメインですが、子どもたちはなかなかついてくるのも難しいかな、と思ったのも正直なところです。

とは言え、私がいつも意識しているのは、“子どもたちが思考を働かせられる”学習。つまり、教室の外に出たときにも使える、話せるようになることを目的とした学習です。

英語学習でよくあるのが、教室の中では英語を話せている(ように見える)子でも、教室の外に出たら、教室で使っているのと同じフレーズであっても使えない、というケースなんです。これって本当にナンセンスなことで、せっかく教室で勉強したなら、使えるようにならないと意味がありません。

これはテーマ設定の話にもつながってきますが、社会と結びついた内容を小学校3年生であっても教室で学ばせたいと思っています。ただ頭の中で覚えたフレーズや単語を暗記して順番に言ってくのでは、コミュニケーションではないですよね。だからこそ、授業ではフレーズの練習ではなく子どもたちが互いに英語を使って話し合えるような内容になるように意識しています。

なかなか理想通りにはいかないかもしれませんが、授業の中でできるだけ「こういうときには、なんて言えばいいんだろう」と良い意味で子どもたちがコミュニケーションのフラストレーションを感じ、そこから「こういうときにはこう言えば良いんだ!」と学び、使える楽しさや喜びを体感できるようになったら良いなと思っています。

今日の授業のねらいと、工夫したポイントを教えてください。

常名 今回の授業のねらいは、大目標としては実社会で使える外国語でのコミュニケーション力を養うことです。そのためには、海洋プラスチックごみやごみ分別の方法について、授業内で英語を使って話し合う場面を意識して設けています。

また、子どもたちにとって経験はとても大切なこと。本来であれば、実際に海へ行ってごみがたくさん落ちていることを体感してもらうのが一番ですが、今回は新型コロナウイルスの影響もあって、なかなかそうはいきませんでした。子どもたちに経験・体感させる機会が減ってしまっている現在の状況を受けて、授業では教師が中田島砂丘などに足を運んで動画を撮影。授業で一緒に見るという形で少しでも経験してもらおうと工夫しています。

次時はいよいよ留学生との交流ですが、どんなねらいや目標がありますか?

常名 今回はオンラインですが、子どもたちにとって、外国人留学生の方々との交流は毎回楽しみにしている時間です。これまで学んできたフレーズを実際に使ってコミュニケーションする中で「通じた!」「相手が言っていることがわかる!」という成功体験を持つことができれば、英語学習へのモチベーションも高まると思っています。

また、外国人留学生の方々との交流の時間は英語のスキルを高めたり英語に親しんだりする以上のねらいがあります。それは、子どもたちが世界に触れ、さまざまな文化や考え方があることを学ぶ点にあります。交流の時間に協力いただいているのは、静岡大学の留学生の皆さんです。国籍は本当に様々で、インドやマレーシアなどアジア圏出身の方も多いです。

そうなると、何が起こるかというと、まず昔の英語の教科書のように“英語を話す人は欧米の人”という固定観念がなくなります。英語を母語とするネイティブの人だけでなく、第二外国語として使いこなす人もいるということを知ることができるのは大きいですね。世界中でいろいろな英語が使われている、最近で言うところの「World Englishes」というものに交流を通じて体感できるのです。英語を使う場を通じて、子どもたちが世界に興味を持つきっかけを作れればと思っています。

記者の目

取材の中で「10年先の教育を見据えて、何か提言できるものを見い出せれば」と話されていたのが印象的だった今回のインタビュー。小学校での外国語教育に関しては各現場で試行錯誤が続いている中、身近な社会問題について英語を通じて知り、解決に向けて考えていくというPBLやCLILの手法は参考になると言える。教室の中で完結するのではなく、教室の外で活きる力を養う常名教諭の取り組みは、子どもたちにとって真の意味で将来役立つ時間となるのではないだろうか。

取材・構成・文・写真:学びの場.com編集部

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