2022.02.18
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食品ロス削減へのアクション 【食と食品ロス】[中学1年・2年 社会科・家庭科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。
第181回目の単元は「食品ロス削減へのアクション」です。

授業情報

テーマ:食と食品ロス

教科:社会科・家庭科

学年:中学1年・2年 

食品ロスは、本来食べられるのに捨てられてしまう食品です。農林水産省によると、食品ロスの量は年間570万t(令和元年度推計値)。日本人の1人当たりの食品ロス量は1年で約45kg。これは日本人1人当たりが毎日お茶碗一杯分のご飯を捨てているのと近い量になります。
食品ロスの削減は、SDGsの目標12においても、「目標12 ターゲット12.3:2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる。」と示されている重要な課題です。

今回、「これからの日本の食料消費について、自分たちはどう行動すればよいのかを、資料や事例をもとに話し合うことによって今後の行動について関心をもつことができる(主体的に学習に取り組む態度)」を目標に設定して、中学校で授業を行いました。
三重県松阪市立三雲中学校の1、2年生を対象にした1時間目は体育館での合同授業、2時間目は各教室での担任の先生方による授業の様子を紹介します。

体育館での合同授業

1.食品ロスについて知っていることを話し合う

神奈川県愛川町の食品ロス削減のポスターをもとに食品ロスの問題について取り上げます。
生徒の経験や既習内容を引き出し、本時学習につなげるようにします。

・たくさんむだにしていること
・毎日おにぎり2個分を捨てている

食品ロスを減らすことが大切であることを確認します。
ここでSDGsのゴール12「つくる責任つかう責任」につながっていることについても触れました。

2.食品ロスをなくすための方法を話し合う

グループになって、買い物、保存、調理、食事の場面から食品ロスを減らすための工夫を考えるようにします。
生徒からは、「食べる量だけ買う」「残さないで食べる」「調理を工夫する」の意見が出ました。

次に、三重県の取組を紹介します。社会全体で食品ロスに取り組む必要性を確認しました。

三重県|資源循環・3R:食品ロスの削減

3.「おやさいクレヨン」について話し合う

続いて、捨てられてしまうものを活用する工夫に目を向けてもらうために「おやさいクレヨン」を取り上げます。

おやさいクレヨン動画:「おやさいクレヨン」って何!?どうして作ったの!?一人のママの想いから誕生した安心安全な日本のクレヨン!

を紹介して以下の点を確認します。

・クレヨンみたいに食べて減らせる
・やさいの食品ロスに関係ある
・自然な色が出る
・小さい子が食べてもだいじょうぶ

食品ロス削減以外の利点(食べても安全)についても着目させ、多様な価値を伴うことが大切であることに着目させます。

次の時間に取り上げる曲がったキュウリの活用につなげるために、考えの中心は、生産から流通・消費・廃棄における、生産の場面でのアイデアであることを確認します。

4.エコフィードを活用する利点について考える

三重県の食品ロスを解決する取組を紹介します。

伊勢志摩経済新聞/明野高校生と伊勢古仁屋がコラボ商品「明蕨(あけわらび)」

これは、三重県伊勢市小俣町明野の県立明野高校食品科学科の生徒3人が、地元のワラビ餅専門店「伊勢古仁(こびと)屋」(吉田仁工場長)と連携し、伊勢茶を製造する際に出る粉茶を有効活用しようと新商品「明蕨(あけわらび)」(税込み500円)を開発した事例です。
このように工夫してもどうしても出てしまう食品ロスを解決する手立てに焦点化し、エコフィードの取組として「伊勢あかりぽーく」を紹介します。
エコフィードの利点を養豚業者(飼料にかかる費用の削減、肉質の向上)、小売業者(廃棄物を処理する費用削減、SDGsの推進)について確認します。

・食べ物を大切にできる  
・エサ代が少なくなるかな  
・店から出るゴミを処分する費用が少なくなる

ここで食品ロスを削減する範囲を広げて考えることを確認した後、「スーパーでは、どうしてまっすぐなキュウリだけが売られているのだろうか」と問いかけます。

5.スーパーにはまっすぐなキュウリしかないわけを話し合う

・栄養があっておいしいから
・きれい
・見た目がいい
・運びやすい
・新鮮だから

キュウリは、1.6センチ以上曲がればB級品となり、スーパーにはほとんどA級品しか並ばないことを伝えます。
次に、流通の要望にそった箱詰めしやすい、真っ直ぐなキュウリだけが生産者に要求されること、見た目の良い、売れるキュウリだけをサイズを揃えて出荷するためであることを確認します。

教室に移動。各担任の先生が授業を担当

6.1年間に廃棄している野菜の量を知り、曲がったキュウリを廃棄せずに、活用する方法がないかを話し合う。

・漬物にする
・サラダにする
・上手に切ってまっすぐにする
・まっすぐなキュウリとあわせて売る
・コマーシャルで売る

日本では野菜の年間収穫量が約1,300万トン、そのうち200万トンは規格外の野菜として捨てられていることを伝える。
※収穫量と出荷量の差(農林水産省統計データ)

三雲中学校の生徒・教員が1日3本キュウリを食べることを仮定し、大量の廃棄物に目を向けさせます。
曲がったキュウリも栄養面からは、まっすぐなものと違いがないことを伝え、生かす工夫につなげていきます。


7.考えたアイデアを発表する

iPadで話し合った結果をもとに考えたアイデアを共有します。
これまで情報教育に先進的に取り組まれてきた中学校ですので、生徒は端末を使いこなしています。次のようなアイデアが出てきました。

〇私の班では「きゅうり専門店をつくる」という活用方法がでました。そのきゅうり専門店ではいつも家庭で食べているような漬物や「無限きゅうり」というレシピから、マカロニやスムージーなどの食べたことのない食品にするという幅広いものです。曲がったきゅうりに抵抗はないし、おいしく食べられたらいいと思いました。

クックパッド(レシピ検索サイト)や学校給食の献立例、八百屋『旬八青果店』の取組例をもとに食品ロス削減に挑む人たちの姿に触れ、削減への意欲を高めるようにします。発表したアイデアをメリット・デメリットの視点からも話し合います。
「おやさいクレヨン」の提案と共通する視点、アイデアや発想が社会の問題を解決することにつながっていくことに気付かせます。食品ロスをなくしていくためには、それぞれの立場でできることがあることを実感できたようです。

8.今日の学習を振り返る

「今日の学習は役に立ちましたか。これからの生活に活かしていけることについて、自分の考えを書きましょう」の問いかけに生徒は次のように答えてくれました。

〇役に立った。私はあまりショッピングセンターできゅうりを買うことが少なく、おばあちゃんが育ててくれていて、形が変わったきゅうりなど、おばあちゃんたちが食べていて私の家にはまっすぐなきゅうりを届けてくれています。一人一人畑で野菜を育てる事はとても難しいことなので、私もおばあちゃんが作ってくれた野菜を大切に食べたいと思いました。食品ロスを減らすには、一人ひとりの力が必要で給食でもあまり残らないようにちゃんと食べたいと思いました。また廃棄されそうな野菜を使ったクレヨンなどの加工品をショッピングセンターで見つけたら親戚の子の誕生日プレゼントしてプレゼントしてあげたいです。

〇私もSDGsについて社会科の方で考えたことはあるけど、今回改めて食品ロスについてその深刻さが分かりました。私たちができることは、例えば給食で出てきたものは残さず食べる、わかっていたら傷が付いていたりしている規格外野菜を買う、飼料にするなどの工夫ができると思いました。たくさん工夫をして食品ロスをなくしていきたいと思います。私は少しだけ好き嫌いがあるのでなくしていきたいです。たくさんのアイデアレシピを作れたらうれしいです。

授業の展開例

〇自分たちの地域の食品ロス削減やエコフィードの取組を調べてみましょう。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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