2019.01.23
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美術教育を考える(3) ~授業実践リポート~(鑑賞・前編)

美術教育と芸術文化とを一体的に考えるという観点から、当企画では「美術教育と文化の関係」をテーマとして、基本的な考え方や実践例をわかりやすく伝え、より多くの教育関係者に、美術教育の意義を理解していただくために、研究や実践に携わる3名の先生による連載記事を掲載します。
今回は、鎌倉市立岩瀬中学校の鈴野江里総括教諭に、美術教育(鑑賞領域)について解説いただきます。

<中学校教育における「鑑賞の能力」について>

学年・教科:中学校1~3年 美術
単元:「美しいものあつめ」長期休業課題+1時間
目標:身の回りにある自然物や人工物の形や色彩などから、そのよさや美しさを感じ取り、自分の思いや考えをもって味わう。
指導者:鈴野 江里 教諭
使用教材・教具:スケッチブック、ワークシート、モニター、実物投影機。

■中学校の「鑑賞」って何?

一般的に「鑑賞」というと、美術作品などを見たり聞いたりして、それが表現しようとすることをつかみとり、よさを味わうことを言いますが、中学校の美術教育における「鑑賞」は、美術作品を鑑賞するだけではありません。
生活の中にある美術の機能について鑑賞したり、自然の美しさや先人の英知に触れたりすることも鑑賞の活動とされています。

本校では、「美しいものあつめ」という鑑賞の課題を全学年で実施しています。具体的にはB6サイズのスケッチブックに自分が美しいと感じたものを綴っていく「ポートフォリオ学習」です。この活動を通して身の回りにある自然や生活の中にある形や色彩、光や素材などがもたらす美しさに気付き、美術が私たちの生活を豊かにしていること、自分たちの生活を豊かにできることを実感してほしいと思っています。

四季折々の美しさにも着目してほしいので、この課題を夏・冬・春の長期休業期間に位置付け、1年生の夏から3年生の夏まで計7回継続して実施しています。

■課題「美しいものあつめ(夏休み編)」の実例

本校3年に在籍するSさんが1年生の時に行った「美しいものあつめ(夏休み編)」をいくつか紹介します。Sさんは、「1日ひとつ美しいものを探す」というルールを自分で作り、夏休み前から始めて57日間、毎日「美しいものあつめ」をしていました。

1日目〜20日目

1日目〜20日目
~身近なものの美しさに気づく~
身近にあったマスキングテープの柄に注目して、その形や色彩の特徴や自分が感じるよさをつづっています。テープの貼り方も最初はただ貼るだけでしたが、日が経つに連れ、形を工夫して貼る様子が見られました。

21日目

21日目
~偶然の形と素材の美しさに気づく~
外食先で、割りばしを割ったときに偶然できた破片の形が美しいと感じ、持ち帰ってきたという記述から始まり、形の美しさだけでなく、素材のもつ美しさにも触れていました。

37日目

37日目
~自然の中にみられる美しさに気づく~
夏休みも中盤になり、外出先や旅行先で見つけた美しいものを集めるようになりました。人工的な美しさから、自然がつくる美しさに目を留め、その形や色彩のよさについて触れる記述がみられました。

45日目

45日目
~日本や諸外国の美しさ~
夏休み後半、40日目あたりから、雑誌や広告の中にある美しい風景や物などに注目し、集める様子が見られました。国内外の建物などの様式の違いや色使いに注目するなど、比較する記述もいつくか見られました。

Sさんの考察

【Sさんの考察】
わざわざ世界旅行なんかに行かなくとも、家の中に居るだけで、一つは“美しいもの”が見つかる。“美しいもの”は、あまり日々自分自身が気に留めていないだけで、よく周囲を見ると、たくさんの“美しいもの”に包まれているんだ、と思った。

■相互鑑賞の時間

各学期の最初の授業で「美しいものあつめ」の報告会という名称で、相互鑑賞の時間を設けています。3~4人のグループで一人ひとりが自分のポートフォリオを見せながら発表し、聞き手の生徒は共感や質問を繰り返します。

この活動で注意していることは「美しい」は“主観である”ということです。自分と違った感じ方や考え方を認め合うこと、その違いから新たな見方や考え方を知ることで、豊かな感性が育まれていくからです。すべての発表を終えたら、グループの発表の中から「最も美しいと思った1つ」を選出し、グループの代表が全体の前で発表をします。集めたものが小さいので、実物投影機を使ってモニターに映し出して観賞します。すべてのグループの発表が終了したら、クラス全員でそれぞれが集めたものを相互鑑賞します。

この題材を3年間継続して行うことで、表現の活動と観賞の活動の関連性に生徒自身が気づき、主体的に鑑賞活動を行ったり、表現する題材において、「美しいものあつめ」のページをめくりながら発想したりする姿が見られたりと、発想や構想の場面でつまずく生徒が少なくなりました。また、生活と美術の密接な関わりと重要性に気付き、美術を愛好する心情が育っていく姿も見られました。
後編では、中学校の美術教育における「鑑賞」について解説します。

鈴野 江里(すずの えり)

鎌倉市立岩瀬中学校 総括教諭
教員13年目。横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉中学校を経て現職。中学校学習指導要領実施状況調査作問・分析委員。子どもが主体的に学ぶことのできる授業を目指し、日々授業改善に励んでいる。

企画:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 平野智紀
文・写真:鎌倉市立岩瀬中学校 教諭 鈴野江里

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