2019.01.23
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美術教育を考える(4) ~授業実践リポート~(鑑賞・後編)

美術教育と芸術文化とを一体的に考えるという観点から、当企画では「美術教育と文化の関係」をテーマとして、基本的な考え方や実践例をわかりやすく伝え、より多くの教育関係者に、美術教育の意義を理解していただくために、研究や実践に携わる3名の先生による連載記事を掲載します。
前編に引き続き、鎌倉市立岩瀬中学校の鈴野江里総括教諭に、美術教育(鑑賞領域)について解説いただきます。

<中学校における「鑑賞」とは>

中学校における「鑑賞」は、単に知識が定まった作品の価値を学ぶだけの学習ではなく、知識なども活用しながら自分の中に新しい価値を作り出す学習です。生徒が自分一人では気づくことができない多様な見方や感じ方ができるよう、鑑賞活動の工夫が求められています。 また、表現の学習と関連させながら、発想や構想をする学習に結び付けるなどして見方や感じ方を深め、鑑賞に関する資質・能力を一層高めていくことも大切です。

2021年度より全面実施される新学習指導要領(平成29年告示)の「鑑賞の活動」に示されている内容を要約すると次のようになります。

  1. 美術作品を鑑賞する中で感じ方や見方を深める活動をする。その中で、「作者の心情や表現の意図や工夫などについて考える活動」と、「目的や機能をもった作品などから表現の意図や工夫などを感じ取る活動」の2つを行う。
  2. 生活や社会を美しく豊にする美術の働きについて考える活動を行う。
  3. 3日本や諸外国の美術や美術文化の相違点・共通点に気付き、美術を通した国際理解と文化を継承する活動を行う。


学習指導要領を改訂する際のエビデンスとして、平成25年度に国立教育政策研究所が「中学校学習指導要領実施状況調査」を実施しています。平成30年に出された報告書によると、「鑑賞の能力に関して『具象性の高いものなど、視覚的に捉えやすいものから特徴や表現の効果を捉えることや、感覚的に形や色彩の特徴や感情の効果、対象のイメージなどを捉えること』は相当数の生徒ができているが、『自然や身近な環境に見られる様々な形や色彩の造形的な特徴や、季節のイメージなど抽象性の高い表現を捉えること』については、課題と指摘される事項である」と記されています。また、日本の美術作品及び諸外国の美術作品に関する表現方法の多様性や相違について理解することにも課題があると記されています。
これまでの鑑賞活動で培ってきた、自分の見方や感じ方を一層深めていくためには、生徒同士で発表しあうなどして、自分の気付かなかった作品のよさを発見したり、自分の感じたことや考えたことについて根拠を明らかにして述べたりするなどの「学習活動の工夫」が重要になってきます。

<中学校教育における「美術科の評価」について>

■評価ってどうなっているの?

現行の学習指導要領では、すべての教科で育成すべき資質・能力は4つ(国語は5つ)の観点に分類され、観点ごとの達成度をABCで評価し、評価を数値化したものを5段階で表しています。 
それぞれの教科によって具体的な名称は異なりますが、「①関心・意欲・態度に関すること」、「②思考力・判断力・表現力に関すること」、「③技能・表現に関すること」、「④知識・理解に関すること」の4つ観点で評価しています。評価の基準については、概ね満足できる状況をB、概ね満足できるものの中でも程度の高い状況(十分満足できる状況)と判断されるものをA、努力を必要とする状況と判断されるものをCとしています。
現行の「学習指導要領 美術科」において特筆すべき点は、「④知識・理解に関すること」に「鑑賞の能力」が位置付けられていることです。鑑賞の能力については前項にて触れていますが、知識の習得のみにとどまらず、知識を活用しながら自分の中に新しい価値を作り出す学習活動の中で鑑賞の能力の達成状況を見取ります。 新学習指導要領(平成29年告示)では、知識・理解の捉え方が変化しますが、共通していることは、単純に新たな事柄として知ることや言葉を暗記するだけではなく、学習過程を通して実感を伴いながら理解を深めたり知識が再構築されたりする中で「生きて働く知識」でなければならないということです。
私は「知識」を次の図1のように捉えています。
知識はそれぞれの資質・能力の土台のようなもので、表現の活動にも鑑賞の活動にも共通して働くことで知識が体系化され、実感を伴ったものになると考えています。

図1

■「美しいものあつめ」はどのように評価されているのか?

前項で紹介した「美しいものあつめ」を例にすると、クラスごとに相互鑑賞を行った後、ワークシートに、生徒自身が感じとったことや考えたことを記述し、その内容を評価しています。
自分がどのような視点で美しいものを集めたか、集めたものに共通点があるかなど、自分自身の活動を振り返る内容と、クラスメイトの発表や集めたものを観賞する中で見つけた相違点や共通点など、自分にはなかった視点や新たな発見を言葉で表現する内容の2つの項目について記述し、これらの内容を「観賞の能力」として評価します。(写真1~4参照)

  • 写真1

  • 写真2

  • 写真3

  • 写真4

記述の中で形や色彩、素材や光などのイメージや効果を通して「美しいもの」のよさや美しさが明らかになっていきます。ここでは既存の知識が、自らの考えの根拠となります。これは鑑賞の活動のみならず、表現の活動においても同様で、知識は表現活動の中で活用されることで、はじめて能力として発揮されます。 新学習指導要領(平成29年告示)では、知識の習得に関わる具体の事項を[共通事項]に表し、表現と鑑賞それぞれに関わる共通の視点として位置づけています。

<美術の授業が大切な理由>

知識を理解すれば問に答えられる時代は終わりを告げようとしています。習得した知識を課題に応じて活用し、自分なりに答えを出していく。ゴールにたどり着く道は、子どもたち自身が考え決めていく。そういった学びの時代がやってきます。
3年間、「美しいものあつめ」を続けたSさんは、その成果を次のように語っています。

〇授業で作品をつくる上でアイデアの引き出しはもちろん、テストの鑑賞問題を解くヒントにもなった。また、国語の作文など、文を書くとき比喩表現を考える上での言葉の引き出しも増えたと思う。
〇周りを見る目が、より景色やデザイン、形といったものにいくようになった。「美しい」ということについてものすごく考えさせられたし、制作する時に様々な視点から考えられるようになったと思う。
〇“自分の好きなことであれば三日坊主にならない”ことの証明になった。3年間続けてきてよかった。

美術の授業は、自分の考えたことや感じたことを、これまでの経験や知識を活用し、自分なりの答えを作品や文章等で表現する活動です。このような活動を中心に授業を進めているのは、9教科の中でも美術科だけです。
1980年に発行された『少年の美術』(現代美術社)で、彫刻家・佐藤忠良は次のような言葉を残しています。

「芸術というものは、科学技術とちがって環境をかえることはできないものです。しかし、その環境に対する心を変えることはできるのです。ものを変えることのできないものなど、役に立たないむだなものだと思っている人もいるでしょう。ところが、この直接役に立たないものが、心のビタミンのようなもので、しらずしらずのうちに、私たちの心の中で蓄積されて、感ずる心を育てるのです。」
引用文献:佐藤忠良『少年の美術』(現代美術社、1980年)

発刊から39年経った今でも色あせることなく、美術教育の重要性を語っていると感じています。
美術の授業は、これからを生きる子どもたちにとって、なくてはならない大切な教科なのです。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

鈴野 江里(すずの えり)

鎌倉市立岩瀬中学校 総括教諭
教員13年目。横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉中学校を経て現職。中学校学習指導要領実施状況調査作問・分析委員。子どもが主体的に学ぶことのできる授業を目指し、日々授業改善に励んでいる。

企画:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 平野智紀
文・写真:鎌倉市立岩瀬中学校 教諭 鈴野江里

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