2016.08.01
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新任あるある Vol.7「子どもがわくわくする授業を!」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 夏休みに入り、少し気分も楽になったのではないでしょうか。プール当番や補習、個人面談などの予定はあっても、一日中授業を行っている時と比べれば、心も身体もリラックスできると思います。9月に向けて、十分に英気を養っていきましょう。

 

 さて、前回、子どもたちに学習に対するモチベーションを高めることが大切であるというお話をさせていただきました。そして、そのためには必然性のある場面を設定したり、達成感を味わわせたりすることが大切ではないかということにも触れました。

 私が大学を卒業してすぐに勤めた学校では、理科の授業研究を行っていました。最初に子どもの興味を引きつける場面を提示することによって、動機付けをしようという研究です。その数年後には、算数の教材を工夫することによって、モチベーションを保持していこうという研究を行いました。動機付けが研究の対象になるということは、子どもたちのやる気を引き出すためには意識的な働きかけが必要だということを、誰もが認めている証だと思います。

 現在でも、そういった技法は様々な教科に活かされています。子どもたちがびっくりするような実験を見せることができれば、自分もやってみたいという思いは強くなるでしょう。子どもたちが不思議に思うような教具を見せれば、どうしてそうなるのかを知りたいという気持ちを高めることができます。子どもたちのワクワクした気持ちは、主体的な学習に繋がっているのです。

 しかし、毎日の授業のすべてにおいて、教材教具の工夫をする時間的な余裕はありません。ですから、ときにはもっとシンプルな方法でも十分だと思っています。毎日5~6時間も授業をするのに、毎回びっくりするような仕掛けを用意するのは不可能ですし、子どもがそれを望んでいるとは思えないからです。

 

 あるとき、2年生の算数で長さの授業をすることになりました。その際には、教材の工夫ではなく、場面設定の工夫を行いました。その授業を例にとってみます。

 この単元では、自分なりの定規を作って測定したとしても、友達と比較すると長さが異なってしまうので、センチメートルやメートルを使うことが便利であると気付くように仕向けていきます。しかし、「自分で定規を作る」「友達と比べる」「センチメートル(普遍単位)の有用性に気付く」という流れでは、面白みがありません。そこで物語を考え、その中で活動させてはどうかという話になり、以下のような授業を行いました。

 「イベントで大量のチュロス(細長いパン)が必要になったので、多くのパン工場に注文を出しました。親指と人差し指を広げて作る長さの3つ分で作るようにお願いしました。」

 この話を基に、子どもたちはグループを作り、それぞれがパン工場を担います。そして、自分の手で長さを想定してチュロスを作ってみます。ところが、各工場が作った製品を並べてみると、長さが異なってしまい売り物にはなりません。話し合ったり、意見を出し合ったりすることによって、売り物になるような規格品を作るためには、普遍単位が必要であることに気付くことができました。担任が表現豊かに物語の中に子どもを引き込んだので、子どもたちが最後まで意欲を維持したまま楽しい学習を行うことができました。

 

 もうひとつは音楽の授業例です。これは課題にひねりを加えることによって子どもたちのやる気を引き出し、達成感を味わわせることができた例です。

 音楽でリズム打ちをしている場面を思い浮かべてください。4つの拍の中で、教師がリズムを手拍子します。子どもはそれを見たり聞いたりして真似をします。こういった学習は、低学年の子どもたちが大好きです。しかし、それをずっと続けていると、飽きてしまいます。

 そういったときには長さを8拍に増やすとか、難しいリズムを加えるといった手法をとります。私は教師が手を打っている様子を見せないようにして、耳だけで聞き取るようにさせたことがあります。耳だけで聞き取るのは、集中力や記憶力をフル活動させなければならないので、子どもにとってはワンランク上の課題として受け取られるようです。それが成功することによって、達成感を味わうことができた例です。

 ところで、リズム打ちをさせるときには手を使うことが一般的ですが、鉛筆の削っていない方を下にして物を書くときと同様に持ち、机の上で打つという方法があります。これは、手を打つよりも注意深く行う必要があるので、高学年に相応しい方法です。右手と左手の両方に鉛筆を持って、輪唱のようにリズム打を追いかけっこさせるやり方は非常に難しい課題ですが、何人かの子どもたちはその習得に夢中になります。

 若い先生たちは、教師になった途端にとても忙しくて、自分の興味のある研修を受ける余裕がないように見受けられます。しかし、若いときの学びは、後で振り返ってみるとかけがえのないものになります。どうぞ、時間の都合をつけて、学び続けてください。そういった学びがないと、授業にバリエーションをもたせられないばかりか、子どもたちの興味に応じた発展的な内容も教えることが難しいものとなってしまいます。

 

 最後に、とても嬉しかった出来事をお伝えします。ある学校の、初任の先生の研究授業を参観させてもらう機会がありました。その先生は遅くまで授業技術を磨くために、練習を積んだそうです。その成果が上がり、子どもたちと呼吸を合わせて、とてもいい授業を行っていました。自分にもこういう授業ができるということ、この一瞬の心地よさを一生忘れないようにしてほしいという感想を伝えました。

 別の初任の先生からも、嬉しい話を聞くことができました。どのようなときに教師のやりがいを感じるのかと質問したところ、「子どもたちがちょっと難しいと思うような問題を出したときに、子どもが夢中になって問題に取り組んでいるのを見るのが楽しい」という返事をもらいました。子どもたちの集団の能力を見極め、それに相応しい課題を提示していくのは、ベテランであっても難しいと思うことがあります。さらに学習のバリエーションを豊かにするために、学びを続けてほしいと話しました。

 

 各地で夏祭りのシーズンが始まります。旅行をしたり、帰省したりと楽しいイベントがある一方で、暑さが最も厳しい時季でもあります。くれぐれもお身体を大事にしてお過ごしください。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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