今年度は、14年ぶりの1年生担任です。特に、去年度、一昨年度と連続して6年生担任でした。何でも初めての1年生。できないことばかり。こんなこともできないんだったっけ、と再確認することもしばしばだった4月でした。
小さな背、手のひら、かわいい声。「まついけいこ先生!あのね!」「まついけいこ先生!」先生への声が教室に響きます。
かわいい1年生ですが、小学生です。幼稚園・保育園で3月まで年長さんとして、お兄さんお姉さんの役割を果たしてきたはずです。それを、小学校に入学したとたん、一番小さな学年になるからと、小さい子扱いする場面が見られることがあり、私は気になっていました。教師が、小さい子扱いする場面です。もちろん、6年生と同じ扱いをするということではありません。
小さくてつたない表現だけど、1人の人間としての確固たる人格が、あります。
題名の言葉と写真の手紙は、入学して2週間も過ぎない頃、家庭訪問の時に、今、受け持っている1年生からもらった手紙です。つたない表現ですが、その感性と価値観に目を見張りました。
1年生ですが、担任が何に価値をおいているのかを、敏感に感じ取っているのです。
私は、「笑顔で」育てること、「笑顔を」育てることを大切に思っています。「せんせいがわらうからわたしもたのしくなってきます」は、まさしく、私の価値を感じ取っています。
さらに、それに対して、「ありがとう」という言葉。
入学式の次の日、黒板にはじめに書いた言葉は「ありがとう」でした。
「先生は、この言葉が一番好きです。ありがとうは、幸せを呼びます。ありがとうでいっぱいの教室にしていきましょうね。」
先生が笑うことにありがとうと言える1年生。この価値を、私たち教師は敏感に感じ取る必要があります。私たち教師は、子どもの人格の完成を願い、全教育活動を営むからです。
正直に、一生懸命に、やさしい心で動こう
私の考える1年生の目標です。ですがこの目標は、6年生をもったときも、価値観を深めはしますが、根本は同じ内容です。
入学してすぐ、元気な男の子達の小競り合いがあります。
「何もしてないのに、○○君が押してきた。」「いや、先に△△君が押してきたから!」
怒られまいと、防衛本能が働きます。
さあ、勝負の時です。
しっかり事情を聞いたあと、
「正直が一番大事です。正直な自分になれば、次の自分になっていけるよ。心が一番大事だよ。」
教室の中で、大勢の目があり、素直になれないこともあります。かといって、特別教室で二人きりになるのは、威圧的すぎたりします。ある程度、開放的な場所で、でも一対一になれる空間をつくります。膝をついて、子どもの目線に私の目を合わせて、話す。
いつでも頭ごなしに指導をするのでは、子どもは、自分で考えようとしなくなります。誰かのせいばかりにします。それは、学年が違っても同じこと。たとえ、1年生でも、先生のものの見方、価値観を子どもは感じ取るのです。
「先生は、何が一番大事って言ってる?」
「心」
「そう、心が大事。今は、正直な心が大事だよ。」
「うん。・・・ぼくも、押した。」
そのいきさつも話してくれました。
「じゃあ、言葉で伝えようね。押したり叩いたりは、傷つくだけで、何も伝わらなかったね。言葉で伝えることが大事だね。」
余談ですが、私は、1年生担任になってからは、髪の毛を後ろに一つに束ねています。子どもに話す時に、表情がよく見えるようにするためです。髪の毛が顔を隠すと、暗い印象にもなりがちです。担任と子どもの関係が成り立ったらその必要もないかもしれませんが、今は、担任の表情がよく見えることは大切だと思うからです。
あなたのパワーは、誰かのためにつかうんだよ。
どのクラスにも、元気な男の子がいます。動きの激しい子がいます。授業のマナーを教えることや人を傷つけることについては厳しく指導する必要がありますが、「~してはいけません」ばかりの指導になってしまうことありませんか?
「あなたは、力持ちだね。いっぱい気がつくし、元気なパワーがいっぱいだね。その力を、だれかを助けるためにつかってごらん。すると、自分も幸せな気持ちになっていくよ。」
もちろん、難しいこととは承知です。だから、具体的にも、指示を出し経験させます。
「バケツの水、かえて来てくれる?」「このノート配ることできる?」
すると自然に誰かのために動くようになります。本校では、水筒を、異物混入をふせぐため、蓋付きの衣装ケースに教室でまとめていれているのですが、帰りの用意をする際、取り忘れている水筒を、配ってくれるようになりました。給食で誰かがこぼしたら、すぐに拭いてくれる姿も。
パワーの出し方を教えていくことと、人を傷つける言動について厳しく指導することの両輪が大事でしょう。
家庭訪問で迷惑をかけていないかと心配される男の子のお母さんに「この子はパワーがいっぱいある子なんです。そのパワーを、そのままにしておくのか、人のために動こうとするリーダー的な方向にもっていくか、どちらにもっていくかが大事だと思っています。」と申し上げると、涙を流されていました。(感じ取ってくれる保護者の方にも感謝です)
誰かのためにがんばってくれた子には、必ず私が「ありがとう」と言います。そして、クラス全体にも報告をします。
難しくてもこのフレーズは、1年かけて言い続けるつもりです。
「あなたの力を誰かのために使いなさい。」
細胞のどこかに、どうか、残っていくようにと祈りながら。
自分だけが幸せは、本当に幸せじゃない。みんなも幸せが、本当の幸せ。世界は貢献で成り立っています。1年生という小さな学年でも、その価値観を身につけさせていきたいです。
整然としていることに価値があるのではない。
行動に意味があることに価値をおく
入学から2日目の朝、自分の席に座っている子ばかりの教室で、1人の女の子がうろうろ。よく見ていると、ランドセルから教科書をだして机の中に入れるという一連の作業が苦手な子を手伝ってくれているのです。
給食指導が始まると、1年生の教室は一挙にドタバタモードになります。整然と静かに速やかに、給食準備や後始末ができることが目標ですが、よく観察してみてください。意味のある行動をしている子達がたくさんいます。
給食台を用意し、除菌シートで拭いてくれる子。給食が終わったら、牛乳パックを水洗いし、開いてたたむという作業があるのですが、その指導を全員座らせてしていたとき、私が個人個人に指導をして回っていたら、他のところでも、できた子達が、教えに回っています。
どの場合も、大きな声で言います!「座りなさい!」ではありませんよ。「ありがとう!!」と伝えるのです。そして、なぜ、ありがとうなのかを、全体にも説明し、価値づけます。
しかも牛乳パックの後処理を、手伝っている女の子たちは、全てやってあげるではなく、「ここをこうするよ。自分でできるようになることが大事だから、全部やってあげたらあかんよ。」と言い合って、手伝っているのです。お家での経験、保育園や幼稚園での経験が積み上がっているからこその言葉です。
1年生は、小学校の中では一番小さな学年です。ですが、入学するまでに得た経験と価値観と人格が必ずあります。教師が整然としたしつけ面ばかりに捕らわれていては、その経験と価値観をつぶすことにもなりかねません。
教師から発信する指導においても、「行動に価値をおく意識」を大切にします。
初めての体育館での体育。教室から体育館へ移動する時も、静かにろうかを歩いて移動しなければなりません。なぜかを1年生にお話します。
「静かにろうかを歩く理由は二つです。1つめは他のクラスは、授業をしているからです。2つめは、落ち着いた心で歩いていくことが、運動をするときにけがになりにくい心になるからです。特に2つめが大事です。」
そういって、出発。でもやっぱり少しのおしゃべりや、ちょっとだけざわつく歩き方に。そんな時は、もう一度、教室にもどってやり直し。「少しくらい、いいかなという心が、けがにつながります。落ち着く心が大事だから、やり直しをします。」と理由をいってやり直し。3回やり直しをしました。
「静かにしなさい!」という整然としていることに価値をおいた指導ではありません。なぜ、静かに歩くのかという行動の意味を説くことが、何事にも初めての1年生には特に大事でしょう。
管理ではなく、育てるという意識、そして指導ではなく伸ばすという意識。
どの学年でも、もちろん1年生でも、教師の意識が大切です。

松井 恵子(まつい けいこ)
兵庫県公立小学校勤務
兵庫県授業改善促進のためのDVD授業において算数科の授業を担当。平成27年度兵庫県優秀教職員表彰受賞。算数実践全国発表、視聴覚教材コンクール特選受賞等、情熱で実践を積み上げる、ママさん研究主任です。
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