2016.04.25
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新任あるあるVol.2 「表情をよく考えて…」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

  熊本を中心として、九州各地に甚大な被害を与える地震が発生しました。心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復興をお祈りいたします。

 そのような中での投稿で、普段と異なる内容にすべきかどうかと悩みましたが、まずは自分の務めを果たすことが大切であると考えました。普段通りに、教育に関する情報を提供していくことによって、エネルギーを送りたいと思います。

 

 新学期が始まり、3週間が経とうとしています。私が疲れを感じ始めるのは、いつもこの頃です。緊張の糸が緩む時期でもあるのだと思います。季節の変わり目で、気温の変化の大きい時季でもありますから、体調を整えることを最優先にしていきましょう。

 人は、疲れているときには、身体だけでなく心も余裕をなくします。子どもがいたずらをしたときに、普段なら淡々と注意をすることができるのに、余裕がないときにはつい大声を出してしまいます。このように大人がイライラしていると、それは子どもにも伝搬するのです。前にもお伝えしましたが、体調を維持するには自分が美味しいと思える物を食べ、よく眠ることが大切です。ゴールデンウィークを上手に活用して、心身共にリフレッシュしてください。

 

 ところで、前回から「新任あるある」というテーマで書き始めました。新年度に当って新しいテーマにしたいと考えていましたが、初回を書いていたのは卒業式直後で、私の頭もかなり疲れていたのだと思います。書こうとすることのベクトルの向きが定まりきれていなかったので、改めて少し説明させてください。

 夏目漱石の「坊ちゃん」の中で、坊ちゃんが松山に赴任したときに、校長が「教師は生徒の模範とならなければならない」といった話をします。主人公の坊ちゃんは、「そんなことは無理だ」と仕事を辞めて東京に戻ろうとまで考えます。私とて、いつも模範となるのは無理だと思います。

 しかし、子どもは傍にいる大人の仕草や言葉を見て育ちます。そして、真似るのです。ですから、欠点や苦手なところがあったとしても、教師は子どもの手本となる努力をすべきだと思います。もちろん、今の小学生は、楽器をやらせてもスポーツをやらせても上手であることが多く、その全てにおいて教師が手本を示すことはできません。でも、相手の気持ちや身体を大事に思い、美しい仕草で、よい言葉遣いをすることに関しては、手本となることができるはずです。

 今期は、そういった社会生活に欠かせないスキルを身に付けることができるよう、具体的な例を挙げてお話ししていこうと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 さて本題です。私が初任の頃には、先生や先輩からよく面白い話を聞かされたものです。例えば、日本人は外国の人から話しかけられると、言葉がわからない故に笑みで返すことがあるけど、それはとても危険だというような話です。微笑みを返すと、相手は承諾したものと誤解するので慎むようにという戒めでした。最近では外国の方と触れ合う機会も増え、言葉もよく通じるようになっているので、そういった危険性は低くなっているのかもしれません。

 ところで、会話の中で意味もなく微笑んで返す若手を、最近よく目にします。同じ職場の仲間であっても、私との年齢差が20歳以上の親子のような関係になることも珍しくありません。ですから、若い人から見れば、どのように返事をしていいのかと、戸惑うこともあるのだろうと思います。しかし、私が足を怪我したとぼやいているようなときに、笑顔を返されてもいい気分はしません。「お大事にしてください」と言ってくれるだけで十分なのにと思います。このように、相手を心配する気持ちはあっても、表現するスキルが低いのではないかと感じています。

 

 私が小さい頃、親が近所の人と挨拶をするときには、一言添えるのが一般的でした。「こんにちは、今年の桜は見事でしたね」とか、「おはようございます。今日は雨で寒いですね。身体をお大事にしてくださいね」などです。他愛もない季節の変化や体調を気遣う言葉によって、場の空気が温かくなったのを記憶しています。そういったやりとりを聞いて育っていないと、会話のやりとりがわからないのかもしれません。

 もうひとつ考えられることは、不安が高じてつい笑ってしまうということです。子どもの中にも、緊張のあまりに笑ってしまう姿を見ることがあります。不慣れなことや苦手と思うことをやるときに、自分の意図しない表情をしてしまうのです。

 このように、つい笑ってしまうということの理由が本人自身にあったとしても、相手にとっては意外な表情を返されたということでしかありません。人の話を聞いていないのだろうか、あるいは意味を理解できていないのだろうかといった印象を与えることにもなりかねないのです。本人の意図とは別な印象を与えてしまうとすれば、対策を考える必要があると思います。

 

 相手の言っていることがわからなければ、「もう一度お願いします」と聞き直せばいいし、「よくわかりません」と伝えてもいいのです。先輩に質問することは、決して恥ずかしいことではありません。そう言われた相手は、もっと噛み砕いて丁寧に教えてくれるはずです。あるいは、他の人たちがどのような返し方をしているのかを観察することも、やりとりを学ぶ早道となります。

 一方、不安や緊張が原因であるならば、練習することによって適切な表情を作ることができるようになります。例えば、卒業証書を受け取るような場面では、誰しも緊張します。その緊張感を少しでも和らげることができる対策は、繰り返しの練習しかありません。それは、ピアノの発表会や、スポーツの試合に備えることと同じです。練習によって自信がつき、思いもよらないような表情や仕草をすることを制御することができるようになるのです。

 

 以前、友人との会話をビデオに撮ってもらったことがあります。撮影後、一緒にビデオを見ていた友人に痛い指摘を受けたことがありました。好印象を与えようとする気持ちが先立ち、真剣な内容であるにもかかわらず笑みで返していたのは、違和感があると言われました。本当にその通りだと反省しました。

 大人になってから、他人の表情に意見するというのは、かなり勇気のいるものです。まずは自分自身で表情を振り返り、子どもたちに話す内容と表情が一致しているかどうかを考えてみましょう。私たち教師は、「キスシーンのない俳優」でなければならないのです。このセリフも先輩からの受け売りです。 

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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