2016.04.26
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失敗から学ぶ!アクティブラーニング型授業で大切なこと(数学)前編

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

1、こうすればうまくいくという魔法はない


 1年あまり前に、教科でのキャリア教育~数学の授業での取り組み~
 として、数学の授業での取り組みを報告させていただきました。
 https://www.manabinoba.com/index.cfm/8,21741,21,185,html

 その中で、「人に自分のわかっていることを伝える力」「自学自習できる力」
 などを育てたいという思いから、私が説明する時間を減らし、グループで
 学びあう時間を十分確保するスタイルに授業を変えたということを書きました。
 いわゆるアクティブラーニング型授業です。

 アンケートをとると90%以上の生徒が「グループ学習は続けてほしい」
 と答えてくれ、「ついた力」を聞くと、「教科書を読み自分で理解する力」
「人に伝える力」「人に聞く力」など、一斉講義中心ではつかなかっただろう
 力をこたえてくれました。何より授業中の生徒たちの学びに向かう姿勢が向上しました。

 しかしこうすれば授業がうまくいくという魔法はありません。
 一斉講義でも日によって、クラスによって生徒の反応が違うのと同じように、
 アクティブラーニング型にしても、上手くいく日ばかりではありません。

 アクティブラーニングという言葉が広がりだしてから、「こうすればうまくいく!」
「こうすれば上手くいった!」という成功実践は多く見るようになりました。
 その反面、「こんな失敗をした!」ということはあまり目にしません。
 しかし実は失敗からこそ学ぶことは多いように思います。

 今回はアクティブラーニング型授業の失敗例について紹介したいと思います。

 


2、生徒の学びが見えるのは、しんどいときもある

 

 対数(log)を文系の生徒に教えていた時のことです。
 桁数を求めるという、どの教科書にも載っている典型的な
 問題を扱う日でした。6時間目の授業で、今思うと生徒たちの
 雰囲気はイマイチだったのですが、いつものように短めに
 レクチャーしてから、グループにしました。

 そうすると、さらっと解けるだろうと想定していた問題で
 多くの生徒が悩み始めました。そして無駄話をするグループも
 あらわれました。
 無駄話をしていたグループには注意をし、少しイライラしながら巡回
 していると、ある女子生徒が質問してきました。
「自力で教科書を読めてほしい」という思いと、「個別対応
 しすぎると結局生徒は教師に頼ってしまう」との思いから、
「もう一度教科書をよく読んで自分でやるように」と言いました。
 生徒は明らかにむっとして、「本当にわからないんです。
 同じグループの人もみんなできてないし」と言いました。 

 今振り返ると、およそ70%の生徒にとっては少しハードルの高い
 問題でした。そしてだれている生徒もいましたが、
 必死にやろうとしている生徒の方が多数でした。
 しかし自分の中ではショックが大きく、グループでの学びあいに
 確信を持てなくなったのも事実でした。

 次の時間、授業のほとんどを講義型の一斉授業にしました。
 スムーズに授業が進んだように思いました。

 グループにすると、一斉授業のときと比べて、個々の生徒の
 学んでいる様子が圧倒的によく見えます。それはいいことです。
 しかし、学びの様子が見えるからしんどクあるときもあること、
 そして数人の学ばない様子にふりまわされてしまうこともあること、
 そんなことを学んだように思います。
 
 実際、講義型で授業をしたときはスムーズに授業ができ、
 生徒たちはよく学んでいるように見えました。
 しかし確認テストをすると定着度は予想以上に
 低いものでした。実は一斉授業では生徒の学ぶ様子が
 よく見えていないということに気がついた瞬間でもありました。

 

3、数々の失敗、ここから学べることは?
 


 他にも「上手くいかなかったなあ」と思う授業は多数あります。
 その授業で起こったことをいくつか書きます。

・ノルマをこなしたあと、他の生徒に教えることもせず
 おしゃべりする生徒たちがあらわれる。

・ふりかえりの時間を確保できない。

・ふりかえりで生徒が毎回同じことを書いてくる。

・巡回するとすぐに教師を頼ってくる

・予想以上に生徒が問題を解く時間がかかりすぎて
 終わらない。または時間が余る。

・短時間のレクチャーのはずが、長時間になってしまう。

・レクチャーがダメだったのか、レクチャーを終えても
 ほとんどの生徒が問題に手をつけれない。

・グループに甘え、自分で理解しようとしない生徒がいる。

・わからないときにまわりに聞けない生徒がいる。

・自分が理解したらそれで満足し、他の人に教えようとしない生徒がいる。


 このように書き出せばとまらないくらい、いろいろなことがありました。

 そして何より反省しているのは、グループで学ぶことが不安になると、
 教員の説明が増えてしまうということです。
「生徒が自分で教科書を読める力をつけたい」と思っているのに、
 実際の授業では「丁寧に誰でもわかるように教師が教える=自分で教科書を
 読めなくても大丈夫になる」ということをしてしまっていたのです。
 
 こうした出来事の本質的な原因、学ぶべきことは何なのでしょうか。
 「失敗学」を提唱し、失敗学会を設立された畑村洋太郎先生は
 インタビューで次のように述べています。

  
      「失敗は成功のもと」というくらいですから、創造、進歩に失敗は付き物なのです。
       ゼロからものを創り出すのに、初めからうまくいくわけありませんよ。
       失敗というと「避けたいもの」とついマイナスなイメージで捉えがちですが、
       意識してみると失敗から学ぶことはとても多い。
       これは科学に限らず、身近なことにもいえます。
       それならば、徹底的にそのメカニズムを調べる必要があるなと思ったのです。
       うまくいく方法ばかりでは、既存の技術の真似や過去に起きた問題への対応は
       上手にできても、新たなものを創造する能力を身に付けることにはつながりません。
      (『アットホーム株式会社大学教授対談シリーズ, こだわりアカデミー, 工学・化学、畑村 洋太郎 氏、失敗を生かす「失敗学」』より引用)
   http://www.athome-academy.jp/archive/engineering_chemistry/0000000155_all.html


 より良い授業も失敗しながら作られていくとすれば、
 グループで学ぶ時間を多く確保する、いわゆるアクティブラーニング型授業でも
 導入してうまくいかなかったことから学べることもあるのではないか、
 そのように考えました。


 ではこうした失敗から学べることは何だったのか? 
 それは次回に書きたいと思います。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。  
 引き続きよろしくお願いします。 

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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