2015.01.20
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教科でのキャリア教育~数学の授業での取り組み~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平


1、数学の授業を通したキャリア教育


 キャリア教育は,特定の活動や指導方法に限定されるものではなく,
 様々な教育活動を通して実践されます。そもそも中学校や高校では
 教員は教科で採用され、学校生活の中心は各教科の授業です。
   こう考えると、教科の授業でこそキャリア教育の視点が重視されるべきでしょう。

 私は数学の教員です。今までは数学ということをはなれて、
 キャリア教育について書いてきましたが、
 今回は数学の授業を通したキャリア教育について書きたいと思います。

 みなさんは「数学でキャリア教育」というとどんなイメージを持ちますか? 
 かつて受けてきた数学の授業はどんなものでしたか?
 どんな思い出がありますか?どんな力がつきましたか?


 私は数学を学ぶからこそ、「課題に対してチームで取り組む力」
「自分の考えや抽象的なことを表現する力、それを他者にわかりやすく伝える力」
 などが身につくと思っています。そして数学の問題解決には
「先を見通した上で、目の前のことを一つずつ解決していくプロセス」が含まれます。
 これらはまさにキャリア教育の視点ではないでしょうか。
(ついでに、数学は英語よりずっとグローバルな言語です。)


「数学の授業でキャリア教育の視点を意識する」というときに、
 <教材からのアプローチ>と<授業方法からのアプローチ>の2つの
 視点があると考えています。


<教材からのアプローチ>
 生徒に与える教材を工夫することで、キャリア教育の視点を
 入れるという方法。たとえば以下のようなものが考えられます。

 ・数学がどのように社会で役に立っているのかを伝える。
 (教科書では各章のはじめにこのことを意識したページがあります) 

 ・数学者の生き方(夢)、数学の歴史、数学の未解決問題などを伝える。


<授業方法からのアプローチ>
 授業スタイルを変え、生徒の学び方そのものにキャリア教育の視点を
 入れるという方法。キーワードは「生徒同士での学びあい」
「人に伝える」「教えてもらうのでなく自分の頭をフルに使う」など。
 アクティブラーニング型授業がここに含まれます。

 今までの自分の授業をふりかえると、教材の工夫は行ってきました。
 しかし学習方法については、キャリア教育の視点を意識していたとはいえませんでした。
 
 数学の授業を通して生徒につけたい力ということを考えて、
 昨年9月から授業方法を変え、アクティブラーニング型を取り入れました。
 


2、アクティブラーニング型授業への挑戦


 社会に出れば仕事はチームで動きます。自分ができるということは大切ですが、
 「人と協力して課題解決すること」「自分の力でチーム全体の力をアップさせること」
「人に自分のわかっていることを伝えること」はもっと重要です。
 さらに「自分で本を読んで理解する力」、数学でいえば「解答を読んで理解する力」も
 自学自習できる力として重要なことです。こうした力を伸ばす授業にしたいと考えました。


 8月に産業能率大学主催のアクティブフォーラムに参加し、関西大倉高校・郷地先生
 の発表を聞いたことで、アクティブラーニング型授業の実践を決断できました。
 郷地先生は「世界で活躍する人間になる」という目標から、
 なぜこのような授業が大切なのかを生徒にわかりやすく明示されていました。
 私は郷地先生をまねる形で実践をはじめました。


 授業の基本的な流れは次の通りです。説明や個人での演習をぐっと短くし、
 その分グループで学びあう時間を確保しました。 


  1)宿題回収・小テスト実施・答え合わせ(これは学年共通の取り組み)10分+α
  2)本時の内容について教師からの解説 10分  
  3)グループ学習(学びあい)20分
  4)ふりかえり、HW配布 5分

 授業は毎時間プリントで行います。必ず応用問題も入れ、模範解答をつけておきます。
 解説はポイントを絞りこれまでの半分程度の時間で行っています。

 グループ学習は近くの席の生徒4人を一組とし,机をつけて行います。
 この時間、私はファシリテーターに徹し,生徒たちの学ぶ様子をじっくり観察します。
 早くできた生徒にはまわりを教えるよう声をかけます。

 いきなりグループにせず個人で考える時間を確保するときもあります。
 ふりかえりは毎回回収し,コメントをつけて返却しています。
 ここは生徒との貴重なコミュニケーションの場になっています。

 当初は生徒が真剣に学ぶのか、内容は定着するのかなど不安でしたが
 案ずるより産むが易し、生徒たちは今まで以上に真剣に取り組むようになりました。
 取り組み始めて3ヶ月、今のところ次のような成果を実感しています。


  1)成績上位層の答案を書く力が向上。
  2)個人で演習するときの姿勢向上。
  3)生徒の学ぶ様子、つまずくポイントなどがよりわかるようになった。
  4)定期テストの結果向上(他クラスと比べて)。
  5)生徒が答えを読めるようになり、質問に来るときも答えを持ってきて
   「ここがわからない」という聞き方ができるようになってきた。


 アンケートから、生徒たちもアクティブラーニング型授業の効果を実感し、
 この形を続けてほしいと思っていることがわかったので、現在も継続しています。
 
 もちろん「より高度な問題を協力して解決する」「教えあいのレベルをあげる」
 「自分で理解する姿勢を向上させる」などこれからの課題もあります。
 数学の授業を通して将来につながる力を育てるという思いを忘れず、
 よりよい授業にしていこうと試行錯誤中です。
 

 
3、最後に
 

 学習指導要領では、数学の授業を通してつけるべき力が強調され、
 指導上配慮すべき事項として、「議論すること」が書かれています。
 学校でも、どの先生も”論路的思考力を伸ばす”など、「数学を通して」つける力を
 意識はしていると思います。解けたらいい、点数が取れればいいと心から
 思っている先生は少ないでしょう(そんな先生はいないと信じたい、、、)

 しかし現実として、授業スタイルが一方向で、評価がテストの点数だけになれば、
 生徒にはそのメッセージが伝わってしまいます。
 教員が教科を通して伸ばしたい力・伝えたいことを明確にし、それを
 実現する授業を実践すれば、教科を通したキャリア教育の実践は進みます。


 数学の授業を通したキャリア教育については、自分でもまだまだ考えを整理しつつ
 実践しているところです。そしてまだまだ学ばないといけません。

 たとえば次の三重県の岩佐先生の実践などは、私ももっと学びたいと思っています。


「数学の共同学習で多様な考え方に気づかせ、自分を信じて考え抜くことを促す」
(三重県、鈴鹿中学・高校、岩佐純巨先生。キャリアガイダンス2012年10月号/PDFファイル)
 http://souken.shingakunet.com/career_g/2012/10/2012_cgno.43_40.pdf

 また次のページには、さまざまな教科の実践が掲載されています。
(リクルート進学総研、教科でキャリア教育)
 http://souken.shingakunet.com/career_g/2013/01/post-705a.html

 みなさんからもいろいろなご意見や助言などいただけたら幸いです。


 私はキャリア教育授業を担当するようになって、教科の授業でも
 キャリア教育の視点を自然と意識するようになったようと感じています。
 気がつけば生徒にも「数学を通して社会で活きるこんな力がつく」などの
 言葉かけが増えました。

 実は本校でキャリア教育授業を一緒に担当している国語科の田内先生も
 同じことを実感されています。

 次回は田内先生に執筆していただきます。
 田内先生はキャリア教育授業(CSL)の取り組みを、教科(国語)に
 導入されました。次回はそのことについて書いてもらいます。

 お楽しみに!


 ここまでお読みいただきありがとうございました。

 引き続きよろしくお願いします。 

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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