2016.03.08
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よりよい授業を創るためにNO.22 「FC東京サッカー教室」

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

  3学期になると、体育ではサッカーの指導を行います。私が若い頃は、少年野球が盛んで子どもたちは野球のルールをよく知っていたのですが、サッカーを知っている子どもは少なく、指導にはとても苦労しました。ボールを手で扱おうという癖が出てしまって、足だけでボールを操作することを見慣れていないので、イメージをもたせるのも大変でした。

 しかし、Jリーグが設立され、テレビでも試合の様子が放映されるようになったことや、日本のチームが世界的にも注目されるようになってきたこともあって、サッカーに対するイメージは幼い子どもにも定着してきました。また少年サッカーチーム(もちろん、女の子も所属できるチームです)も各地に作られ、そこに所属する子どもたちが、高い技術を身に付けるようになってきており、授業でも指導をしやすくなったと感じています。

 そんな中、1月の体育の授業では、3回に渡ってFC東京の方に来ていただき、子どもたちにサッカーの指導をしていただきました。いくら教えやすい環境が整ってきたとはいえ、サッカーに関してはシロウトの私が指導するのは簡単ではないので、プロのサッカー選手に指導していただく機会をもつことができて、とてもいい経験となりました。そして、私自身も、たくさんの勉強をさせていただきました。

 

 私が学んだことのひとつは、運動を通して学習することは技能だけではないということです。もちろん、繰り返し練習をしていれば技能も向上しますし、それがなければ魅力もありません。でも、サッカーのようなチームプレーを求められるスポーツでは、相手との関係がとても大切なのです。

 自分の蹴ったボールがチームメイトにとって取りやすいものになったか、あるいは試合相手に対して取りにくいものになっていたかということを意識しながら練習させることは、とても重要だと思いました。ボールのパスや簡単なゲームを行いながら、常に相手を意識する指導を拝見し、スポーツとは友達関係を作るいい機会になるのだと感じました。

 

 話は逸れますが、私は子どもたちのソーシャルスキルを向上させるためには、どのような指導が必要かということを学び続けています。そのためには、教室の中の学習場面を使って、ロールプレイをさせたり、振り返りを行わせたりすることも有効なのですが、それ以上に遊びがスキルアップに果たす役割が大きいと感じています。

 小さい頃から、異年齢で外遊びをした時代には、自然と友達とのかかわり方を学ぶ機会がありました。年上の者は年下の友達の面倒を見るのが当然でしたし、逆に年上の者にみんながついていこうという気風もありました。遊びを通して、人とのかかわり方を学ぶ機会がたくさんあったのです。しかし、そういった遊びの場面は、ほとんど見られなくなってきています。

 そんな状況の変化を補うために、学校では生活科や学級活動の時間を使って、人とのかかわり方を学ぶ機会を設けようと務めています。今回の体験で、体育の授業をもっと見直していくことができれば、さらにチャンスを広げられるのではないかと思いました。

 

 さて、もうひとつ学んだことは、子ども一人一人に運動量や、スポーツをすることの楽しみを保障すべきだということです。それは当然のことなのですが、実際に体育の授業を振り返ってみると、全員が同じ運動量で活動しているとは言い切れません。マット運動や跳び箱、リレーなどでは同じように運動させられたとしても、ボールを使った運動となると、個人差が大きくなってしまうのです。

 FC東京の方から、子どもたちはこんなメッセージを受け取りました。「ボールを追いかけて蹴っているとき、楽しいでしょ。でも、ボールが触れないときは、つまらないよね。同じチームにボールを触れない友達がいるとしたら、その友達はつまらない思いをしているということを考えてほしい」

 ゲームに勝つことだけを考えれば、得意な子どもが活躍すればいいのです。しかし、学校教育の中では、勝つことを目的にした授業を行うばかりでは、片手落ちなのだということを再認識させられました。

 

 では、具体的にどのようなルールでゲームを楽しませたのかを、ご紹介します。

 私のクラスには30数名の子どもたちがいるので、それを4チームに分けます。すると1チームが8人くらいになります。それをさらに半分に分けて、4名ずつが前半と後半でゲームに参加するようにします。参加していない者は、全員がゴールキーパーです。ゴールは、コーンを10mくらいの間隔に置いて作り、そこを4人で守るのです。自分たちの身長を超えるようなシュートは得点になりません。

 また、1人1回のシュートしか認めないというルールもあります。得意な子どもが何回シュートしても1点にしかなりません。ですから、ゲームに勝とうと思えば、全員がシュートするような展開を工夫する必要があるのです。

 また、チームは毎時間、決め直しています。そうすることによって、たくさんの友達とかかわることができるようになりますし、特定のチームばかりが勝つということも避けられます。でも、チーム決めを毎回やると時間が取られると心配される方もいらっしゃるでしょう。私は、休み時間などを使って、チームを決めておくように伝えることもありましたが、FC東京の方は、授業中にさっと決めるように仕向けていらっしゃいました。チーム決めをもたもたやっているとゲームの時間が短くなってしまうので、子どもたちはわがままを言っていられないと思ったようでした。

 このようなルールで授業を進めると、どの子どももたくさんの運動をしていることが見て取れます。私はそれを見守りながら、元気に走り回る子どもってステキだなあと思いました。しかし、困ったこともありました。運動をさせ過ぎてしまったためか、体育の後の授業は子どもたちがとてもぼんやりしてしまって、思うような授業にならなかったのです。これは失敗だと苦笑いする羽目になりました。

  

 卒業まで秒読みとなりました。子どもたちにとっては初めての小学校卒業。でも、私にとっては30回近いものとなります。ですから、私の方がむしろ、寂しさが募ってきているように感じます。卒業式を立派に執り行えるよう、全力でがんばろうと思っています。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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