2016.02.26
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習熟のためだけのクイズなんていらない! 算数科4年「変わり方」の実践

兵庫県公立小学校勤務 松井 恵子

思考力を育てる算数的クイズやゲームを!

 

 算数科の単元導入の際に、算数的なゲームやクイズを用いること、ありませんか?

もしくは、単元の最後に、単元で得た力でできるゲームを唐突に用いることなども、みかけることがあります。

単元導入でゲームやクイズを行うのは、関心意欲を高めるためでしょうし、単元の最後にゲームやクイズを行う場合は、学習の習熟を図る意味が濃いでしょう。

どちらも子供にとって有効な場合も多いです。

ですが、こんなことはありませんか?

ゲームの導入は意欲的だったのに、次時からの学習には、意欲も減少。考え方の素地をゲームの中で養ったつもりが、ただの遊びで終わってしまい、経験させたはずの考えが出てこない、つながりが全く感じられなかった。いったいあの導入の1時間は何だったのだろう・・・・

もしくは、あんなに楽しく単元の終わりの習熟ゲームを楽しんだにもかかわらず、テストは散々な結果。やっぱり、ドリルで練習問題をすればよかったのかも・・・・

以上のような経験、私にはありますし、未だ、悩むことも多いです。

テストで点数を取る力と授業や生活の中で閃いたり考えたりする力には少しばかりちがいがあると思います。テストに正確な答えを導ける力を付ける方法は、やはり、目の前の子供達の実態に合わせ、教師が、指導をしなければいけないことでしょう。それは、今回はおいといて、ゲームやクイズなど、子供があたかも飛びつく活動的な学習に対する教師の考え方に、もの申したいと思います。

 

子供が楽しそうに活動する姿だけに、満足するな!

教科書とノートを使わず、活動的な学習形態をとれば、子供達は楽しそうに、わいわいと授業を受けます。算数に苦手意識をもっている子も、にこにこと授業を受けている様子に、こちらもうれしくなります。

また、「他の先生とは違うスタイルだぞ。」という感覚がどこかに見え隠れすることもあります。このような感情は、教師の自己満足であり、教師の傲慢でしかありません。

もちろん、色々なスタイルに挑戦し、単調な算数の授業を打破しようとする心がけは、マンネリで授業をしている教師よりも格段にいいことだと思います。

さあ!今回は、その一歩先に、いきましょう!

 

大切なのは、目の前の子供達。

だから、意欲的な子供の様子だけに満足せず、その次の姿を描くこと。

ゲームやクイズを通して、子供達はまずは意欲が向上する。その意欲を継続させながら、考える力を育む単元構成を設定していく。単元の終わりには子供達はこんな風に変容をし、自立へ一歩近づいていくという姿を想定しながら。

単元のゴールの姿を思い描き、そのために、ゲームやクイズなどの算数的活動が有効だと思ったら、取り入れる。本時だけを派手に着飾るのではない、算数的ゲームやクイズの実践を目指したいものです。

 

算数科4年「変わり方」変身ペアクイズの実践

 伴って変わる二つの数量を取り扱い、関数の考え方の素地を培うこの単元。例えば以下のような問題を取り扱います。
 

「棒を18本使って、色々な長方形をつくりましょう。つくった長方形のたての本数と横の本数の組がわかりやすいように、表に整理してみましょう。表を見て気がついたことをいいましょう。この表をみて、たての本数と横の本数の関係を式に表してみましょう。」

この単元で懸念されることは、以下の2点です。1つめは、変化や対応の規則性に着目し問題を解決することは初めてなので、何に着目したらよいのか分からず、混乱する児童が少なからずでてくるであろうこと。2つめは、教科書では、単元構成自体が、出題された問題を並列に取り扱うことが多く、子供は、ただ単に、「ああ、今日はこの表に、数字をうめるのか。」と与えられた表をただ埋めていき、答えを出すことを毎時間繰り返すだけの学習になりがちで、いわゆる「問題の解きっぱなし」で終わること。どちらも、関数の素地を養うこととはほど遠いもので、むしろ、関数に対する意欲を削ぐ可能性も大きい。

 

“与えられた2つの変量”を“与えられた表”を使って数値を埋めていき答えを導くというこの単調な学習で、子供にどんな力がつくのだろう。与えられたことに答える力しか身につかないのではないか!それではいけない。

私が考える単元のゴールの姿は、

「二つの数量を見つけ、伴って変わる二つの数量なのか、伴って変わらないのか、子供自身が判断したいと思い、そうするために、表やグラフを用いて考える姿。そして、規則性を見いだし、二つの数量が伴って変わるものだという判断を獲得する姿」なのです。

そのために、まずは、伴って変わる二つの数量を「変身ペア」と名付け、この親しみやすい言葉で関数への意欲を高めつつ、「変身ペア」には、「変身のきまり」が必要であることを認識させます。そう、クイズで!

 

「ペア数字問題」と「変身なぞとき問題」で単元を貫く

 クイズは、二つの数字だけで出題する「ペア数字問題」といわゆる教科書に載っているような文章題である「変身なぞとき問題」の2種類を設定し、単元を貫いて「ペア数字問題」の後に「変身なぞとき問題」に取り組むという流れにしました。

 「ペア数字問題」は、こんな感じです。「7のペアは3」「2のペアは8」「4のペアは6」すると、カードを順番にならべてみたら分かりやすいという表の意識につながり、和が10という規則性を発見する。このように、従属変数のみを考えさせることで、数同志の対応に着目させ、変化に気づかせることを目的とします。規則性を見つけた後に、「これは、たまごパックの、使ったたまごと残りのたまごの数でした」と生活の中の変量であったことを紹介。子供達にも、生活の中から、伴って変わる二つの数量を見つけてほしいからです。そして、毎時間、和・差・積・商・y=ax+bのようなきまりを1時間ずつ取り扱っていきます。この「ペア数字問題」は、従属変数のみに着目し、規則性を見つけ出します。規則性は毎回変わりますが、捉えることは、毎回同じで、きまりを見つけるということ。でも、昨日と同じきまりではないところが、おもしろい。しかも、着目すべき点がシンプルなので、わかりやすい。算数を苦手とする子も意欲的に取り組めるし、考えやすいのです。

 

「変身なぞとき問題」は、いわゆる教科書に載っているような文章題ですが、問題文全てを提示しません。先述した長方形の問題なら、「18本の棒を使って長方形をつくります。」だけ提示します。そして、変身ペアになりそうな2つの数量を予想させるのです。(このときは、たての本数と横の本数と面積という意見も出てきたので、変身ペアだから、2種類にしようと言って、たての本数と横の本数に限定しました)

独立変数になるものは何かを探らせ、従属変数について考えるという思考過程を通し、二つの変量を児童自らで明確にしていくことに重点を置くのです。なぞときの前に「ペア数字問題」をやっているので、それが手だてになり、全員が考える土台にのれることを期待しつつ。

 

このように「ペア数問題」と「なぞとき問題」と名付け、分けて取り扱うことで、児童の思考が整理され理解が深められます。また、二つの変量とその変化のきまりを見つけようとする目的意識をより高め、表やグラフをかくことを目的とするのではなく、表やグラフを思考の道具として使える児童に育てたいと考えました。

さらに、単元の最後には「変身ペアクイズ大会」を設定しました。そして、それを意識させながら学習に取り組ませ、単元を進める間、伴って変わる二つの数量を子供達は生活の中から見つけてくるように仕掛けました。余談ですが、案外、「ぼくの身長とお姉ちゃんの身長」を伴って変わる二つの数量だと考える児童が少なくなかったのは、びっくりでした。

 

クイズに、変身ペアではないものを提示!その理由は??

 全7時間のうちの5時間目、子供達もクイズに慣れてきた頃、あえて規則性のない二つの数量を「ペア数字問題」にしました。数量が二つ与えられたからといって、変化にきまりのないものもあり、情報を安易に受け取って単に答えを求めるだけの意識にゆさぶりをかけたかったのです。と共に、対応する値の組は1つ求めただけではだめで、幾つも求め、変化の規則性を見いだすという統計的な見方を伸ばしたいと思ったのです。
この時間のめあてを、単元の最後に行う「変身ペアクイズ大会」に向けて「変身ペアクイズの作り方を考えよう」としました。規則性のないものをあえて提示し、クイズ作りには規則性を持たせること、つまり、規則性があるものだけが、変身ペア=「伴って変わる二つの数量」であるという定義をより定着させようと考えました。
 

デジタルの有用性

この日の「なぞとき問題」は、

「テーブルを1列に並べてその周りに人が座ります。変身ペアをみつけましょう」

でした。(下図のような感じ ・が人 □は机。ぴったりつなげますが、紙面上これで。)

 ・      ・・      ・・・

・□・  → ・□□・ →  ・□□□・

 ・      ・・      ・・・

 

教科書掲載の文章題です。

人数=2×机の数+2になります。

この+2がくせもので、なかなかわかりづらいのです。

そこで、デジタル教科書を使用しました。1回クリックするごとに、机が1つ増え、人数も増えます。机が増える度に2人増えることも、両端に座る+2の人も、視覚的に捉えやすく、式化した子供の説明を十分すぎるほど補充していました。

 

単元のゴールは、遠くに描く

クイズやゲームは、子供の意欲を向上させるために設定されます。もちろん、大事なことです。ただし、活動的な様子だけに満足しては、もったいない!

今回紹介したクイズは、子供達の意欲だけではなく、思考を成熟させる手助けのために設定し、明らかに思考を深める子供の姿を感じました。

算数という教科に、興味関心を高めることがまずは大切ですが、それだけでは、「今日は特別な授業だった。ちょっと算数もおもしろいなあ。」で終わりです。もちろんそれもあっていいと思いますが、教師がそれだけで満足してはいけません。単元のゴールの姿をしっかり持ち、単元構成の一つとして、算数的なクイズやゲームを設定することが大切だと思います。

そして、単元のゴールは遠くに描くことをお忘れ無く。“計算ができる、表をかくことができる、問題がとける”ではなく、”自立へと向かう子供の姿”、”未来をたくましく生きる姿”を常に持ちましょう。 

松井 恵子(まつい けいこ)

兵庫県公立小学校勤務


兵庫県授業改善促進のためのDVD授業において算数科の授業を担当。平成27年度兵庫県優秀教職員表彰受賞。算数実践全国発表、視聴覚教材コンクール特選受賞等、情熱で実践を積み上げる、ママさん研究主任です。

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