2015.11.02
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電子黒板で変える、道徳の授業

兵庫県公立小学校勤務 松井 恵子

電子黒板で変える、道徳の授業。

「ぼくも・・・」と語り出す、本気の道徳へ

 

道徳の授業の中で、子供達の言葉は、うわすべりなものになっていませんか?

「道徳的価値観の押しつけ」「道徳の授業の正解発言」だけになっていませんか?

うわすべりの道徳が、なんの「要(かなめ)」になるのでしょうか。

私たちは、子供達の人生をつくっているのです。

然るべき価値観は、きちんと教えなければいけません。いくら本音だからと言っても、価値の低い発言を野放しにしてはいけません。しかしながら、いつもいつも題材をなぞらえるだけの道徳で、子供の心が育つでしょうか。世界観は広がるでしょうか。

子供達が“自分ごと”として語り出したくなる『本気の道徳』が必要なのです。

 

電子黒板が変える、道徳の授業実践

 道徳の授業の難しさとして、資料を読み取った上で、自分と照らし合わせ考えていかなければならないことが挙げられます。語彙や想像力が乏しい子供にとっては、読み取る段階で精一杯という状況も・・・。そこで、有効なのが、電子黒板(デジタル情報)です。電子黒板は、適切な箇所に用いることによって、読解力の乏しい子供も資料を十分に読み深められる授業ツールです。もちろん、プロジェクターでも同じ効果はありますが、タッチパネルの電子黒板の方が、スムーズに授業を運ぶことができるでしょう。

具体的な実践を紹介しましょう。本実践は、参観日に行ったものです。

 

主題名「いのちを見つめて」 内容項目3-(1)生きる喜び・生命尊重

ウェブサイト「アフラック生きる.com」

「生きる。~がんと向き合う7人のストーリー~」(幻冬舎)

 

大腿骨骨肉腫に直面した猿渡瞳さんが、力強く生き抜き、がんを告知された時も「お母さんががんじゃなくてよかった。」と返事をした場面、13歳の時に弁論大会で発表した「命を見つめて」のムービーを山場として資料化したものです。

 

始めは、猿渡瞳さんの赤ちゃんの時の写真から始めます。

「名前の由来は、大きな瞳の女の子だったから。みんなは自分の名前の由来、知ってる?」

「ぼくは、志を持って育って欲しいからこの名前になった。」「私は・・・」口々に話します。

写真提示をしながら、情報を続けていきます。「12歳まですくすく大きくなった瞳さん。明るい女の子で、歌が大好き、ずっと歌っている。絵を描くのも好きだそうです。」

クラス中の視線は、Kちゃんに。「いやいや、みんなこっち見なくてええからぁ。」と笑顔のKちゃん。いつも歌を口ずさんでいる6年生の女の子です。導入では、アイスブレーキングとして、後述の“おまけ”で紹介しているゲームを行っているので、教室には、ほっこりしたムードが漂っています。だからこそ、資料について自分たちと近づけながら思考が巡っていきます。

 

ですが、次の情報を与えた瞬間、教室の空気は一変します。

「そんな瞳さんが、ある日、偶然ぶつけた右太ももに激痛を感じ、病院に行くと、大腿骨骨肉腫。余命半年と判明しました。」

心が開き弾んでいた空気から一変、息をのみ、驚きの表情の子供達。

涙を浮かべる子も見えます。

 

「瞳さんのお母さんは、瞳なら乗り越えられると、告知する事にしました。がんと知った瞳さんは、どう思ったでしょう。何と言ったでしょう。近くの人と話してみて。」

子供達は口々に話し始めます。ペアトークのあと、ほとんど全員が発表していきます。

「もし、ぼくだったら、生きる気力がなくなってしまう。」

「瞳さんだったら、乗り越えようってがんばったんじゃないかな。」

 

この題材を作った6年前の私は、この発問に対して、子供達は、「もう無理だ」とか「なんで自分だけ」とか、耐えきれない心を述べるだけだと予想していました。ところが、子供は違うんです。

「お母さんには心配をかけたくないから、平気そうに振る舞うけど、自分一人になったら、どうしようもなくて、泣いていると思う。」

子供は、親が思うより、大人なのかもしれません。子供が親を守ろうとする心があることを改めて感じました。

今回もそのような発言がありました。

挙手していた全員が話し終わった時、もう一度手を挙げる男の子がいました。

 

「ぼくのおじいちゃんも・・・」涙しながら6年男子が語り出す・・・。

「ぼくは、去年におじいちゃんをがんで亡くして、その時におじいちゃんは、・・・」

涙で言葉をつまらせながら、話し続けます。

「その時、おじいちゃんは、ぼくらにずっと隠して、元気な姿を見せてくれたので、瞳さんも心の中では悲しんでいたけど、たぶん、お母さんとかの前やったら、元気な姿をみせるんじゃないかなと思いました。」

声がうわずって止まりそうになりながら話す6年生の男の子。それを、受け止める周りの子供達。がんばって発表したことの感動を拍手で表す子もいました。

私は、うなずきながら、そして静かに

「瞳さんはこう言いました。」

と言って、画面に瞳さんの言葉を出します。

「ママががんじゃなくて、本当によかった。」

子供達は、再び、驚きます。

 

このあと、前向きに病気を乗り越えようとする瞳さんの情報や瞳さんが憤りを感じていたことについて考えさせながら、話を進め、最後に、弁論大会で発表する瞳さんの動画を見せました。アフラック生きる.comへのリンクを挿入しておき、タイムラグなく、子供に提示します。

瞳さんの力強くまっすぐな主張は、子供達の心に深くしみていくようでした。そして、参観に来ている保護者も同様な様子でした。

 

保護者も、感じるきっかけに。

母であり、教師である私が一番難しいと感じるのは、親業です。我が子への愛情が心配となり、ついつい、がみがみ言ってしまう。私の分身ではないのに、我が命より大切な存在だからこそ、思いがすれ違うと、戸惑ってしまう。そんなお母さんは多いと思います。

でも、私自身、娘の学校での姿を見て、本人やママ友たちから様子を聞いて、幸せを再確認したり、親として成熟させてもらったりしました。

参観日にこの授業を行う理由は、親も子も、今生きている大切さを共に感じ、家庭で共有できることを願っているからです。

「先生、私が生徒になっていた。」と授業終わりに駆け寄ってきたお母さんと手を握り合ったり、「先生、前の参観よかった。ほんとに、大事なことを教えてくれていて、家で、子供とも話したんです。」としみじみ語り合ったりすることもありました。

子供のテストの点数に一喜一憂するのも親ですが、心の教育が一番大事だと感じ、一番求めているのも親なのです。

 

道徳の時間だけで終わらない道徳の授業

この実践には続きがあります。終わりの会では、スピーチを4名ずつ行います。スピーチの内容は自由ですが、この日の終わりの会で、スピーチに当たっていた男の子が涙ぐみながら語り始めました。

「今日の道徳で、N君がおじいちゃんが亡くなったことを話してくれたけど、僕もこの5月にひいおじいちゃんが亡くなって、もっと生きている時に色々してあげたらよかったと後悔して・・・。だから、今、僕の周りにいる家族とかに、できることをしていこうと思うし、この6年4組のみんなにも、自分のできることをしていって、今までも温かい言葉をつかうこととか意識してきているけど、もっと色々していきたいです。」

道徳の時間だけに終わらない『本気の道徳』をこれからも目指したいです。

 

おまけ

導入は、アイスブレーキングとして「部屋の四隅」を行いました。(http://www.dear.or.jp/activity/menu01.html)

教室を4つのゾーン「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」「どちらかと言えばそう思わない」「そう思わない」に分けます。教師が述べる質問に対して、自分の意見の場所に移動するのです。そのあと、なぜそう思うのかを意見交流します。このゲームの目的は、自分の意見をもち、一人で移動すること、そして、他の人の意見を聞くことです。導入なので、簡単な質問から入り、最後の質問は、本時のめあてに沿ったものにします。

 

質問1「今日は天気がよい。」・・・見えやすく話しやすいものからスタート

質問2「図工はおもしろい。」・・・人それぞれ価値が違うもの。

質問3「お母さんは優しい。」・・・参観日におすすめ

質問最後「命は大切だ。」・・・全員が「そう思う」ゾーンにいく。「そうだよね。でも今日は、命についてもっと向き合って考えていきます。」といって、本題に移る。

 

先日の参観日では、質問3「お母さんは優しい。」の質問の際、うれしく思った1コマがありました。

「お母さんは優しい」と私が発問すると、「そう思う」ゾーンで、わいわいと数人の男の子達に腕や体をつかまれて、動かないようにされているT君。その理由は・・・

6年にもなると、参観する保護者の数も少なく、また、来校しても、ろうかから参観をする保護者も多い中、T君のお母さんが、教室の中で、ずっと見つめていたのです。周りの子供達は、T君のお母さんを目に、「T君はここ(そう思うゾーン)にいなくちゃ!」「T君に話きこう!」そこで、T君が話し始めました。「いつもごはんを作ってくれるし、わからない問題も教えてくれるし、僕のことを考えてくれるから、お母さんは優しいと思います。」すると、大きな拍手!付け加えて周りの子供達はまだまだ促します。「・・・で!?だから・・・!」子供達は、T君にお母さんへの言葉を促しているのです。T君「えっと、お母さん(といってお母さんの方を見つめて)いつもありがとう。」「おー!」クラス中がT君を讃える声と大きな拍手。そして何より、和気あいあいの笑顔に包まれました。いい意味で無邪気になれる子供同士の関係が、成長を支えていると感じ、うれしく思いました。

 

その翌日、こっそり、T君に尋ねてみました、「昨日のこと、お母さんと話した?」

「うん、話した。お母さん、一生の思い出をもらったわ、って言ってた。」

固いことは言わないでくださいね。こんな参観日も、OKということで。

 

子供の心の殻を脱がせ、大きく育てたい。

今の時代、「生きる力」や「アクティブラーニング」などという言葉が飛び交っていますが、その根本は、子供に「本気で向き合う姿勢を育むこと」ではないでしょうか。教師は、直接的に教えることだけでなく、子どもの心に働きかけ、心の殻を脱がせ、一回りも二回りも大きくする手助けや導きを与えることが、重要な役割と言えるでしょう。特に、道徳では、最も重要であると思います。  

松井 恵子(まつい けいこ)

兵庫県公立小学校勤務


兵庫県授業改善促進のためのDVD授業において算数科の授業を担当。平成27年度兵庫県優秀教職員表彰受賞。算数実践全国発表、視聴覚教材コンクール特選受賞等、情熱で実践を積み上げる、ママさん研究主任です。

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