2015.10.13
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「明日からぼくの人生が変わりそうです」模型作りとスカイプで理科授業

兵庫県公立小学校勤務 松井 恵子

  

(必要な酸素量模型) (ミニワールド)   (ヒトが食べる牛は、1日に50㎏草を食べることを模型に。)

自己紹介

初めまして。今期から、執筆させて頂くことになりました、松井恵子です。研究主任として5年が経過しようとしています。5年前から研究テーマを「説明する理数教育」として研究を重ね、兵庫県の「ことばの力推進指定校」としての研究ののち、「ことばの力の育成を図る効果的な授業展開DVD」において小学校算数の授業を担当しました。この5年、個人的には毎年複数回、算数授業を公開しておりました。今年の夏、その実践の一部を全国の場で発表させて頂く機会にも恵まれ、自分の実践を発信する喜びを感じ、今回、執筆者に応募させていただきました。このような機会を頂けたこと、たいへんうれしく思います。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、上記の紹介文なら、ここに算数の実践があがって然るべきでしょう。ですが、初投稿は、理科。いつまでも挑戦者の私は、つい先日、理科の研究授業をさせていただきました。研究主任として、理科の実践も提案したいという思い、そして、公立小学校教諭が、「この教科ならできる、これはできない。」などと言うべきではないと思うからです。どんな教科においても、育てたい子供の姿は同じ。そこに向かって、教師は真摯に子供と向き合い、授業を構成すべきです。若い世代が増えてきた今、私自身が走り続けることが勇気になればとも願っています。この若手育成に対する熱い思いは、また、別の回で申し上げることとして、そろそろ、本題の理科授業について述べていきましょう。

6年理科 食物連鎖を学ぶ単元は、実感的理解が難しい?

タイトルの言葉「明日からぼくの人生が変わりそうです。」は、6年理科「生物どうしのつながり」の授業で、子供が書いた振り返りの文章から抜粋したものです。どういうことか、ご想像できますか?もちろんこの子は、暗い気持ちの人生観になったのではありません。

この単元の鍵は、生物と環境との関わりを推論すること。そして、環境を保全する態度を育てることです。具体的には、空気を通した生物どうしのつながりや食物連鎖を理解し、環境保全の精神を養います。この単元は、理科の醍醐味である実験が行いにくい単元です。だから、映像をむやみに与えたり、教え込んだりしてしまうことも予想されます。でも、そんなことをしては、もったいない!この地球は、小さな命や太陽エネルギーが関わり合って保たれていて、その絶妙なバランスと循環のしくみで命を共有している。地球ってすごい!私自身、感動しています。そう思うだけで、わくわくします。その感動こそが、この地球の全てを愛おしむ姿勢に繋がるはずです。そんな感動を子供にもってほしいと思い、この単元を構成しました。

実感の手だては、数値と活動で「見える化」しながら推論する

単元の導入は、「生きるためになくてはならないことはなんだろう。」というテーマで、子供達に考えさせました。「水」「空気」「食べること」の3本柱から、今まで習っていることや知っていることをイメージさせ、マインドマップのようにつなげていきました。このテーマは、単元を通して常に子供に内在し、学習を支えました。水については、水の三体変化等を4学年で学習済みなので、それを押さえ、すぐに空気について考えました。その時に、数値を使いました。

体重30㎏の小学生が1日に必要とする酸素量と半径2mの樹冠の木が放出する酸素量を調べ、何本の木が必要かを考える学習を設定しました。そしてそれを簡単な模型にして、子供達に提示しました。(参照 HP:森と環境について考えよう早稲田大学人間科学部研究室

模型は、見えやすいように、発泡スチロールのボードを立てられるようにし、そこに、紙粘土や色画用紙で作った木や人形に爪楊枝を貼って、ボードに差し込みました。こうすれば、教室の後ろの方の子供も見えます。

「え?そんなに必要なの?」「酸素を出してくれる植物に感謝です。」「植物が育つには雨が必要。」「ぼくは、太陽に感謝します。」

光合成は既習事項。しかし、知識だけではその恩恵を想像できにくいことでしょう。数値を示すこと、模型で分かりやすくなったことで、子供にとって切実な課題になることをねらいました。授業の終わりには、子供達は上記のような感謝の言葉を発していました。

 

次時からの3時間は「食べるために必要なことは何だろう。」というテーマで、食物連鎖の学習を行います。始めに、飼ったことのある、もしくは見たことのある動物とその食べ物を、一人1枚カードに書いて、黒板に貼りました。真っ白のカードの子もいました。そのカードを分類分けしていきます。まず、陸上と水の中。陸上の動物をさらに、草を食べる動物、肉を食べる動物、そして、ヒトに分類。これらの動物が食べるものを探れば、食べるために必要なことが見えてくる。そこで、チームごとに手分けして調べていこうということに。

ウマ(草食動物)、チーター・タカ・ヘビ(肉食)、マグロ・ザリガニ(水の中の海水と淡水)、そしてヒト。ヒトは食べるものが多すぎるのでメニューを決めて2種類の食べ物を調べようということにしました。(カレーライスとチーズバーガー)読んで頂いてわかるように、ここまでは、どんな教科書会社にも出てくる調べ学習と大差ありません。

が、ここからがオリジナルです。量感を持たせ、それが実感につながるように模型にして表現させようと考えました。

まず、その動物が食べるために必要な世界を模型にする「ミニ(動物名)ワールドを作ろう」という活動を設定します。そして、そのワールドを作るために必要なことを画用紙に書いた「ワールドマップ」を始めに作らせました。導入と同じように、画用紙に知っていることやわからないことを書いていきます。「チーターが食べるのは、鹿。その鹿が食べるのは草。いったい、どれくらいの量をたべるのだろう。チーターワールドには、鹿や草がどれくらい必要なのだろう。」そして、どれくらい食べるのかを中心に調べ活動を行いました。しかし、全てしっかりと数値が示されるわけではありません。しかも、1匹に対して、1日どれくらいの量を食べるかがわかっても、実際に必要とされる量はとてつもなく多い。あとは、推論の力です。

ワールド作りを研究授業の本時としました。子供達は、具体的な数値を手がかりに、どんどんワールド(模型)を作り上げていきました。やっと、ミニワールド(模型)が作れる!そんなわくわくした様子が伺えました。10分~15分後、各グループの発表に移りました。そして、全ての班の発表を聞きながら、「めっちゃ草が必要や。」「え?自分の体重の10倍も食べるの?」驚きの声を上げながら聞き入っていました。その後、共通点や大切なことを話し合いました。すべてのもとは植物であり、海や太陽、陸も欠かせないと収束していくのですが、後一押し、バランスについて考えて欲しい。そして・・・

もう一押しは、映像で仕掛ける

それでも、食物連鎖のピラミッドのすばらしさまでは、到達していませんよね。そこで、「植物がなくなったら草食動物が困るね。草食動物がいなくなったら肉食動物が困る。じゃあ、肉食動物がいなくなったら?だれも困らないかな?実は、こんなことがありました。」

そういって、二ホンオオカミが絶滅し森林が枯れた事例を50インチのモニターに映します。どうしてだと思う?と問いかけたあと、NHKのビデオクリップを見せました。二ホンオオカミが絶滅したことで、鹿が増えすぎて森林を食べ尽くしてしまったというものです。

「食べるためには、食う食われる関係がバランスよく存在する必要がある」というまとめにつなげました。

今後は、このミニワールドをすべて集めてミニ地球とし、さらに土の中の分解者につなげていこうと思っています。

熱をもったまま、環境問題の導入を。スカイプで海外とビデオ通話を通して。

 45分×2コマ続きの理科を、食物連鎖の学習に60分、そして、環境問題の導入に30分と設定し、後半はスカイプをつかって、フィジーでJICA活動に参加している本校教員と子供達が直接話をする時間を設定しました。海外の環境問題や、日本人、特に自分たちが知っている先生が海外で貢献している様子を、しかも本人から聞くことで、奇跡の地球の一員として、よく耳にする環境問題を“自分ごと”として考えてほしいと思ったからです。さらに、持続可能な社会の構築という観点をもちながら、これから先に設定されている水溶液の学習や電気の利用の学習に取り組ませ、学年末には、ヒトと環境について考えさせていきたいと思い、単元の最後に環境問題について知る時間を設定しました。子供達は、90分に及ぶ濃密な時間を、どの子も堪能していました。それは、子供の実態や思いに寄り添った授業だったからだと思います。

「明日から、ぼくの人生が変わりそうです。」

知らないことや知っていると思っていたことでも、“自分ごと”として心に落ちたとき、意識は変わり、見える世界は広がります。人は見ようと思うことしか見ないのです。見えるものが増えたとき、人生に広がりや深まりが生まれ、それを人は人生観というのでしょう。この子は、今まで意識していなかったことに気付きおどろき、このような表現をしたのでしょう。

私たち教師は、教育活動を通じて子供の人生を作っているといっても過言ではないでしょう。だから、言い訳なんて通用しません。私は2年連続で6年担任ですが、兵庫型と言われる教科担任制で、本校は理科と社会で隣の学級担任と教科を分担しておりますが、去年度は社会科の担当、今年度は理科の担当です。子供の実態も当たり前ですが、全くちがいます。しかし、真摯に子供と教科に向き合えば、子供はそこから学んで自己実現を果たし成長します。何もしなくてもそれなりに大きくなる成長ではない、世界観の広がりを伴った成長。それは、教師自身に課されている生き方そのものです。これからも走っていきたい、そう確信した授業でした。そのような思いを持たせてくれた子供達に、感謝です。

松井 恵子(まつい けいこ)

兵庫県公立小学校勤務


兵庫県授業改善促進のためのDVD授業において算数科の授業を担当。平成27年度兵庫県優秀教職員表彰受賞。算数実践全国発表、視聴覚教材コンクール特選受賞等、情熱で実践を積み上げる、ママさん研究主任です。

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