弱視の生徒はiPadまたはiPad miniを持っています。
授業での利用を行っています。ITC(Information and Communication
Technologyつまり「情報通信技術」のこと)教育の中でタブレット端末などを
活用することが推奨されてきています。
英語では、英単語や基本英文を題材とした無料アプリを探し、それを
生徒自身が利用することを提案しています。英検やTOEICなどの各種英語の
資格試験勉強用のアプリも充実しており、驚くばかりであります。
「いつでもどこでもだれでも」というユビキタス化が、タブレット端末機器
により実現したように感じています。この点では「光」の面と言えるかもし
れません。
ただ、やはり機械を人間がどのように使うかは大切な観点であり、機械に
人間が振り回されることのないように「使い方」の指導も必要となってくる
ようです。
学習というのは、ある程度、簡単で単純な「読み書きなどの活動」に時間を
使う必要があるようです。つまり手を使い、目で見て、声に出し、読んで、
耳で聞いて、頭に入れるような旧式の学習形態を、タブレット端末が全て代
用出来るわけではないような気がしています。
特に弱視の生徒は、文字や画像などを「見る」という場合に、視力だけでな
く視野や見えにくさの程度や度合いが1人ひとり異なります。晴眼者が全体
を一度に把握できるのと対照的に、弱視生徒は困難さを伴います。
「書いて覚える」ような単純な作業にどれだけ時間を使い、このような作業
が苦にならない程度まで身体にしみ付けることも必要になってきます。
英語の単語に限らず、漢字などの習得定着は、教師側が期待するほど順調に
力が付かないように感じるのが現状です。
先日、rainという単語を「線」と答えた生徒がいました。弱視の生徒は、
rainを「ライン」と頭の中で発音してしまったようです。「ライン」=「線
」と音で、A君の頭の中では結びついたようです。そのためrain=ライン=
「線」と答えてしまったようです。
また、What's the matter?の日本語訳では、matterを見え方の認識の間違
いからmatter→metter→meter「メートル(長さの)」と認識してしまい、
「それは何メートルですか」と訳をしてしまいました。
最初のrainは、晴眼者であれば、rainという4文字を1度に見ることが出来る
ので、rain=雨という暗記が無理なくできるのでしょう。しかし、弱視の生
徒の場合は、r-a-i-nまたはra-i-nのように1文字ずつまたは、2文字単位で
読むことから、r-aまたはraで「ラ」と発音になり、「レイ」とは考えられ
ない場合生じるようです。このためには、認知理解できる文字数が1文字ま
たは2文字しかないようなので、1文字や2文字での発音のバリエーションが
多いことを紹介することと、徹底的に誤解や誤った認知を解くように、その
生徒にあった「誤りパターン撃退法」なるものを処方する必要があります。
簡単なことです。単語の小テストで、A君の誤りパターンの類型化をして、
その誤りパターンをA君に気づいてもらうように支援することです。
今の場合は、まずrとlの文字の区別から始まるかもしれません。次にr/lの
後にa,i,u,e,oの文字が来る場合の発音のパターンに慣れることが必要にな
ってきます。raで「レイ」と発音する場合と「ラ」と発音する場合を紹介し
ます。
matterの場合は、aの文字とeの文字の認識ミスでしょうか。ttの2文字が重
なっていることを見逃したのでしょうか。単純な認識ミスと言うこともでき
ますが、A君の文字誤認知の一つの傾向と見ることもできます。英語の場合1
文字の誤った認識から全く異なる単語になることは例を挙げればきりがあり
ません。同じ文字が1文字なのか2文字なのか、1文字ずつ落ち着いて確実に
読みとる癖を付けることが求められています。
A君の場合は、この落ち着いて1文字ずつ念を押して読む習慣がまだ不十分な
のかもしれません。aとeの似た文字の読み誤り傾向に加えて、フラッシュカ
ードでも英語文字を出来るだけ短時間で識別できるように練習してみること
も必要かもしれません。さらに同じ2文字が含まれている単語の認識練習も
必要かも知れません。ballやwrittenなどです。
では、文字認知のためにどんな方法があるでしょうか。私が試みている単語
練習は、まず「空書き」です。人差し指で、空中に単語の文字を書くことで
す。たとえば、pencilであれば、p-e-n-c-i-lを空中で10回程度書いてみる
ことです。机の上でも構いません。次に、「復唱スペリング」です。今の場
合であれば、「鉛筆p(ピー)-e(イー)-n(エヌ)-c(スィー)-i(アイ)
-l(エル)」と声に出すのです。長い単語の場合でなく、7文字程度までの
単語に使ってみます。このことで単語の文字理解が定着していくと、次に長
めのスペルの単語でも大丈夫になっていくでしょう。
あとは、ひたすら紙やノートに単語練習することです。しかし、生徒の練習
してきたノートやプリントを点検すると、間違ったスペルのまま何度も練習
していることが多いのです。単語練習も授業の中で指導者が見ているところ
で、スペルミスがない状態を見届けるようにしなければなりません。「この
単語練習を10個ずつ宿題ね」などは、点検するときに後で散々な事になりか
ねません。なぜかというと、先ほどのrainなども、いつのまにかlainと何度
も書く練習していることもあり、これは時間と労力の無駄になってしまいま
す。単語を書いて覚えてくる課題にも一工夫が必要になってきます。
さて、このような旧態依然とした学習方法を画期的に変える可能性がタブレ
ット端末は秘めています。文字を画面上で手書きして、それが正しい単語が
どうかを認識してくれるアプリがあれば、生徒は自分が書いた単語の綴りミ
スを減らし、間違った単語を覚えることが少なくできます。ただ、英単語の
場合は、1文字違っても別の単語が存在しますので、自分が練習しようとし
ている英単語や語句であるのかを自分で判断できないと結局使いこなせない
のです。間違ったスペルでも、他の意味で英単語が存在する場合もたくさん
あります。弱視の生徒に使い易いものはなかなか難しいようですが、画面を
拡大したり、カメラ機能を使いこなすなど、生徒自身で工夫をしているよう
です。まだまだこの分野でも今後の研究や開発が期待されます。
「先生、iPhone6かiPhone6 plusほしいです」と生徒が言って来ます。ガラ
ケイ使用者は時勢に乗り遅れそうで困っています。
蛇足ですが、視覚障害者がタブレット端末を使うときに、やはりWi-Fi環境
の整備は国が率先して進めていただきたいものです。
今回は英語学習に特化してみました。平素様々な有効な活用法があり生徒らは恩恵を被っています。別の機会に紹介できればと思います。失礼します。
岩本 昌明(いわもと まさあき)
富山県立富山視覚総合支援学校 教諭
視覚に病弱部門が併置された全国初の総合支援学校。北陸富山から四季折々にふれて、特別支援教育と英語教育を始め、身の回りに関わる雑感や思いを皆さんと共有できたらと願っています。
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