本年度が始まってすぐに、近くの公民館から「夏休みに読書のよさや国語の勉強の仕方についての講座をやってほしい」という依頼の電話がありました。
なぜ、国語が専門でもない私に依頼があるのか不思議でした。聞いてみると、「学びの場.comのHPや教育つれづれ日誌を見たから」という答えが返ってきました。
教員以外の人も学びの場を見ていることが分かり、何だかうれしくなりました。同時に、つれづれ日誌を書く張り合いになりました。
初めての依頼から3カ月たち、募集要項ができました。ちょっと恥ずかしくなるようなタイトルテーマでした。それは、「大谷先生の『魔法の授業』 あなたもできる!国語 大~好き♪」というものでした。
そのタイトルテーマのおかげでしょうか。参加者の募集が始まると、3日で定員の30人を越えたそうです。公民館の担当者は、うれしい悲鳴をあげていました。
ところが、参加者の内訳を聞いてびっくりです。小学校全学年と保護者なのです。小学校1年生と6年生では学力や発達段階に大きな差があり、まともな授業はできません。保護者もいる中で、どのような話し方をしたらよいのてしょうか。
また、参加者の参加の目的は、「本が好きになりたい。」「読書感想文を書けるようになりたい。」「国語ができるようになりたい。」「漢字が書けるようになりたい。」「勉強をできるようにしたい。」(保護者)など、様々であることが考えられます。
さすがに、ちょっと困りましたね。通常の学校現場では有り得ないことですから。
しかし、考えてみると、「有り得ない」とは「有り難い」ということです。つまり、「ありがたい」ことです。ならば、「ありがたい」チャンスととらえようと思いました。
私には私流の国語しかできないし、それを良しとしての依頼なのですから、開き直って当日2時間ほどの授業づくりを始めました。
そして、8月5日。夏休み国語教室の当日(写真 左)を迎え、次のような授業を展開しました。
まず、音読(写真 中)です。今回は、アイスブレイクを兼ねて行いました。「あいうえお」は、言葉の母音として大切だと話しました。そして、ねじめしょういちさんの「あいうえおにぎり」を使って、音読と群読をしました。子どもも保護者にも立ってもらい、声を出してもらいました。講座の始まりのあいさつは、日曜日の朝ということもあり、かなり重いものがありました。しかし、群読に入るころには、声の大きさも元気も出てきました。思った通りです。
音読・群読が終わると、いつも通りの漢字の学習です。今回は特別授業ですので、漢字の成り立ちをクイズ形式で行いました。子どもも保護者も、すっかりこちらのペースにはまってきました。
アイスブレイクが終わると、いよいよ「国語、だ~い好き」になるための「3つの魔法」を順にかけることにしました。
まず、一つ目の魔法は「本を読むことが好きになる魔法」です。ポイントとして、読み手も聞き手も思いっきり楽しむことを挙げました。そして、登場人物と自分で考える語り手になりきることとしました。
具体的には、「読み聞かせ」と「イメ音」の体験をしてもらいました。最初の読み聞かせでは、あきやまただしさんの「へんしんトンネル」の大型本を使って、読み手も聞き手も楽しめる読み聞かせを体験してもらいました。ここでは、飛ばしすぎて、早くも声が枯れ、汗だく状態になってしまいました(写真 右)。
続いて、「イメ音」(イメージ音読)を体験してもらいました。「イメ音」とは、文章に描かれている様子を声を中心に表現する読み方です。朗読と劇の中間のようなものです。教材は「スイミー」の第一場面を使いましたが、ほとんどの子が読んだことがないと言うので、6年生に読んでもらいました。もちろん、スラスラ読めますが、もっと楽しく分かるように読む読み方として、「イメ音」を行いました。すると、会場には大きな海が広がり、魚がたくさん泳いでいる情景が見えてきました。
このように、読み聞かせをしたり聞いたりする、一人でもイメ音をすることで、笑顔がいっぱいになり、人は幸せな気分になるということを実体験してもらいました。つまり、「本を読むことが好きになる魔法」は、「読み聞かせ」と「イメ音」にあるとまとめ、1時間目が終わりました。
休憩をはさんで2時間目は、「国語ができるようになる魔法」です。子どもも保護者も楽しいとともに、やはり国語ができるようになりたい、テストでいい点を取りたいと思っています。そのための「魔法」を2つにまとめました。
一つは「魔法の言葉」です。野口芳弘先生が「国語の学習用語」と言っているものです。1年生から「文、段落、主語」を意識して読んでいくと、文章構成が分かり、高学年になると主題や要旨なども見えてくると話しました。1年生の説明文「どうぶつの赤ちゃん」を使って、具体的に説明しました。
もう一つは「魔法の道具」です。ドラえもんの秘密の道具のように、ほしいもの(情報)が手に入る「魔法の道具」として、国語辞典を多用することを勧めました。実際に引くことはできませんでしたが、川崎洋さんの詩「とる」を例示して少し考えてもらいました。
最後の魔法は、「作文が得意になる魔法」です。文を書くというのは、一番、抵抗があることかもしれません。そこで、工藤直子さんの「のはらうた」からいくつかの詩を読んで、語り手を当ててもらうクイズから始めました。
作者である工藤直子さんが、ある語り手になりきって、詩を書いているということを知ってほしかったのです。同時に、なりきって書くことの楽しさを感じてほしかったのです。子どもも保護者も、にこにこ顔でクイズをやっていました。
このクイズの目的は、「そういう作文なら書きたい」という気持ちを持たせることです。昆虫や動物、オリンピック選手やアイドルなどになりきって書く作文を、「なりきり作文」ということを紹介しました。そのほかにも、「もしも作文」という夢みたいなことを作文として書くものがあることを紹介しました。いずれも、百字程度から書きたいだけ書くを原則に始めることと、続けることが大切だと話しました。
アッという間の2時間でした。子どもも保護者も、声を出したり動いたりして疲れたと思います。勉強とは疲れるものです。でも、快い疲れは満足感につながるはずです。授業はいつもそういう時間にしたいと思っています。
貴重な体験ができた一日となりました。
参加した子どもたち(保護者も)が、「国語が、大~好き」になる3つの魔法・・「本を読むことが好きになる魔法」「国語ができるようになる魔法」「作文が得意になる魔法」に少しずつかかってくれることを期待しています。
大谷 雅昭(おおたに まさあき)
群馬県藤岡市立鬼石小学校 教諭
子どもと子どもたち、つまり個と集団を相乗効果で育てる独自の「まるごと教育」を進化させると共に、「教育の高速化運動」を推進しています。子ども自身が成長を実感し、自ら伸びていく様子もつれづれに綴っていきます。
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