2024.05.30
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

子どもの哲学(p4c)とは何か 道徳でp4c(vol.2)

道徳の授業で、答えがわかりきった問いが中心になってしまう、読み取りの授業になってしまう、そんな悩みを持ったことはありませんか。
私は子どもの哲学(p4c)の道徳での活用に注目し、授業実践について日々模索しています。
今回は、道徳の授業の課題を整理し、p4cをとり入れた授業実践をご紹介します。

仙台市公立小学校 教諭 齋藤 祐佳

従来より指摘される、道徳の授業の問題点

道徳の授業は年間35単位時間あります。その35単位時間をどれほど充実させることができているでしょうか。
道徳教育の充実に関する懇談会の報告(文部科学省)では、道徳教育に対する量的課題と質的課題が指摘されています。
質的課題では、主に4点の指摘がなされています。

  1. 教員をはじめとする教育関係者にも理念が十分に理解されておらず、効果的な指導方法も共有されていない
  2. 地域間、学校間、教師間の差が大きく、道徳教育に関する理解や道徳の時間の指導方法にばらつきが大きい
  3. 授業方法が、読み物の登場人物の心情を理解させるだけなどの型にはまったものになりがちである
  4. 学年が上がるにつれて、道徳の時間に関する児童生徒の受け止めがよくない状況にある

このような指摘を踏まえ、「児童生徒一人一人が、答えが一つではない道徳的な課題を自分自身の問題として捉え向き合う『考え、議論する道徳』への質的変換」(文部科学省)が求められるようになりました。
では、求められる質的変換はどうすればできるのでしょうか。

求められる道徳の授業とはどのような授業か

これまでの道徳の時間について、文科省は「読み物の登場人物の心情理解のみに偏った授業」「決まりきった答えを言わせたり書かせたりする授業」が多いという課題を指摘しています。
この課題を解決する授業とは、どのような授業なのでしょうか。
例えば、以下のような授業を考えてみます。

  • 読み物の登場人物の心情理解に留まらず、読み物の登場人物の心情変化の理由に関わる道徳的価値まで問いを掘り下げる授業
  • 決まり切った答えを書く授業ではなく、わからない答えをテーマに、考え対話する授業
  • 答えが容易に導ける問いではなく、答えのわからない問いを児童自身が立て、その答えを考える授業

このような授業を増やすことで、道徳の時間で指摘されている課題が解決していくと考えます。

道徳の授業でp4cを

これらの授業を実現する方法の1つとして、p4cがあります。
p4cとはphilosophy for childrenの略称で、子どもの哲学、子どもの哲学対話などと訳される教育実践です(以下、p4cと表記します)。
p4cは、問いを児童が立てる、答えについて考え対話するなどの特徴を持ちます。
さらに、まだ話していない人を優先する、話したくないときにはパスができるなどいくつかのルールがあり、安心して対話することができます。
これからご紹介するような、p4cをとり入れた道徳の授業をしてみるのはいかがでしょうか。

p4cをとり入れた道徳の授業の流れ

私の昨年度の実践と、『「探究の対話(p4c)」はじめの一歩』を参考にしながら、道徳の授業での実践をご紹介します。

  1. 輪になって座る
  2. 問いを立てる(問いを選ぶ)
  3. 対話のルールを確かめる
  4. 対話を行う
  5. 対話の振り返りをする

ここからは、各ステップをより詳しく紹介していきます。

1. 輪になって座る

輪になって座ります。
教室で椅子に座って輪になってもよいですし、床に座ってもよいです。
全員の顔が見られるようにします。
ファシリテーターとなる教師も児童と一緒に輪になって座ります。

2. 問いを立てる(問いを選ぶ)

授業で考える問いを児童が立てます。
対話にたっぷり時間を確保したい場合、事前に読み物を読む時間をとり、考えたい問いを考えるとよいです。
私は朝の会の前の学習時間に、授業で取り上げる読み物を読む時間をとり、児童に各自問いを考える時間をとっていました。
問いは、google formを使って集めていました。
問いが集まったら、似ている問いを集めるなどの整理をして、多かった問いを中心に5つほど挙げます。
これを黒板に書き、児童と共有します。
この中から、今日の授業で考えたい問いはどれか児童に問い、多数決で1番多かった問いを授業の問いとします。
問いは1つに絞らず、2つあってもよいです。

対話を深める質問:WRAITEC(ライテック)

ここで、対話を深めるためのツールとして、WRITEC(ライテック)をご紹介します。
WRITEC(ライテック)は対話を深める視点を与える6つの単語です。
6つの単語のアルファベットの頭文字をとって、WRITEC(ライテック)と呼ばれています。

対話を深める視点は以下の6つです。

  • What(意味)どういう意味かな ?
  • Reason(理由)なぜそう思うの ?
  • Assumption(前提)それって当たり前かな ?
  • Inference/If~then~(推論)もし~なら~ということになる ?
  • True(真実 事実性)本当にそうかな ?
  • Example/Evidence(事例 証拠)例えば ? 証拠は ?
  • Counter-example(反例)でも、こういうこともあるのでは ?
    (「探究の対話(p4c)」次の一歩より引用)

児童も教師も含めて、参加者がライテックを使って質問することで、対話を深めていきます。
しかし、これを必ず使わないといけないものではなく、あくまで対話を深めるツールとして使います。
例えば、6つの単語を画用紙に大きく書いておき、対話をしている円の中心に置き、常に目に入るようにしてもよいですし、黒板に書いておくのもよいです。
道具ですから、いつでも使いやすいように工夫しておくことが重要です。

また、ライテックは対話中だけでなく、問いを立てる際にも活用できます。
すぐに問いを立てることができる子もいれば、問いを立てることが難しい子もいます。さらに、問いを立てるのが比較的容易な説話もあれば、説話だけでは、問いを立てるのが難しいこともあります。
もし問いを立てるのが難しい場合は、ライテックを参考にして問いを立てるとよいことを伝えます。

次回、より詳しい授業の流れの続き(3. 対話のルールを確かめる~)をご紹介します。
対話で用いる道具(コミュニティボール)、対話のルールについてもくわしくご紹介します。
また次回もお読みくださると嬉しいです。

関連リンク

齋藤 祐佳(さいとう ゆか)

仙台市公立小学校 教諭


公立小学校にて勤務しながら、よりよい教育を模索している。
宮城教育大学教職大学院にてp4c(子どもの哲学対話)を研究し、現在は心理的安全性を高める学級経営、子どもと対話し考えを深める道徳教育に生かす。
『初任者教師のスタプロ ハッピー学級経営編』(東洋館出版)にてコラムを執筆。
note(https://note.com/haru_kaneko)では、子どもとの日々をありのままに綴っている。
日本教育心理学会所属。

同じテーマの執筆者

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop