2024.02.06
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異業種から学ぶ

前回は「異校種から学ぶ」ということで、主に授業づくりについての学びについて書かせていただきました。
今回は「異業種からの学び」ということで、授業づくりという面もありますが、教師としての仕事にプラスの効果があったと実感している学びについて書かせていただきます。

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

勉強会に参加して

人権教育の流れで、ファシリテーションに興味を持ち始めた私は、主に教師の方が参加しているセミナーや講座に足繫く通っていました。そこで知ったある勉強会に参加しようと思ったのですが、それまでとはちがっていました。それもファシリテーションを学ぶ勉強会でしたが、来られている方が多種多様な職業の方たちだったのです。プロのファシリテーターである長尾彰さんが主宰で、マンションの一室でみなさんと対話をしながら学ぶのですが、企業の人事担当や営業担当、経営者、スポーツ選手、整体師など様々な方がおられました。逆に教師の方はほとんどおられなかったので、少し躊躇しつつ、参加しました。   

今思うと、この勉強会では本当に様々なことを学び、今の自分の土台になっているのですが、来られている方と対話しているときにある共通点を感じるようになりました。それは大抵の方が「学校が好きではない」「教師が好きではない」ということでした。「学校での授業は苦痛だった」「あの先生のあの一言は嫌だった」「だいたい先生は決めつける」・・・・など、学校に対するマイナス体験をたくさん聞きました。

また、「先生か。先生は大事やで」「先生の存在は大きいで。それを自覚していない人が多いな」などという話も大分聞きました。自分も学校に対するマイナス体験はありますが、基本的には学校でのプラス体験のほうが大きく、だからこそ教師になったのでしょうが、様々な職種の方からのマイナス体験を聞くと、教師という仕事の責任の重さとだからこそ「何をすればよいのか」「何ができるのか」と内省せざるを得ませんでした(もちろんマイナス体験ばかりではないでしょうが)。教師は現状に甘んじるのではなく、すべての子どもにとって「学校が楽しい」「学ぶことが楽しい」を追求すべき重要な存在だと認識させられました。

輪読する中で

その勉強会では、システム思考の書籍を輪読する時期がありました。システム思考についてはいくら学んでもわからないことばかりなのですが、「見ている部分だけはなく、要素のつながりを全体の構造を見ることで、真の解決策を見つけるための考え方」(枝廣・小田,2010)であり、社会の中にある構造を全体のシステムで見るために可視化したループ図など、教育の世界でも活用されてきているようです。

輪読する際は、大きなまとまりで順番に音読をし、気づいたこと、思ったことを自由に対話するのですが、いろいろな職種の方の日常の悩みや課題なども聞くことができます。そのたびに「これは学校でいえば○○だ」「学級の中でも同じことが起きている」と比較しながら聞いていました。そのため、私の発言はだいたい「学校でも同じで・・」「学校で言えば・・」という感じだったように思います。

また、単純に教師の世界にいるとわからない生産、物流、管理の仕組みや労働条件・基準などを知ることができたのも面白かったです。

教材開発の中で

異業種の方の出会いで言えば、教材開発の中でお会いすることも多くありました。社会科においては一から教材をつくることが可能なので、教材で登場していただく方に取材をするのですが、この取材が本当に面白く、だから社会科が好きなのかもしれません。取材といっても限られた時間でお話を聞くので、「それでどれだけのことがわかるのか」ということもあるでしょうが、それだけでも新しい視点や知らない事実を学ぶことができます。これまでの経験では、「小学校の授業で」と言えば大体協力していただけます。

教材化したい方たちの共通点を感じることがあります。それは「子どもたちのため」ならということで「教育活動」を重要だと考え、大切にされているということ。また自分の会社とか自分のこと、自分の家族といったことだけでなく、「人のため、社会のため」といった思想が見えるということです。働くこと自体が「人のために役立つことを生み出す」ことなので何を当たり前のことを、という感じですが、その方の「情熱・こだわり」を知ることは面白いと共に、「自分もがんばろう」という活力をもらえます。

越境学習

異業種の方に学ぶことは、経営学や組織論などで盛んに言われている「越境学習」ということになるでしょう。中原(2018)は、「自分の慣れ親しんだ場所を離れて、違和感を感じる場所に行き、気づきを得る」と簡潔に定義していますが、この「違和感を感じる」というのが学びを生み出すポイントだと思います。境界を越境すると、まず違和感を感じ、そうするとそれに抵抗を感じます。「やはり違う」「なんかおかしい」「やりにくい」「うまくいかない」といったように。問題は次からです。
以下の2つがあると思います。

①「やはり自分の考え方のほうが正しい」「これは変える必要はない」「これはここの場だから通用するんだ」ともとに戻って、より一層自分の思考・行動を強化していく。

②「どうしたらいいか」「今までの自分の考えはどうだったのか」といったように自分の内省から思考・行動を変化させていく。

②のほうがよさそうな感じがしますが、①にも意味はあると思います。①であろうが②であろうが、新たな気づきを生み出していることは確かです。これが「越境」することの良さだと思います。

境界

異業種であれば越境する「境界」ははっきりしていますが、同業種にも「境界」はあります。というか「境界」だらけかもしれません。香川(2015)は「境界は変化するもの」であるともに「境界の必要性」も述べています。「境界」があることで安心して活動できます。越境学習の観点から日常の仕事を見ると、学びはそこかしこに転がっているように思います。

石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

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