2024.01.17
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異校種から学ぶ

授業づくりにおいて、異校種から学ぶことは大変効果的だと思います。自分は小学校教師なので中学校・高校の授業づくり理論や実践からアイデアをいただくこともあります。それぞれの校種の特徴も見えてきて面白いです。

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

異校種の先生方との出会いから

社会科授業づくりのために、様々なセミナーや勉強会、学会などに参加すると、異校種の先生方とお会いし、対話をする機会に恵まれます。中学校や高校の先生方とお話をすると、小学校との違いが見えてきて、小学校のメリット・デメリットを感じることがあります。個人的な経験の範囲だけなので、違う先生もいらっしゃると思いますが、中学校の先生とお話をすると、一般的にもよく言われていて自明のことかもしれませんが、やはり中学校3年間のゴールである「高校入試」を意識して授業づくりをされていると感じてしまいます。非常に面白い問題解決的な学習や生徒が自律的に学ぶ探究的な授業をされている先生でも、どこかで「知識の定着」を考慮した時間を入れられていることなどからそう感じてしまいます。小学校では、あまりそういったことを意識しておらず、(私だけかもしれませんが・・)、とにかく面白く、知的好奇心が喚起される授業をしたい・・くらいしか考えていないなと思わされました。

また高校で最先端の探究的な学習をやられている先生から「どうやって探究していくのか、どう調べて何に表現し、どんな内容を盛り込むかなどは高校生でも最初に丁寧に教えます。それを明示してから任せていきます」とお聞きしたときは、小学校でのいわゆる「個別最適な学び」のように自律的な学習をしようとするならなおさらだな・・・と思いました。

相違点から

(1)多面的な思考

小学校と中学校の社会科授業づくりにおいての相違点は様々な切り口があると思いますが、中学校の授業づくりで個人的に参考にしているのが「多面的に考える」という内容です。

学習指導要領の育成を目指す資質・能力「思考力、判断力、表現力等」の項目において、小学校では「社会的事象の特色や相互の関連、意味を多角的に考えたり、・・」となっており、いわゆる様々な立場に立って考える「多角的に考える」ことが大切にされています。

しかし、中学校では「社会的事象の意味や意義、特色や相互の関連を多面的・多角的に考察したり・・・」となっており、様々な立場から、さらに様々な側面(地理的な側面、歴史的な側面、経済的な側面、環境的な側面・・など)からの思考の必要性が述べられています。

子どもの発達段階から考えて納得するのですが、子どもの思考を深めるために、小学校でもあえて多面的な思考に挑戦することも面白いと考えています。

すぐに活用できるのはいわゆる「メリット・デメリットを考える」ことです。例えば3年生の「市のうつり変わり」の学習において、交通のうつり変わりを調べ、「市民は交通のうつり変わりについてどう思うのか」を考える際に、「道路も増え、道幅も大きくなった。地下鉄も開通して便利になった」「暮らしやすくなった」という意見がある中であえて「良いことばかりしかないんやね?」と揺さぶることで「排気ガスが増える」「騒音の問題がでてくる」といったデメリットと考えられる意見も出てくる可能性があります。実際に本校の3年生の実践ではそういった意見が出ていました。

ただし、とことん多角的に考えていくことで、多面的な思考がでてくる(○○の立場なら~という面は賛成できるけど、△△の面は賛成できない)可能性もあるかなとは思うので、つながっているとも言えるかもしれません。

(2)歴史学習

小学校の歴史学習は、学習指導要領で「世の中の様子、人物の働きや代表的な文化遺産に着目して・・・(省略)・・・大まかな歴史を理解するとともに、関連する先人の業績、優れた文化遺産を理解できるようにすることである」となっており、人物や文化遺産中心の学習がねらいとされています。

一方、中学校では「歴史的な見方・考え方」として「社会的事象を、時期、推移などに着目して捉え、類似や差異などを明確にし、事象同士を因果関係などで関連づけること」と明示されています。歴史の展開が「なぜそうなったのか」という因果関係で考えることは歴史の面白さの一つだと思います。ですから、小学校においても「なぜそうなったのか」と子どもが思うのは自然なのですが、因果関係を考える上で、関わる社会的事象が複雑だったり、多かったりするので、小学校では難しい面もがあるとだと思います。

しかし、中学校のような「なぜ」中心の学習も必要な時があると思います。例えば、子どもたちが興味・関心を持ちやすい「ペリー来航」の学習ですが、様々な実践例がありますし、「鎖国すべきだったのか。すべきでなかったのか」という実践もよくあると思います。多くの大名が反対する中でなぜ幕府は開国を押し切ったのか。子どもは自然と疑問に思います。それを理解するには、その当時の大国の清が負けたアヘン戦争や、ペリー来航までにも何度も外国が訪れるが退去させていたことなど、中学校の内容を扱う必要があるでしょう。小学校の教科書には記述がありませんので、実際に私は中学校の教科書のアヘン戦争の絵図や文書資料を使用しました。

特に歴史学習は中学校の内容を扱ったほうが、理解が進み面白くなることがあるように思います。

共通点から

図1 ツール「重ねる」

出典:国土地理院ウェブサイト

小・中・高の校種の共通点としては、これも学習指導要領の解説編に明示されていますが、「社会的事象について調べまとめる技能」です。

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〇情報を収集する技能
 ・野外調査活動(社会見学等)
 ・社会調査活動(聞き取り、アンケート)
 ・地図、年表、新聞、文書、音声、画像、現物資料から
〇情報を読み取る技能
 ・大まかな傾向性をふまえて
 ・正確な事実
 ・有用な情報
〇情報をまとめる技能
 ・メモ、地図、グラフ、年表、図、情報機器に  (筆者 抜粋)
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共通点ですから、小学校であっても必要があったり、子どもの実態に合わせたりして高度な技能を身につけることが可能ですし、高等学校においても必要ならば、初歩的な技能から積み上げていくこともできるということです。
個人的には、中学校や高等学校での実践例が多い、地理情報システム(GIS)は小学校段階でも活用できると考えています。特に「国土地理院/GSI Maps」は、地図がどういうものなのかを理解しやすくしますし、様々な機能により、自分で地図を作成できたりもします。
その中でも地図を重ねる(図1)は、地図がどのように表現されているのか、校区写真との比較によって理解するのに効果的だと思います。

唐木は、『小中社会科の授業づくり 社会科教師はどう学ぶべきか』の著書の中で
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高等学校教員にお薦めするのが、小学校の授業を参観し、授業研究会に参加することです。小学校の教師によって編まれた図書を読むことも薦めています。なぜか。そこで話されてたことが同じ社会科(地理歴史科・公民科)であっても、小高の間でずいぶんと異なることを感じてほしいからです。そして、高等学校に社会系教科に足りないものを、小学校の社会科に見いだしてほしいからです
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これは、逆も然り、小学校教師が高等学校の社会科から足りないもものを見いだす必要があると思います。今後も異校種の授業から学んでいこうと思います。

参考資料

石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

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