2020.03.30
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

小学校英語での子どもの自己調整力を育む振り返りとは

依然,新型コロナウィルスの影響が社会を大きく揺るがしています。さまざまなイベントが自粛して,家や職場にカンヅメで困る!なんて人も多いかもしれません。しかし,そこは逆手にとって,せっかくじっくりと本を読んだり,腰を据えて仕事に打ち込めたりするなら,新学期が始まるまでに,これまでの自分の授業の「振り返り」をして,自分の授業に磨きを掛けてみませんか。

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭 常名 剛司

振り返りなんてテキトーに書いとけばいいや!

ある調査によると,授業の中で,教師は子どもに振り返りをさせていると思っていても,実際には,子どもたちは振り返りをしているとは感じていないことが多々あるそうです。反対に,教師も子どもも振り返りをしていると認識していると,子どもの学力も高い傾向があるようです。

なんとなく達成度を示すマークに色を塗るだけだったり,選択肢に○をつけるだけだったりする振り返りでは,子どもは,「とりあえず『よくできた』に○でもつけとけばいいや!」などと思って,振り返るフリをしているだけです。

しかも,教師が「さあ,今から振り返りをしようかな」と思ったら,子どもが「先生!もう休み時間だよ!」なんてありがた迷惑なことを教えてくれるので,教師は,「じゃあ,振り返りは休み時間にやっといてね!」なんてことを言ってしまって,もう馬の耳に念仏みたいなもんです。

子どもは,「ああ!もう休み時間なのに!早くサッカーしたいな!振り返りなんて適当に書いとけばいいや」となるのがいつものパターンです。

かく言う私もそのパターンです・・・。
しかし,これでは,「振り返り」をしたなんて言えるはずがありませんよね。子どもはとりあえず,振り返りの欄を埋めただけです。自分の学びを振り返って,状況を自覚し,次には何を頑張りたいかなんて,全く考えていません。

振り返りはなんのためにするのでしょうか?

それでは,授業でよく行う「振り返り」は,なんのためにするのでしょうか。

ただ漠然と受動的に授業に参加するのではなく,自分の学びの状況を振り返って,足りないところやもっと伸ばしたいところを自覚して,能動的に自分の学びを改善していくために「振り返り」をするのです。このように,子どもが自ら自分の学びの状況を自覚して,改善していくことを自己調整といいます。そのような自己調整を働かせて,子どもが自分で自分の学びを改善していくために行うのが「振り返り」です。

振り返りで大事なのは,「ターゲットセンテンスを使えたかどうか」ではない!

小学校英語では,振り返りの視点として大切なことがあります。
小学校英語では,どの学習単元でも新出表現や新しい文法を学習します。その新出表現や文法がすらすら使えるように,その単元や単元を跳び越えて何度もコミュニケーション活動を繰り返して表現に慣れ親しんでいきます。できるだけ実社会に似た文脈で,何度もその表現に触れないと子どもはなかなか自由に使えるようになりません。

例えば・・・
小学校6年生の将来の夢について尋ね合う単元の学習では,ターゲットセンテンスとして「What do you want to be?」という表現が出てきます。この単元の最後に仲間とのコミュニケーション活動を設定したとしましょう。子どもたちは,仲間たちと楽しく将来の夢やその理由などについて話し合った振り返りとして,教師は「What do you want to be?が使えたかな?」と子どもたちに問い掛ければいいのでしょうか。

振り返りで大事なのは,「伝えたいことが伝え合えたか」です!

子どもたちにとって一番大事なのは,どんな英語表現を使えたかというよりも,相手とお互いの思いを伝え合えたかどうかなのだと思います。まして,将来の夢を尋ねる表現としては,「What do you want to be?」が使えることは望ましいとは思いますが,「what’s your dream?」だっていいでしょうし,他にも意味が通じる言葉はたくさんあるでしょう。単元におけるターゲットセンテンスとして学習しているので,子どもは自然とその表現を使おうとはしますが,その表現が口から出てこなかったときに,これまでの既習表現を駆使して,どうにかして,自分たちの思いを伝え合おうとすることの方がよほど大切なのではないかと思うのです。

ですから,「振り返り」で大事なのは,「ターゲットセンテンスを使えたかどうか」ではなく,「伝えたいことを伝え合えたか」なのです。ターゲットセンテンスのことは,教師がことさらに強調して振り返らなくても,子どもは自分で使えたかどうかを自然と振り返っているものです。

もしも,決まった表現を使えたかどうかをいつも振り返っていたら,子どもはそのうちに,自分たちの思いを伝え合うことよりも,どんな表現を使えたかどうかが大事だと思ってしまうでしょう。それでは,本末転倒です。コミュニケーションの意味は,あくまでお互いの知らないことを知ろうとすることにあるのですから,どんな表現を使ったかどうかは,二の次なのです。コミュニケーションができたという自己効力感が次の学びを生む原動力となり,子どもの自己調整につながっていくのだと思います。

次回は,さらに自己調整にスポットを当てた振り返りの視点についてお話しようかなと思います。あくまで予定ですが。またまた英語にまつわる身近な話題を提供していきたいと思います。よろしくお願いします。

常名 剛司(じょうな つよし)

静岡大学教育学部附属浜松小学校 教諭
小学校英語教育の研究を担当しています。自律的に取り組む本物の文脈の中で,子どもの資質・能力を育む小学校英語教育のあり方について考えていきます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop