2019.01.30
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自己変容物語で学期の終わりを締めくくる

ここ数年の自身の実践の中で「書く」はかなり大きな比重を占めます。その中で学期末には「ふりかえり」を書く活動に取り入れてきました。様々な形で「振り返り」をする中、「自分を支えたもの」をテーマに学期末の「書く活動」を行った年があります。そこでの様子に心理学の講義で学んだ「自己変容物語」に関する知見を組み合わせ今回は書き綴ります。

佛教大学大学院博士後期課程1年 篠田 裕文

自己変容物語としての転機

「転機」という言葉を耳にされた方、多いと思います。

・僕の転機は小学校4年生の時に父親がキャッチャーミットを買ってくれたこと。
・私の転機は大学3年生の時にオーストラリアに旅行に行き、そこで現地の人と共に生活したこと。

このような使われ方で日常生活にも登場することが多いのではないでしょうか。転機を語ることは一種の自己語りでもあります。私たちは現在の自分から過去の自分を解釈・整理し、今の自分に納得したりこれからの自分を形作ったりしています。

転機は事実や実態ではなく、「現在の時点においてあれが実は自分の転機だったという『今の時点での気づきの報告』」であり「その人は自己を語るとき、変化の暗黙理論に基づいて転機の物語を成長の物語として語る」ことができます(引用文献:杉浦健『転機の心理学』ナカニシヤ出版2004年)。子どもたちに「成長」を実感させたい場合、転機を語る、すなわち自己の変容を物語る活動への取り組みが有効だと杉浦の研究から推測できます。

私もある実践を通して、子どもたちの自己変容物語に着目し、子どもたち自身が成長を実感できるきっかけをつくることができたのではという経験があります。当時はこの「転機」に関する研究は知りえませんでしたが、記録と共に振り返ってみたいと思います。

2学期の自分を支えてくれたもの

この実践を行ったのは12月20日、火曜日1時間です。「2学期の自分を支えてくれたもの」をテーマに子どもたちが作文を書きました。
文字数は300字~400字程度。制限時間は20分。書き出し、書き終わりを工夫すること、表現を丸くすること(かたくるしい表現をしないこと)との条件設定をしたと当時の記録には書かれています。子どもたちが「支えてくれたもの」として選んだ事項は

・友達と一緒にいること
・先生の存在
・目標
・学級のシステム
・授業
・自学
・班行動
・自分の意思
・自身
・学級の存在

と多岐にわたっていました。実際の作文を見てみましょう(似たテーマのものを幾つかのものを組み合わせています)。

(その1)
 今ふと2学期を振り返る。2学期は1学期に比べとてもよくなったと改めて思う。そんな2学期を支えてくれたものは何なのか。
 まず授業だ。授業が終わる15分前くらいから意見文や自分の考えを必ず書いた。1日1日たつごとにとても上手になり楽しかった。他の人のいいところを見つけ、それを取り入れることでさらにいい文章になった。この積み重ねがあったからこそ今があると私は思う。
 また自学だ。自学はだいたい1時間くらいしている。この短い1時間でどれだけ考えられるかということもとても楽しかった。時に自分の意見だけでなく、わかりやすく資料を付け加えることも覚えた。
 これらの良さを知り、また人の良さを取り入れたことが2学期を支えてくれたものだったと思う。

(その2)
 2学期色々なことが頭に浮かぶ。陸上・音楽会・持久走・修学旅行。これほどの行事があった中で僕を支えてくれたものは何なのか。それは目標があったことだと考える。例えば陸上記録会。僕はリレー選手だった。ぼくたちの目標というのはバトンパスをきっちりしてタイムをあげること。たくさん練習をし、うまくなろうとした。他の行事だってそうだ。音楽会ならリコーダーを完璧にするという目標。色々な努力をした。目標を目指すことでぼくは努力をすることができた。目標を目指し続けることが僕を成長させてくれた。目標がぼくを支えてくれた。

(その3)
 学習面でも1学期よりも難しい問題がたくさんでてきた。そんな中私を支えてくれたのはやはり友達だ。
 算数の時間。私は算数がとても苦手だ。今までの問題を振り返ると1人では解くことができなかったものもたくさんある。そのような中で友達がいてくれたことで難しいこともわかるようになった。もし友達がいなかったらだれかに詳しく聞くこともできずにわからないままで終わってしまう。しかし今の私は算数の学習が私にとって必要なものだとわかるようになってきている。
 友達、それは私にとって大切な存在。私を支えてくれる友達にこれからも感謝していこうと思う。

実践を振り返って

「支えてくれたもの」を書いた子どもたちが挙げたもの。それは2学期の自分を語る上での「転機」だったと考えられます。私たち大人が「転機」を考えた時に

・特定の人の存在
・特定の場所の存在
・特定の事物の存在

を挙げることもあるでしょう。またある一点を指すときもあれば、ある程度幅のあるものを指すこともあります。子どもたちが挙げたものもそれと同じ。人であったり事物であったり瞬間的なものであったり継続的なものであったり。「支えてくれたもの」というテーマでしたが、支えられる前後の比較、支えられた結果に着目しそこには自身の「成長」が直接的に、間接的に書き綴られています。支えてくれたものという概念が結果的に自分にとっての「転機」に着目することにつながり(厳密には転機といえないかもしれませんが)自分の2学期を自らの手で「成長」という視点から再構成していたのではないでしょうか。

 当時の私にとって「支えてくれたもの」というキーワードはふっとでてきた、いわば感覚的な言葉。それが「成長」という言葉を使わなくても子どもたちが「成長」を語ってくれたと、「支えてくれたもの」を書くことは「支えられた結果自分がどのように変容したか」につながるんだと驚いたのを覚えています。
 
 自己変容物語は子ども達に成長を実感させることができる、大学院で「転機」の心理学を学び改めてそのように思います。自己変容物語は過去を語るものですが、それは固定化されたものでは決してありません。何度も語り直すことができ、現在の自分の状況によって意味づけが変わることもあり得ます。子どもたちが語る自身の成長には「自分への期待」も語られていると私は考えています。子どもたちが自身の成長を語ることのできる自己変容物語。4月から復帰する小学校現場でさらに実践を重ねていきたいと思います。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

参考資料
  • 杉浦健(著) 『転機の心理学』 ナカニシヤ出版 2004年

篠田 裕文(しのだ ひろふみ)

佛教大学大学院博士後期課程1年
修士課程を修了し博士課程に進学しました。修士時代に学んだこと、学校現場で実践したことを書き綴りたいと思います。

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