2023.08.22
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先生にとっての 何だかとても大切なもの その学校が伝えようとしているものを見つけ、改めて光を当てるということ

ひとつの学校にいられる時間は、思ったより短いものなのですね。公立小学校勤務の私は、おおむね3年ないし4年ぐらいでいつも異動となります。とはいえ何十年も見守ってくれていた母校の大学の先生のように、状況次第では長く勤めることもできるのでしょうね。もちろん全国の状況はまた違うところもあるとは思います。
さてこの3・4年間というスパン(時間の幅)は、その学校の創立時からの長い時間の流れの中で考えれば、ほんのわずかなものだと思います。でもその間に私たちができることは一体何でしょう。直近の学校目標の具現化はもちろんのことなのですが。

静岡市立中島小学校教諭・公認心理師 渡邊 満昭

学校(特に小学校)は、もしかしたら地域のビジターセンターかも?

ビジターセンターをご存じですか。ビジターセンターとはその場所を利用者が容易に理解できるよう解説、展示するための施設のことです。自然公園等でよく見かけますね。私もよく利用します。

新しい学校に赴任した時は、このビジターセンターに出かけたときのように、しばらくは自分なりの視点で眺めるようにしています。なぜかというと、もしかしたら3・4年間ぐらいの在職期間では到底知り得ない、先人の願いや工夫、地域の魅力がさりげなく示されていることがあったりするのです。

行政区分が違えば、近隣にあっても学校のイメージが全く違うように感じるのはおもしろいなと思います。逆に行政区分が同じなら、かなり離れていてもよく似ていることもあります。でもそこですごした方々は全く違うのですから、探してみるとあちこちの造作にその学校のオリジナリティを語り出すような感触があります。

地理的な立地や学校の沿革、校歌に盛り込まれている言葉の一つ一つにも、着目してみると新たにわかることがあります。特に校歌には、物としては残っていない、当時学校に関わった方々の思いが盛り込まれているのだろうと受け止めています。

子どもたちと新たな学校のオリジナリティを追究し、上乗せしていく

やっぱり学校そのものや周囲の地域を探検してみないと、その学校の本質は見えてこないものなのではないでしょうか。学校での日常は本当に忙しいので、意識していないとつい忘れてしまいますが。

私たちは、それぞれの在職期間中にその学校で子どもたちにと関わり、学びや行いについて意味や価値づけ、ストーリーを形作っていくという役目を担っています。その時に学校設立時の思いや人・もの・ことの経緯等を知っているといないとでは、話の質が格段に違うと思うのです。

例えば、ある学校では階段の手すり面に等間隔で木片が打ち付けてあります。手すりとしては邪魔だなと思っていたら、煙や暗闇など視界が効かないときに手すりを頼りに移動するときに今何段目にいるとかを知るための工夫なのだと教えてもらいました。びっくりです。別の学校の手すりにはなぜか何体もの木製の人形がついています。不思議に思っていたら「おもいやり人形」というものなのだと地域の方に教えてもらいました。手すりに手をかけるたびに、人形に触れる形になります。そういえば学校全体で「おもいやり」を大切にする空気感があるのです。

学校の植え込みの裏側には、なんと立派なぶどう棚がありました。気になって時々見に行きますが誰も知らないようです。周囲を見渡してみるとどんぐり、シイノミ、カナリーヤシなど実のなる木が利用しやすいように連なって植えられています。さっそくこどもたちと木の実集めに行ったのはいうまでもありません。校庭の植生について伝わっているものはありませんでしたが、学校の設立当時、なるべく実のなるものを植え、木を通じての学びを作ろうとする先人の願いがわかるような気がしました。

しばらく放置されていた校内園を子どもたちと開墾した先生もいます。聞けば園に導入されていた土の質が格段によく、作物がよく育つのだそうです。やはりここにも先人の願いが込められていたといえそうです。

そこから新たな学びも始まります。習ったばかりのパソコンで木の表札を作り出す子もいます。低学年に向けての校内自然観察ツアーを企画する子もいます。掘り出したジャガイモを元手に生活単元の学習を進める子もいます。こうした学校の探検は、すればするほどその理念をくみ取り子どもたちの課題追究への意欲を高めるものでもあると思います。

学校によっては、周囲の都市化が進んでいても学校の中は創立当時の動植物が今も息づいていると言うこともあるかもしれませんね。知らずにすごすのはこどもたちにとっても私たちにとっても、もったいないことだと思います。

あと何年この学校に在職となるのかはわかりませんが、この学校が語り出すものをあちこちでくみ上げつつ、子どもたちと新たなオリジナリティを追究し、学校のありかたに少しでも上乗せしていくことができたらいいなと思っています。


渡邊 満昭(わたなべ みつあき)

静岡市立中島小学校教諭・公認心理師・学校心理士・環境教育インタープリター・森林セラピスト


いつの間にか、小中学校全学年+特別支援学級+特別支援学校+通級指導教室での担任を経験し、生徒指導主任+特別支援教育コーディネーター+教育相談担当経験も10年を超えていました。すると担任を離れたとたんに何かを忘れてしまって、担任に戻ってみると忘れていたことに気がつくということがたびたびありました。それはうまく言えないけど何だかとても大切なもの。先生を続けていくための糧のようなもの。
その大切なものについて、自分の実践と合わせお伝えしていこうと思います。

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