2023.08.01

先生にとっての何だかとても大切なもの　「先生、勝負だ！」はその子と私たちの信頼をつなぐ格別なチャンスなのだということ

あなたと先生との関わり、何か思い出はありますか。授業の時のことですか。ちょっとした仕草ですか。正直なところ授業のことはさっぱりです（自分のしてきた授業は思い出せるのに）。でも何十年もまえのその先生との「ちょっとした勝負」を、今も私は覚えていて教室の子どもたちと時々することがあります。もしかしたら、これもとてもなんだかとても大切なものなのだと思うのです。

静岡市立中島小学校教諭・公認心理師　渡邊　満昭

先生との「ちょっとした勝負」

先生と「勝負」した思い出はありますか。「勝負」といっても力の限り戦うわけではありませんよ。もちろん、予想以上の成長を見せてくれるのが子どもたちというものなので、種目によっては負けちゃうことも多々あります。自分は永くチャンピオンスポーツに関わってきたので、勝ったり負けたりが好きなのかもしれませんね。

ほとんど忘れている小学校の思い出ですが、その先生が50m走を一緒に走ってくれた記憶はとても鮮明です。そんなに若くはないぞ（しかも怖くて厳しい）と子どもなりに思っていた先生が、私の隣を必死に走ってくれたのですから。多分私は負けちゃったんだと思いますが、記録は大きく伸びました。これぞ「ちょっとした勝負」の効果でしょうか。先生ともずいぶん話しやすくなりました。

「先生も走るんだ」という驚きと、自然と１対１対応（個別対応）の場をつくり自分と同じ目線でいてくれるという気持ちがその時生まれたのだと思います。

「ちょっとした勝負」とはどんなもの？

こどもたちが「先生、勝負だ！」と声をかけてくるものには、「忙しい」という言い訳を上手に使いながらも、なるべく参加してみることにしています。

暗記・計算勝負、各種じゃんけん、トランプ、五目並べ、迷路、あみだくじ、ボードゲーム・カードゲーム（学習でも使っています）、指相撲・腕相撲、バランス崩し、鬼ごっこ、縄跳び、器械体操、10～100ｍ競争、キャッチボール、リレー、ドッジボール・バスケットボール・サッカーなどの球技等々、思えばずいぶん挑戦を受けてきたものです。

ところで子どもたちが「勝負だ」と声をかけてくる背景には何があるのでしょう。楽しいから、勝負しやすいから、自信がついてきたので力試しをしたいというものから、ちょっと困りごとがあるとかアタッチメントに関連してなど、多岐にわたると考えた方が良さそうです。ただいずれにしても、「ちょっとした勝負」の後は、何だかすっきりしていたり、いろいろ話し出したりできるように思います。「ちょっとした勝負」から認めたり広がったり、時には支えたりすることもあるでしょう。そこから信頼は生まれるのかもと思います。提唱されている「個別最適化」を進める時も、個々の子ども達と培った信頼感は不可欠だと思っています。

私たちにとっての「ちょっとした勝負」

最近また体育の準備運動を、意識して一緒にやりはじめました。するとできなくなっていたブリッジができるようになりました。今度はこちらから「勝負だ！」と子どもたちに投げかけています。同じ立場に立つことの意味はこんなところにもありそうです。

よく考えてみると、各年代の子どもから「勝負しよう」と投げかけられることは、先生以外はなかなかありませんね。自分がどんどん年齢を重ねていく中で、いつでも各年代の子どもに勝負してもらえるのは貴重なことなのだと思います。勝負することで今の自分の体力もわかりますから。

過信することなく自分の体力を客観視することは、永くプレイングマネージャー的な先生を続けていくためには必要なことだと思います。今の自分があるのも、そういう「ちょっとした勝負」を受けてくれた先生の存在があったからだと思うのです。

渡邊　満昭（わたなべ　みつあき）

静岡市立中島小学校教諭・公認心理師・学校心理士・環境教育インタープリター・森林セラピスト

いつの間にか、小中学校全学年＋特別支援学級＋特別支援学校＋通級指導教室での担任を経験し、生徒指導主任＋特別支援教育コーディネーター＋教育相談担当経験も10年を超えていました。すると担任を離れたとたんに何かを忘れてしまって、担任に戻ってみると忘れていたことに気がつくということがたびたびありました。それはうまく言えないけど何だかとても大切なもの。先生を続けていくための糧のようなもの。
その大切なものについて、自分の実践と合わせお伝えしていこうと思います。

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