2023.09.28
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指導案に顕れないことを

「この人たちと研究授業したい」って気持ち、悪くないですよね。

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭 今村 行

どうも、今村です。

研究授業をしました。
本校は、8月末から東京学芸大学の学生さんたちがたくさん教育実習に来ます(8月末から9月半ばまでの前期期間で4〜5名の実習生を迎え、それが終わった9月半ばから10月上旬までの後期期間で再び4〜5名の実習生を迎えます。大泉小で7年目を迎えたので、これまでに合計60名ほどの実習生と過ごしてきたことになります。こうして数字にしてみるとすごいですね)。その教育実習生向けの研究授業をしました。
結論から申し上げると、もうめちゃくちゃに私も愉しかったです。

指導案を書く

今回は、4年生の国語科で3時間扱いの「詩はメッセージ」という単元を構想しました。
金子みすゞの「蜂と神さま」、原田直友の「かぼちゃのつるが」、北川冬彦の「雑草」を用い、それぞれの詩の最後の一行を伏せて提示し、そこに入る言葉を考える、という活動を中心に設定しました。1時間に一つの詩を扱います。端的に示すと次のような流れになります。

①詩(最後の一行が伏せられているもの)を音読する
②詩の叙述に着目して最後の一行を考える。
③その一行を踏まえて、詩のメッセージを考える
④意見を共有する(今回は自由に仲間と話し合い共有する形)

研究授業ですから、学習指導案を書きます。
今回の場合、②、③、④の場面で児童が考えるであろうことについて予想し、「予想される児童の反応」として指導案に書き込んでいきました。
私は、指導案を書くのが、(かなり)好きです。
自分が構想した活動に、児童がどのように反応してくれるのか、その仮説を立てるプロセスが物凄く愉しいです。
私の場合は、クラスの一人一人の児童の顔を思い浮かべて「予想される児童の反応」を書きます。Aさんだったらきっとこんなふうに考えるんじゃないか、Bくんはきっとこの角度から捉えるだろう、Cさんは・・・というふうにできる限り詳細に考え、そこから傾向を読み取り、指導案の枠内に収めていきます。ここは、自分なりにその子との関わりを思い返しながら根拠をもって仮説を立てるわけですが、ちょっとしたいたずら心とでも言いましょうか、「きっとDくんはこんなこと書いてきちゃうんじゃないか…」というワクワク感も込めるわけです。これが、まず物凄く愉しい。

「指導案」というメガネで、現実を歪ませない

そして、授業です。
児童が②、③の活動に入って、私も児童の書いているプリントを覗き込みます。
「すげぇ…」
実習生の方と、同じ言葉をハモってしまいました(笑)
実際の児童の姿の中で、少しは私が予想したような記述もあります。でも、悔しいですが、私の予想を遥かに超えたところで考えを繰り出してきます。
一応言い訳を申し上げておくと、指導案を書く段階で、手を抜いていたわけじゃないんです。ギリギリまで想像したんです。でも、仮説は覆される。
「悔しい」と先ほどは言いましたが、もうそんなことも忘れて私は興奮し出します。
「え、なんでこの言葉を入れたの?」
「この一行を入れると、どんなメッセージになるの?」
興味が止まりません。そこで語られることは、指導「案」を超えたところにある現実なんです。

④の活動に至ると、さらにこちらが予想もしなかったことが次々と起こります。Eさんが、一行を考える際に「いきいき」と「生き生き」のどちらを使うか迷っていました。そこに子供たちが何人も集まってきます。
「ひらがなのほうが、すこしやわらかいメッセージになりそうだね」
「漢字で書くと、雑草の力強さがよくわかるんじゃない?」
「でも、私はこう思うんだよね」
ひらがな・漢字談義で盛り上がり、みんなでEさんが本当に言いたいことはなんなのか、を考え合います。
もうね、こんなの指導案で予想してないんです。詩を読み解きメッセージを考えるという授業の「ねらい」とは一見外れたところに、この話合いはあるように見える。
でも、私はこのやりとりが、とても大切なものだと思いました。一人の人間から言葉が生まれる瞬間に、何人もの仲間が一緒に立ち会おうとしている。

指導案通りにいくように都合のいい事実をなぞるのではなく、指導案には顕れない事実を前にして価値基準を編み直していくこと。
それが、指導案を書く、研究授業をする醍醐味なのだと改めて思いました。

「先生、もっと国語で遊ぼうよ」
授業中、とある男の子から言われました。
「そうだね」
また、自分の価値基準を、世界を拡げるために。

今村 行(いまむら すすむ)

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭

東京都板橋区立紅梅小学校で5年勤めた後、東京学芸大学附属大泉小学校にやってきて今に至ります。教室で目の前の人たちと、基本を大切に、愉しさをつくることを忘れずに、過ごしていたいと思っています。

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