2022.09.29
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文脈

文脈の中で、その言葉が輝くということを大切にしたいなと感じたいくつかの出来事について

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭 今村 行

「大人」への憧れ

自分自身、今よりも昔のほうがずっとテレビ番組を見ていました。好きだったテレビ番組はたくさんあるのですが、特に印象に残っているのは、高校時代に見ていた「僕らの音楽」という番組です。アーティストさんが、会いたい人を招いて対談するという内容でした。
椎名林檎さんが、イチローさんを招いて対談している回は、ビデオテープに録画をして、それこそテープが擦り切れるくらい繰り返し見た覚えがあります。
椎名林檎さんがフロントマンを務める東京事変の「スーパースター」という曲について話していました。この曲は椎名林檎さんがイチローさんのことを描いた曲で、そのことについて直接二人でお話されていました。

「僕、『スーパースター』って言葉大嫌いなんですよ。大嫌い」
とイチローさんが言います。
「でも、その前に、『私の』ってついてた」

大袈裟に言うと、僕はそのとき初めて「文脈」ということの重要さを知りました。
その時のお二人の表情が、なんとも言えず嬉しそうでかっこよくて、「うわぁ、大人ってかっけえぇぇ」という想いを思春期真っ只中の僕に湧き起こしてくれました。(ちなみに「スーパースター」が収録されているアルバムは『大人』というタイトルで、ずっと聴いています)

「大人」へ、少しずつ

私が勤める東京学芸大学附属大泉小学校には、東京学芸大学の3年生が教育実習に来ます。毎年1人の教員が8〜10名ほどの実習生を指導教員として担当し共に過ごします。今年度も、只今絶賛教育実習期間中です。
先日、教育実習生からこんなことを言われました。

「今村先生は、ほんとに国語が好きなんですね」

私は、小・中と国語という教科が好きではなく(読めばわかるのになんでわざわざ勉強するのか?と舐めていた)、高校でも理系のコースに進もうとしていて、当時は大学も教員養成の理科専攻を目指していました。
理科がずっと好きで、理科の先生になりたかったんですね。それが高校2年生の頃に、とある先生との出会いがあって、「国語ってむつかしいんだ」ということが分かり、そこからまさかの国語の道に進むことになってしまったわけです。
そんなもんですから、国語が「得意」という感覚は自分の中には全くないんです。でも、その教育実習生から「ほんとに好きなんですね」と言われた。そして、続けてこう言われました。

「授業で、子どもたちの意見を聴いてるときほんとに楽しそうです」
それを聴いて、文脈の中で、あぁ、確かにそうかもしれない、と思いました。

「読むこと」について考えると、一つの文章に触れたときに、子どもたちが解釈することは完全には一致しません。その子の生活の中での経験、置かれている環境、誰かに言われた大切な言葉、あるいは過去の読書体験など、様々なものが解釈に影響を与えます。その解釈を語ろうとするとき、もちろんその文章について語ってはいるのですが、同時に自分自身について語ることになります。自分はこんな見方、考え方でものを捉える人間なんだ、ということがそこで顕れる。

ですから、仮に自分が授業者としてその文章を用いて授業をすることが「はじめて」ではなくても、その文章を通したその子の解釈を聞くのは必ず「はじめて」になります。そこに私は、ワクワクするし、どんなことが生まれるんだろう?と興奮を覚えます。願わくは、学級のみんなもそれを感じてほしい、と思って授業を設計します。そこには「飽き」みたいなものは入り込む余地がありません。

だから、楽しそうに見えるのかもしれません。
文章そのものを自分が読むことも好きではありますが、多分その文章を通して人間を読むこと、学級という場で互いを読み合うことが、とても好きなんだと思います。

子どもの言葉や姿を歪めずに捉えられるよう、学び、かつ学んだことに寄りかからずに目の前の現象を見たい、と思います。
そういう文脈で考えると、教育実習生に対して「教師っていい仕事だよ」って、嘘偽りなく言えるな、と思います。そういうの、ちょっといい「大人」の顔で言えたら、尚良いんですけど。

今村 行(いまむら すすむ)

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭

東京都板橋区立紅梅小学校で5年勤めた後、東京学芸大学附属大泉小学校にやってきて今に至ります。教室で目の前の人たちと、基本を大切に、愉しさをつくることを忘れずに、過ごしていたいと思っています。

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