記憶力と意欲を高めるために
梅雨に入り、鬱陶しい気温と湿度に悩まされるような日が増えました。しかし、春の行事が一段落し、夏休みが楽しみになるこの時期、学習に集中して取り組むにはもってこいの期間となります。最近では、普通教室にもエアコンが設置されていることが多くなりましたので、環境を整えて1学期のまとめをしていきたいものです。
特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子
ところで、子どもたちと授業をしていると、記憶力には大きな個人差があることに気付かされます。あるとき、1人の子どもが、「先生、円周率を何桁まで言えますか?」と話しかけてきました。私は語呂合わせができる程度にしか覚えていないのですが、その子は百桁まで覚えたと言い、誇らしげに目の前で唱えてくれました。どうやって覚えたのかと質問すると、「5分間くらい見つめていたら、普通に覚えた」と返してきたのです。そういう子どももいるんだなと驚きました。
一方で、前日の学習内容のほとんどが残っていない子どももいます。算数のわり算の仕方を教えても、翌日には全く覚えていないのです。これは極端な例ですが、前述した記憶力の大きな子どもと、ほとんど忘れてしまう子どもの間にはたくさんの段階があり、人それぞれ記憶力の大きさは異なるということです。
そうであっても、記憶力を高めることは、学習を積み重ねていく上では欠かせません。「記憶力には個人差があるから仕方がない」といった考え方では済まされないのです。今回は、どのようにしたら記憶力を高め、それによって学習意欲を高めていけるのかについて考えてみたいと思います。
1 学習内容をしっかりイメージさせる
漢字の学習では書き順や読み、使い方の他に、文字の成り立ちや組み合わせを考えさせることがあります。これは、漢字の形をイメージして覚えるのに役立つ方法です。高学年ともなれば、教わる漢字のほとんどは既習の漢字の組み合わせです。どうしてその漢字ができたのか、読みはどの部首からくるのかなどに注目させるようにすると覚えやすくなります。回り道のようでも、余計な情報がある方が、記憶に残りやすいのです。
算数の学習でも、わり算の筆算の仕方を「立てる、かける、ひく、おろす」のように唱えさせることでイメージしやすくさせるやり方は、よく使われます。また、テープや数直線で表したり、それを使って解き方を説明させたりすることも記憶に残りやすくする方法のひとつです。
言い換えれば、知識を教師の頭から子どもの頭へと移すようなやり方ではなく、教師の説明によって子どもが自分で頭の中にイメージできるように仕向けるのです。成り立ちや解き方を、あたかも子どもが自分で見つけ出すような展開が大事なのです。「ああ、そういうことね」と思うことが、記憶への道につながります。これは、問題解決型の学習が広まった理由のひとつでもあります。
2 インプットだけではなく、アウトプットする時間を設ける
以前、体育の授業で説明や話し合いの時間が長いと、運動する時間が減ってしまうといった声が上がったことがありました。技能を高めるためには説明の時間も必要ですし、試合形式のゲームをさせようとすれば、作戦タイムも欠かせません。ですから、それらの時間と運動する時間のバランスを、いかにとっていくかが課題になったのです。
そういった傾向は座学でも同様で、教師は何かを教えようとすると、どうしても説明が長くなったり、板書が多くなったりしてしまいます。すると、授業時間のほとんどを、聞いているか書いているという受け身な作業に費やされてしまうのです。
主体的に取り組ませる方法はたくさんありますが、私が行っているアウトプットの方法は、とても簡単なのでご紹介します。例えば、「長方形の面積は、たて×横です」といった短い文章でもいいので、それを友達に伝えさせるのです。2人組になってじゃんけんし、負けた者が伝え、次に勝った者も伝えます。正確に伝えられたなら、ノートにサインし合うというものです。「3人からサインをもらってね」などと予め伝えておくと、友達を探し回ることになります。授業中に歩かせるというのは、多動性のある子どもには、ほっとできる時間ともなるようです。
先日、算数が苦手なタイプの高学年の子どもたちにこの手法を取り入れたところ、いつもは説明を聞くのも怠そうにしているのに、生き生きと活動していました。普段から楽しい授業にすれば、意欲も高まるのではないかと反省させられました。
3 ミルフィーユのように、何度も話題にする
ミルフィーユとは、フランス語で「たくさんの葉」を意味し、何層にも重なったパイ生地を使ったお菓子が有名です。私は特に算数を教えるときには、しつこく、ねちねちと、既習事項を何度も思い起こさせるような授業をします。
授業の初めには、「昨日、何を学習しましたか」と質問することから始めます。子どもたちは、「算数やった」とか、「プリントをやったかも」と、本気なのか冗談なのか分からない反応をすることもありますが、そういった回答も笑い飛ばしながら、学習内容を振り返させるようにします。算数は学習内容をミルフィーユのように積み重ねるタイプの学習なので、教師も粘り強くやっていくことが必要だと感じます。
算数のテストの平均が思ったより低いと、教師の一部からは、「ちゃんと教えたんですけどね」といった愚痴のような声が聞かれることがあります。「ちゃんと教えた」というのは、どういうことを意味するのだろうと考えます。「一度教えただけでは記憶には残りにくい」ということを、考えてほしいと思う瞬間です。
荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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