2023.02.21
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先生にとっての 何だかとても大切なもの 『水辺』は今を生きる子どもたちの( 大人にとっても)井戸端なのだということ

いよいよ年度末。今年度もいろいろなことがきっとありましたね。それなりの年代を経た私ですが、子どもたちと時にはため口をききながらも日々すごしています。
では学校のどこで私は、子どもたちとため口をきいているのでしょう。ため口がきけるとは子どもの本音も聞けるということ。学習を教えること以外にもいくつもの顔を持つ、使い分けができるそんな先生のあり方大事にしたいですよね。

静岡市立中島小学校教諭・公認心理師 渡邊 満昭

学校の水辺 ビオトープ

少し前のテレビ番組で興味深い話を聞きました。キャンプブームなので山を自分で購入する方が増えているというのです。そのとき、あるものが山にあると価値が高まるのだそうです。何かというと、どうやら湧き水とか小川といった水辺の有無のようなのです。水辺があるとかえって管理が大変な気もしますが、水流さえコントロールできれば、ちょっとした手洗いから水浴びまで楽しめるし便利です。なによりも冷たくて気持ちのよい水は、暑くなればなるほどうれしいものですよね。

実は似たような現れが学校でもありました。この学校には井戸水利用のビオトープがあります。近くに川はあるのですが、大きな川なのでちょっと利用しづらいということもありますし、学校のある地域は本来田んぼや水辺に囲まれた地域でしたが、最近の都市化により水辺が遠のいてしまったということもあります。そこで、学校に集う人たちが子どもたちのために力を合わせて作ってくださったと聞いています。

実は私も水辺が好きです。疲れたとき、気分を変えたいときに水辺のキラキラを眺めるとちょっと気持ちが上向くような気がします。感触もいいですよね。ひんやり冷たいとか、思ったより温かいとか。ここは井戸水なので外気に左右されないところがまたよいと思います。

というわけで昼休みは時々ビオトープに出向くなどして、それとなく植生や生き物の様子を見守っていました。身近なビオトープとは手放しの自然というものではなく、田んぼや里山と似ているもの、人の手が入ってその地の環境と一緒に作るものと思っているからです。人の手が途絶えれば、各校のビオトープも維持はなかなかに難しくなってしまうもののようですし。

常連さんとの井戸端会議

さて、そこで気がついたのは、水辺に行くと必ず顔を出す、何人もの常連さんの存在です。男の子も女の子もいます。何をするのかというと実に多彩です。眺める、水の感触を確かめる、生き物探しをするなどなど。海からやってきて大きく育つモクズガニの巣穴を見つけたり、流れを遡る小エビの行方を追いかけたりとずっと活動が途切れません。

注意してみると、ここでは教室で聞かれる「何すればいいの?」という言葉が漏れることはまったくありませんでした。自分が生き物のことを紹介するまでもなく、子どもたちの周りには歓声や止めどもなく続くおしゃべりがいっぱいです。解説も始まるので、いつの間にか私の役目は『話を聞くこと』になっていきました。

子どもたちの情報は重要です。学校や身の回りのいろいろなことを教えてくれます。釣りに家族と出かけた時の話や、めずらしい生き物の目撃情報もあります。すぐ横の溝に大きなウナギがいて、友達に見張っていてもらって網を取りに帰り、捕まえたんだという自慢話など、水辺で話に花が咲きます。そこには子どもも大人も無いのです。

すると、あっちからもこっちからも話かけてくることになり、ビオトープはちょっとした井戸端会議のようなありさまになっていきます。

井戸端の大切な役目

なぜその子たちは、水辺にやってくるのでしょう。私と同じように水が好き、生き物が好きということもあれば、あまり気を遣わずに話せる場所と思ってなんとなくやってくる子もいるのでしょう。常連さんが育つということは、毎回よい思いをするとかまた来たくなる何かがあるということになるのでしょう。

ということは、このような学校にある水辺というものは、やっぱり子どもたちにとって何らかの意味を持つ場所、とても大切な場所と考えることができるのではないでしょうか。

もちろん、そこに我々先生というものが足を運び、その一員として井戸端会議に加わるのもなかなかよさそうです。ちょっとした気になることや嫌なことがあっても、水にさらっと流せる場所。こういった場所は、現在の学校にはとても必要性が高いと思うのです。そして、皆さんの学校にも、普段はあまり意識していないけど子どもたちのなんとなく集うそんな場所、実はきっとあるのだと思います。

渡邊 満昭(わたなべ みつあき)

静岡市立中島小学校教諭・公認心理師・学校心理士・環境教育インタープリター・森林セラピスト


いつの間にか、小中学校全学年+特別支援学級+特別支援学校+通級指導教室での担任を経験し、生徒指導主任+特別支援教育コーディネーター+教育相談担当経験も10年を超えていました。すると担任を離れたとたんに何かを忘れてしまって、担任に戻ってみると忘れていたことに気がつくということがたびたびありました。それはうまく言えないけど何だかとても大切なもの。先生を続けていくための糧のようなもの。
その大切なものについて、自分の実践と合わせお伝えしていこうと思います。

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