2022.05.30
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「先生は、『みんな』で遊ばせようとしないんですね」

前回の「自動運転モード」の思考を、子どもたちに打ち砕かれた一つの経験談です。

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭 今村 行

どうも、今村です。

タイトルに挙げたような一言を(正確には少し言葉遣いが違ったかもしれませんが)、関わった子どもや、保護者の方から、言われたことがあります。
この一言だけ聞くと「?」と思われそうですが、そこに至るまでの文脈があります。
例えば、保護者の方との個人面談で、こんなことを言われるとき、あると思います。

「うちの子は、本を読んだり、一人で遊んだりすることが好きで、周りのお子さんたちと仲良く遊んでいるのか心配です」

で、大抵の場合は、これを言っても大丈夫そうだな、と判断すれば、こうお答えします。

「本を読んだり、一人で遊んだりすることは、いいことなので、いつも周りの誰かと仲良くしている必要はないんじゃないですか?」

前回の記事で「自動運転モード」の言葉、ということを書きました。
保護者の方や、教師など、自分を含めた学校に関わる大人がしばしば陥る「自動運転モード」の思考として、「子どもがひとりでいることを許容できない」というものがあるなぁ、と感じます。
子どもたちは皆、友達100人できるかな、と思って学校に来ているはずだし、一人でいるよりも自分から誰かを誘って一緒に遊ぶことができる方がいい、というような考え方です。
確かに、自分から誰かを誘って一緒に遊ぶことができるのは一つの素晴らしい姿ですが、それは、全ての子どもが達成しなければいけないことなのか?というのは考えてみなければいけないと思います。
僕の考えは、学校において全ての相手に「敬意」を払う必要はあるが、全ての相手に「好意」を向ける必要はない、ということです。

「敬意」と「好意」

例えば、学級においては朝、誰もが互いに「おはよう」と挨拶を交わすことは大切なことだと僕は思いますし、指導もします。そこに関わってくるのは互いへの「敬意」です。相手がそこにいることを認め、互いに傷つけるようなことをしない、という気持ちを確かめ合う。また体育でいくつかのチームに分かれるという場合に、誰と一緒であっても、協力し合おうとする気持ちを持ってもらうよう声をかけます。そこでは「仲良くしろ」ということは一切言っていません。ここで問題になっているのは、あくまで「敬意」です。

誤解を恐れずに言えば、僕は「敬意」を子どもに強制します。ですが、これから話す「好意」に関しては、強制しません。

例えば、休み時間にどう時間を使うのか。友達に声をかけ、外に遊びに出たい子はそうしたらいい。その子は、「友達」や「外遊び」に「好意」を向けています。教室で静かに本を読んでいたい子はそうしたらいい。その子は「自分自身」や「本の世界」に「好意」を向けています。それぞれの心が、今好きなものとの関わりで悦んでいるのであれば、まずはよいのではないでしょうか。
大人だって、緑茶が好きな人もいれば、紅茶が好きな人もいるし、コーヒーが好きな人だっています。別に、全員が緑茶を必ず選ばなければいけない、という決まりはないんです。それぞれが相手の好きな飲み物に「敬意」をもって否定したりせず、自分の「好意」を寄せる飲み物を心ゆくまで味わえばいいのではないでしょうか。

「孤独」の価値

教師として、自分が気をつけなければならないな、と思うことは、子どもに「敬意」を強制する以上、当然ながら自分も子どもに「敬意」を払わなければならない、ということです。

僕は、ひとりでいるのが不安な子どもでした。風邪をひいて学校を休みになった日は、布団に横になって、天井の板の木目を目で追いながら、麺棒で薄く引き伸ばされたような退屈な時間を、なんとも言えない寂しさと共に過ごしていた覚えがあります。周りの友達の話題についていけなくなるのが怖い、ということもあったかもしれません。

そういう子どもだったのもあるのか、教師になってから、教室で一人本を読んでいる子に、「誰かと遊んだら?」というようなことを伝えてしまったことも、一度や二度ではないと思います。
でも、どこかのタイミングで、それは随分相手へ「敬意」を欠いた言動だったと思うようになりました。
「寂しいやつ」というのは、ひとりに耐えられず、絶えず人の輪の一員であろうともがいていた自分のことであって、決して、ひとりで充実した時間を過ごすことのできる彼ら、彼女らのことではなかったんです。

「孤独」の価値は、本来大人から子どもへ伝えていくべきものかもしれません。でも、僕にとっては、子どもから教えてもらった大切なものの一つです。

今村 行(いまむら すすむ)

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭

東京都板橋区立紅梅小学校で5年勤めた後、東京学芸大学附属大泉小学校にやってきて今に至ります。教室で目の前の人たちと、基本を大切に、愉しさをつくることを忘れずに、過ごしていたいと思っています。

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