2022.03.04
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「体験的」で「具体的」な知的特別支援学校での理科教育

以前、知的障害特別支援学校での理科教育についてお話をしました。その中で特別支援学校においても理科教育は大切なものであるとお話をしましたが、具体的にはどのようなことに注意をしながら理科教育をしていく必要があるのでしょうか。 今回は、「体験的」「具体的」ということに着目して、特別支援学校での理科について考えていきたいと思います。よろしくお願い致します。

信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭 丸山 裕也

「体験的」な理科教育とは?

子どもたちの手で実験を成功させる。

「体験的な理科」とはどのようなものでしょうか?例えば教師が目の前で実験を演示して見せ「ほら、不思議でしょう?」と子どもたちに問いかけたとしても、それは体験的であるとは言えないですよね。また、教師が子どもの手を取って「ほら、ここがこうなって、こうするとこうなるね。不思議だよね」と、教師主導で実験を進めたとしても、それも体験的な理科教育にはならないのではないでしょうか。

私は子ども自身が、自分たちの手で実験に取り組む事で、はじめて体験的な理科の実験になると考えています。ですから、体験的な理科の授業にするためには、子どもたちが進んで体験に参加できるような魅力的な実験を、子どもたちの手でできるように計画する必要があります。

写真はある実験の様子を示したものです。これは「水の入ったプラコップに目の細かい茶こしをかぶせ、茶こしに薄く洗剤を塗ってから、逆さにしたときに水がこぼれない」という、大気圧や表面張力を利用した実験です。
この実験の材料は、茶こし、洗剤、水を貯めておくボウル、プラコップ等。基本的に百円均一ですべてそろえることができます。私もこの実験の時には生徒一人ひとり分の実験道具を用意しました。 

さて、いよいよ実験です。
子どもたちだけで、始めようとすると最初はなかなかうまくいかないかもしれません。
案の定、何度も水がこぼれてしまったのですが、何度か繰り返しているうちに子どもたちにも変化が出てきます。

「もっとくっつけたほうがいいかもしれない」「逆さにするときに早くしたほうがいいかもしれない」と「子どもたちだけ」で話し合い、結果として「子どもたちだけ」の力で成功した時の写真がこの写真です。私はこの光景を見ていただけで、なにもヒントは出していません。実験の手順を最初に伝えただけです。

「仮説を立て、実験をし、結果を得る。その結果が求めるものでないときは、別の仮説を立て、その仮説に基づいて実験し、新たな結果を得る」。これは実験をする上で、とても大切なことで、私がお世話になった研究室の教授が何度も教えてくれた言葉です。
難度の高い実験はつい教員側も手助けをしたくなってしまいますが、子どもたちだけの力で実験を成功させるということは、体験的な学習には必要不可欠なのではないでしょうか?教員は安全に一人で実験に参加できるような環境づくりをすることが大切だと私は感じています。

「具体的」な理科教育とは

あやふやなイメージを具体的に

「具体的な理科」とはいったいどのようなものなのでしょうか?
知的障害を有する子どもたちの多くは、経験が少ないことによる知識の未修得があるとされています。それはいったいどのようなものがあるのでしょうか?

時期は過ぎてしまいましたが「マツタケ」を例にして説明していきたいと思います。
ある子どもが「マツタケはいいにおいがして、美味しい味がする。学校のある喬木村の特産品」という事を知っていたとします。しかしながら、マツタケを収穫したことも、売っているものを見たことも、もっと言ってしまえば食べたこともないかもしれません。

先生が、両親が、友達が、テレビに出ている人が「マツタケはいい匂い」といったのを聞いただけなのかもしれません。
すると「その匂いがどんないい匂いなのか、そもそもマツタケはどんな形をしているのかを知らない」ということはあるのかもしれません。
そういった意味で考えると、観察などの手法を通じて、マツタケの匂いを観察し、どのような匂いでどのような形なのかをしることは、具体的な理科の学習につながると私は考えています。

写真はマツタケの匂いの観察をしている子どもの様子です。実際にマツタケの匂いを嗅いでみると「あんまりいい匂いじゃないね」「もっと香水みたいなにおいがするかと思ったよ」といった感想が得られたり、見た目から「シイタケともなめことも違うんだね」「表面はぬめぬめしていなくて、ガサガサしてるんだね」といった感想が得られたりしました。
マツタケが「いい匂い」であると言葉だけの知識でとらえてしまうと、香水のようなイメージでとらえてしまうんですね。マツタケがキノコの仲間であるという言葉だけの知識でとらえてしまうと、同じキノコの仲間であり、なじみの深いシイタケやなめこと同じような形だと、とらえてしまうこともあるんですね。

観察をすることでこれまであやふやなイメージだけの存在であった「マツタケ」が、嗅覚や視覚を通してより「具体的」な存在になっていきました。

理科以外の教科でも、同じように「これまであやふやだったものを具体的なイメージにしていく。」ことはできると思いますが、触察や観察ができる理科という授業であれば、より深く学びを深めていくことができると私は考えています。
観察の対象は、野菜でもいいかもしれません、食肉でもいいかもしれません。子どもたちと会話しているときにあやふやなイメージでしかとらえることができていないと感じるものがあれば、理科の授業を通じて触ったり、においを嗅いだり、時には家庭科の授業と連携して食べてみたりすることで、五感を通して具体的なイメージを育んでいくことも大切なのではないでしょうか。

今回は「体験的」「具体的」ということに着目して、特別支援学校での理科について、お話をしてきました。こういった理科教育の持つ力は、特別支援教育でも、もちろんそれ以外の教育現場でも活用できるものではないでしょうか。改めて理科という授業は、「おもしろい」といえるのではないでしょうか。
次回はもう少し深く掘り下げて、特別支援学校の授業で大切にされることの一つでもある「成功体験」ということをキーワードに知的障害の理科教育についてお話をしていきたいと思います。

本実践は一般財団法人長野県科学振興会の科学研究費助成を受けて実施することができました。この場を借りて深く感謝の意を表します。ありがとうございました。

丸山 裕也(まるやま ゆうや)

信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭
公認心理師、学校心理士、障害者スポーツ指導員(初級)、福祉用具専門相談員
「あした、またがっこうでね。」と、子どもも教師も伝え合うことができるような、楽しい学級づくりを目指しています。また、障害のある子どもたちの心の健康について、教育と心理の二面からアプローチしていく方法を考えています。
特別支援学校で出会ってきた子どもたちとの学びを、皆さんにお伝えしていきたいと思っています。


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