2021.11.25
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知的障害と理科教育

「リアカー無きK村 動力借るとするもくれない馬力」なんて、皆さんは覚えていますでしょうか?
そう、これは炎色反応の覚え方ですね。「Li(リチウム)が赤なので、リアカー...」
知っていても、なかなか生活では役には立たないですよね。いったい何のために覚えるのでしょうね。恋人との花火大会の時に「あの色は紅だからストロンチウムだね」だなんて言ったら、ロマンに欠けちゃいますよね。
さて、小学校、中学校や高等学校では当たり前のように理科について学んでいます。では、知的の特別支援学校ではどうでしょうか?知的障害があると理科教育を学ぶ必要がないのでしょうか?そもそも理科教育は行われているのでしょうか?行われているとすれば、どのような理科教育が行われているのでしょうか?どのような工夫があれば、知的障害を有する子どもと一緒に楽しく理科教育ができるでしょうか?
今回も皆さんと一緒に考えていきたいと思います。よろしくお願い致します。

信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭 丸山 裕也

「やっぱり理科は楽しいよね」

とニコニコ取り組む子どもたち

ありあわせのものでも実験を

本校には理科室がありません。
理科室がない特別支援学校は、きっと本校だけではないと思います。
「理科室がない」ということは、当然ながら「理科の実験の道具もほとんどない」ということが言えるのではないでしょうか。
理科室には当然備えているアルコールランプもガスバーナーもありませんし、実験に使う試薬もありません。
皆さんなら、どうしますか?
私はどうしても子どもたちと一緒に理科の授業をやりたかったので、家にある道具や食器を持ってきたり、百円ショップで色々買ってきたりして、材料をかき集めて何とか理科の授業を行いました。

そうやって取り組んでいるのがこの写真です。
これはこんな実験の様子です。

①ペットボトルの中にポットで沸かしたお湯を入れる。
②中のお湯を捨て、素早くキャップを締める。
③冷水の入った容器(写真では黄緑色の食器かご)に入れて沈める。

すると、「ボコッ」っと音を立てて、ペットボトルはつぶれていきます。
そうです、水蒸気の状態変化を利用した実験ですね。
ありあわせの道具を使う事でも、何とか理科の実験をすることができます。そしてこんなありあわせの道具での実験であっても「楽しい!」「不思議だね」と子どもたちはニコニコしています。

今はとても便利な世の中になりました。
インターネットで検索をすると、たくさんの理科好きの同志が身近にあるもので簡単にできる実験を紹介してくれています。
また、動画サイトで検索をすると、これまた沢山の実験をしている様子の動画を見つけることができます。

「それでも、理科の専門的な環境で実験を」

と思う、私(教員)は…。

炎色反応を見る児童たち

公益財団法人中谷医工計測技術振興財団様の科学教育振興助成に応募させていただき、その助成金を使う事で、理科教育の環境づくりをしていきました。
写真は炎色反応を興味津々に眺める生徒たちの様子です。丁度、新型コロナウイルス感染症が流行し、花火大会が中止になることも多い中でしたので、花火の色の秘密にせまることができる炎色反応の実験は「とても面白かった」「こんな色になるなんて不思議だね」と、どの子も教えてくれました。
楽しい実験は楽しい授業を、そして楽しい授業はとても素敵なノートづくりにつながっていきます。
子どもたちは、先ほどの実験で観察した色を忘れまいと、色鉛筆で丁寧にノートに書き写していきます。
こういった子どもたちの姿を見ることは、本当にうれしいですよね。

また、科学教育振興助成を通じて他の小学校、中学校の取り組みや、自然教室、大学などでの取り組みを知ることができました。これは実際に助成に申し込まないと得ることができない、私にとっての大きな「生の」学びとなりました。

障害があってもなくても、「理科は楽しい!」

冒頭で私は特別支援と理科教育についていくつかの質問を皆様に投げかけました。皆様はどうお考えになりましたでしょうか?
私自身はこれまでの取り組みから「知的の特別支援学校であって、理科室がなくても、子どもたちが楽しいと思うことができる理科の授業はできるのではないかな」と考えています。
そして理科の授業を通して「あれ?これは不思議だな」「なんでこんなことが起こるんだろうな?」「私の考えていたことと違うな」といったことを考えたり、感じたりすることは、きっとその子どもの人生を豊かにしていくと考えています。理科にも、もちろん他の教科にも、子どもを育てる無限の可能性が秘められていますよね。
この記事を読んでくださった皆様の中から、理科教育を推進してくださる同志の方が増えてくれると嬉しいです。一緒に盛り上げていきたいですね。

本実践は公益財団法人中谷医工計測技術振興財団の科学教育振興助成により、実施することが出来ました。改めましてこの場をお借りしてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

丸山 裕也(まるやま ゆうや)

信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭
公認心理師、学校心理士、障害者スポーツ指導員(初級)、福祉用具専門相談員
「あした、またがっこうでね。」と、子どもも教師も伝え合うことができるような、楽しい学級づくりを目指しています。また、障害のある子どもたちの心の健康について、教育と心理の二面からアプローチしていく方法を考えています。
特別支援学校で出会ってきた子どもたちとの学びを、皆さんにお伝えしていきたいと思っています。


ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

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