2022.02.15
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米国側から観た5つの相違 「米国大学進学への道、受験とは!」(2)

日本では先日、大学入学共通テストが行われました。
2020年度まで実施された大学入試センター試験に代わって導入されたこの共通テストは、国公立の一般入試受験者にとって原則必須のテストであり、多くの私立大学でも共通テストのスコアが利用できる方式を設定しています。米国ではこの共通テストのようなものがどのような役割として機能しているでしょうか?
今回は日本と米国の入試制度の違いを記しながら、米国の大学を受験する際に必要なもの、ことを詳しく話します。

在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師 下條 綾乃

日本の国公立大学受験では

娘が受験した米国の大学から届いた合格通知と返済なし奨学金の案内

自身の娘も2020年、大学入試センター試験を受験しました。センター試験最後の受験者である彼女にとっては、翌年度から様変わりする共通テスト様式への期待や不安、一発試験で失敗ができないプレッシャーなどもあり、実にストレスフルな3か月を過ごしました。
日本の国公立大学では、推薦、AO入試を除いて、この共通テストでの結果を踏まえて大学を最終的に選択、そして出願、その後2次テストを経て合否判定の結果を待ちます。この過程がなんと3か月という短期間で行われます。合否判定の後、4月入学といった駆け抜けるような月日の流れを、私達家族も同時に体験しました。受験生はこの一年に一度の共通テストに向けて、何か月も前から時間をかけて準備します。

ちょうどそのころ、同僚と日本と米国、両国の大学進学についてよく話をしました。自身の娘も米国の大学を2校出願受験しましたので、大学進学ステップや合格条件の根本的な違いに大変驚いていたのを覚えています。同僚からは日本では過酷な受験勉強を経て行われる、失敗できない一発試験制度に受験生の体調や心の状態を心配する意見も聞かれました(もちろん、日本では私立大学や推薦入試やAO入試方式で全く異なる方法で学生を募る大学もありますが)。
以下5つの項目にまとめて両国の大きな違いを明記します。

1.大学入学審査方法の大きな違い 

米国大学の入学審査では、年に一度行われる日本の大学入試のような一斉学力テストは原則として実施されません。合否判定は基本的に提出した書類の審査で行われ、様々なものを提出し総合的に評価されます。米国の大学審査条件には、学業成績への評価だけでなく、人物評価のほかに、地域社会へのボランティア貢献度、スポーツ、芸術、サイエンスなどへの課外活動への取り組み度なども並行して評価されます。

2.出願書類の違い

出願の準備はすべてほとんどの場合、受験生自身で行わなければなりません。大学によって必要なものはそれぞれ違いますが、以下のものは必要最低限の出願提出書類となります。

A. 入学願書 

B. 高校4年間の成績証明書 (GPA“Great Point Average”という数値で表された平均値)
アメリカンスクールでは5段階の成績評価(A/B/C/D/F )に基づき、4~0の評価点を付与して算出された評定平均値が多く用いられています。アイビーリーグと呼ばれている名門大学の場合はこのGPAが3.5以上ないと出願できないと言われています。

C. SAT“Scholastic Aptitude Test” やACT “American College Test”のスコア
日本でいう、大学入試共通テストに代わる基礎学力テストになりますが、日本との違いはこのテストは2,3か月に一度受験することができることです。そして受験者の多くは何度か受験し、そのベストスコアを出願にあてることができます。SATは、読解 “Reading”、記述と言語“Writing and Language”、数学“Math”の3教科、ACTは英語“English”、数学“Math”、読解 “Reading”、科学 “Science”の4つの教科のみになります。日本の共通テストのような様々な教科はありません。この2,3年はコロナ禍でテスト受験できない受験生を配慮し、このテストスコア提出を省いた書類審査を行う大学も多くありました。            

D. 課外活動や委員会、ボランティア等の活動証明書及びスポーツ芸術、サイエンス大会等の出場記録、成績証明書
人物評価を重要視する米国では、課外活動は学校での行いや成績と並行してその評価に大きくかかわり、それを左右します。そして課外活動を単位として認める学校もあります。行いや成績が良くないと、もちろん課外活動に参加することさえ認められません。このことは大学進学に向けて、非常に重要なアピールポイントになります。                                       

E.  自己アピール作文、エッセイ
自分の経験や高校生活等を踏まえて、意欲や目標、人格を明確にアピールして書きます。

F. 推薦状
特に教科担任や課外活動のコーチ、スクールカウンセラーやガイダンスカウンセラーからの推薦状を求められます。自己アピールに加えて、周りがどのような評価をしているのかも重要なポイントです。

以上の出願プロセスを経て、各大学によっては後にウェブ面接なども行われます。補足ですが、日本人が留学生として米国の大学を出願受験する場合は、以上の提出書類に加えて、TOEFL ( Test of English as a Foreign Language ) などの英語力を証明するテストスコアが必要になる場合があります。

3.合否から入学まで準備期間の違い 

9月大学入学へ向けて通常の準備過程ですが、9月始業を迎えるアメリカンスクールでは高校4年生になると、翌年度大学進学に向けて、大体11月から翌年の2月あたりに希望する大学へ書類提出をします。各大学は提出された書類に基づき合否を決定、大学によっては面接及びウェブ面接を実施、そして2月から4月にかけて合格通知を出します。合格者は9月の入学まで約6か月の準備期間があります。その間に住居や奨学金など様々な準備が可能です。

4.返済なしの奨学金 

米国の大学費用は日本に比べて高額です。居住区の州立大学でも年間約200万、私立大学では年間約500万、アイビーリーグなどの名門大学は年間700万から900万ほどの授業料がかかります。よって、米国の高校4年生は大学出願と並行して、返済不要のスカラーシップ奨学金の獲得準備を行っていきます。様々な民間団体が授与するものが多くありますが、金額的にも大半を占めるのが大学からの直接的な奨学金です。この奨学金は経済的な理由から授与できるものと学力や能力に対する対価として与えられるものがあり、前者はアメリカ市民が主に対象ですが、後者は国籍を問わず誰でも申し込むことができます。そして奨学金は複数の団体から受けることも可能です。

5.「大学浪人」という言葉はありません

米国の大学受験では大学浪人という言葉はありません。大学受験のための予備校や塾などの制度もありません。入学時期が学期によって年に2~4回ある大学もありますし、入学した大学で単位を取りながら、希望大学に再度挑戦し編入することも可能です。入学した後も、気持ちが変わり、別の大学に編入したい場合は単位を移動することも可能です。
米国では、大学進学はいつでも可能で、社会人になっても入りなおしたり、大学院に進む人も多くおり、私の周りにもそのような人が多くいます。学ぶことに対する柔軟な社会風土と仕組みがあります。

2022年度9月の大学進学に向けて、教え子たちが続々と大学進学の進展状況を報告してくれます。それに準じて新たな居住への準備、アメリカ本土へ移動というご家族もいます。私は小学校教師ですが、子どもたちが成長した何年も後に、このように近況を報告してくれることに本当にうれしく思います。このような形で彼らの人生の一部にかかわれることを嬉しく思います。そして忘れてはならないことですが、大学受験は確かに人生の一部ではありますが、それはすべてではありません。大学進学はエンドではなくスタートです。進学を目指すすべての未来ある若者たちにエールを送りたいです。

次回は米国人が驚く「日本の学校給食、清掃」をレポートします。

下條 綾乃(しもじょう あやの)

在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師
日本語学校や領事館等で日本語を教えた後、米軍基地内の公立アメリカンスクールで日本語日本文化を教えて20年ほどになります。何年経っても毎日驚きと気づきがあり、それらの一部を皆さんと少しでも多くシェアできたら嬉しいです。外国の子供達に自分の話す言葉や習慣、文化を教えることの楽しさ、難しさ、面白さを呟いていきます。

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