2022.01.26
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米国側から観た5つの相違「部活動、生活・進路指導」(1)

ハッシュタグ「#教師のバトン」で展開されている、学校の部活動や生活・進路指導。
米国側から観たその視点に基づいて考えます。

在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師 下條 綾乃

ハッシュタグ「#教師のバトン」

ツイッターなどのSNS内で展開されるハッシュタグ「#教師のバトン」。トピック「部活動」に関する多くのディスカッションがなされています。教師の労働問題が現代社会で脚光を浴びる中、社会の枠組みの中で、その理解、再定義、改革がなかなか前に進まない現実もあります。部活動は授業より優先されるべきではない、部活動担任への選択権は教師側にあるのか否か、部活動担任業務は無償もしくは有償であるのか等の、多くの議論もなされているようです。

自身の父も元中学校高校教師で、現役時代、運動部の部活動を長年担当していました。30年以上も前の話です。夏休みなどは自宅が合宿場となったり、離島から入学した生徒を一時的に下宿させたり。子どもの頃の思い出としては、部活動の遠征や全国大会に一緒について行ったり、週末は公園や動物園ではなく、部活の練習試合会場へ足を運んだり。部活動を担当する教師である父の背中を見て育ち、長年多くの生徒たちの人生に深くかかわる父へ尊敬の念もありました。しかし、いざ自分自身が教師職に就いてみると、教師という仕事と並行して実践される、家庭での子育て、家事の負担を経験し、実に様々なことを感じてきました。
「教師」は、自分自身の多くの時間を割いて、子どもたちの人生にかかわっています。今思えば、父も現役時代、家庭での家族との時間を犠牲にし、その多くの時間を学校という現場で過ごしていました。当時、分担が行われない親業、家事・子育ての負担は4人の子を育てる母にとっては非常に大きいもので、母でなければその多くの偉業は成し遂げられなかったと思います。幼少時、父に授業参観や運動会に来てもらった記憶がほとんどなく、寂しい気持ちも沢山味わいました。

現在、私は教師としてアメリカンスクールで働き、米国の労働環境で一教職員として、米国人の子どもたちとかかわります。仕事を通して、日本と日本ではない国における教師の労働時間や労働環境の違いに驚き、教師の部活動や生活・進路指導へのかかわり方、その役割分担、社会的責任、定義の違いに多く気づかされます。
今回は米国側から観た5つの違い、「部活動、生活・進学指導」について補足します。

1.Extra-Curricular Activity「課外活動」である部活動

アメリカンスクールでは、部活動は「Extra-Curricular Activity」と呼ばれ、課外活動と定義されます。課外活動とは「学校において、正規の教育課程の他に実施させる活動」の事です。
子どもたちはその課外活動に希望すれば、小学校から学期ごとに入部、所属し、中高校では年間を通して多くのスポーツや文化活動に触れることができます。
教師は希望すれば有償で受け持つことができ、他の学校の課外活動も担当することができます。課外活動には監督の他にコーチとして、父兄や現役の選手がボランティアもしくは有償でサポートすることがあります。一つの課外活動に教師以外の多くの大人が責任をもって、様々な役割で関わりを持つ印象です。

2.シーズン制、トライアウト制である課外活動

9月に開始するアメリカンスクールでの課外活動は主に、夏を除いた秋、冬、春のシーズン制となっています。一つの課外活動は、短くて2か月(One Team)長くて4か月(One Semester)単位で実施されています。
小中高で、トライアウト制である多くの課外活動に触れることは、個々の様々な能力を伸ばすきっかけにつながります。そして個々の向き不向きを見つけ、得意不得意を認知、確認する上でとても理にかなった方法に見えます。
学期が終わるとその活動が終了するので、夏休みなどの期間は活動がありません。休暇中はサマーキャンプや特別指導トレーニングなどが各自治体や民間団体のクラブチームで行われ、希望すれば子どもたちは有料で参加することになります。

3.文武両道

アメリカンスクールでは、学校での行いや成績が課外活動に大きくかかわり、それを左右します。中には課外活動を単位として認める学校もあります。ですから行いや成績が良くないと、課外活動に参加することさえ認められません。
このことは大学進学に向けて、非常に重要なポイントになり、実際に大学に進学するとその比重はさらに大きくなります。
東京オリンピックでは、バレーボールや体操、水泳などの多くの競技で、スタンフォード大学等の米国の名門大学現役学生が多く出場していた事も、記憶に新しいのではないのでしょうか。

4.単位制である教育システム

中学校、高校では教科単位制であるため、数学、英語、社会科、理科などの教科学部として区別されています。
教師は教科学部別に配属され、与えられた自分の教室で指導、子どもたちは授業ごとに教室を移動します。教師は専門教科を担当し、生活指導や進路指導等は行いません。業務の役割分担が明確に行われています。

5.生活指導(スクール・カウンセラー)、進路指導(ガイダンス・カウンセラー)の役割

特に高校では各学校に複数のスクールカウンセラー、ガイダンスカウンセラーがいます。スクールカウンセラーは子どもたちの個々の心の悩みや相談、日本の道徳のような授業を受け持つこともあり、ガイダンス・カウンセラーは授業科目の選択、勉強や成績、進路の相談などを引き受けています。
前回の記事でもふれましたが、学校では生活・進路指導の指標があり、その指標に基づいてカウンセラー、学校管理者の役割分担が明確に決まっています。必要に応じてカウンセラーや心理学者への照会、そして学校管理者への橋渡しがあり、必要と状況に応じて保護者を交えて面談を行います。指標がある為、その流れは非常にスムーズで迅速に行われます。そして、一教師の行う業務の指標が明確に提示されています。


アメリカンスクールでは3学期に突入、4学期制である学校は折り返し地点を迎えました。コロナ禍で学校での様々な活動は制限されていますが、それでも毎朝元気よく登校する子どもたちを見ていると、社会の中の学校の役割、その重要性を感じます。

次回はアメリカ社会での大学進学への道、受験とは!を詳しくお伝えします。

下條 綾乃(しもじょう あやの)

在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師
日本語学校や領事館等で日本語を教えた後、米軍基地内の公立アメリカンスクールで日本語日本文化を教えて20年ほどになります。何年経っても毎日驚きと気づきがあり、それらの一部を皆さんと少しでも多くシェアできたら嬉しいです。外国の子供達に自分の話す言葉や習慣、文化を教えることの楽しさ、難しさ、面白さを呟いていきます。

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