2022.01.04
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キャリア教育の実態調査で現状を分析する(1)

国立教育政策研究所が、キャリア教育について全国の実態を調査しているのをご存じですか。
この調査は平成17年に初めて実施され、その後中央教育審議会答申にてキャリア教育の新たな方向性が示されています。
キャリア教育・進路指導を取り巻く状況が大きく変化する中で,小学校も調査対象に加えて平成 24 年度に2回目が実施されました。そして7年後の令和元年度には3度目の調査が実施されています。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

キャリア教育の実態調査

令和元年度に実施された調査については令和2年 3 月に第一次報告書、令和3年10月に第二次報告書が公表されました。私も2021年1月に学びの場.comのつれづれ日誌で「教育の現状をどうやって把握していますか?」というタイトルで実態調査について書かせていただきました。
そのときは第一次調査をもとに、「生徒が最も影響を受けているのは授業」ということの紹介にとどまっていましたが、第二次調査も発表された今回は、特に高校に焦点を当てて実態調査から学校現場の実情を考えるということについて、もう少し踏み込んで書きたいと思います。

PDサイクルになりがちな学校の現状

PDCAサイクル(計画-実行-評価-改善)が大事と言われますが、学校はPDサイクルになってしまいがちである。よく言われるこの言葉が、調査結果を見るとはっきりと見えてきます。

高等学校におけるキャリア教育によるカリキュラム・マネジメントの状況を見ると「キャリア教育の全体計画がある」学校は 79.9%で、全体計画の中に「キャリア教育の全体目標(学校全体で身に付けさせたい資質・能力)」を記している学校は 79.6%と、キャリア教育が多くの学校でしっかりと位置づいていることがわかります。またキャリア教育の計画を立てる上で,最も重視された事柄は「生徒の実態や学校の特色,地域の実態を把握し計画に反映させること」ということからも,多くの学校でキャリア教育を考えるときに学校全体の取組が意識されています。

このように多くの学校で教育活動全体を通じたキャリア教育が意識されているのですが、「キャリア教育の取組に対して評価を行っている」に「あてはまる」と答えたのが,学校調査で 32.0%、担任調査で 10.7%でした。さらに「キャリア教育の評価結果に基づいて取組の改善を行っている」に「そのとおりである」と答えたのは、学校調査で 28.8%、担任調査で 7.9%しかなかったのです。学校調査は多くの場合管理職または教務主任が答えているので、学校調査と担任調査の差も興味深いところですが、いずれにしても評価や評価に基づく取り組みの改善を行っている学校は少ないのです。取り組みの評価・改善はカリキュラム・マネジメントにおいて重要な一つの側面で,この過程を通じて,目標や現状,育てたい力が共有されます(キャリア教育についての共通認識が課題という答えも多かったですが、それに通じるところがあるように思います)。しかしこの調査結果から、取り組みの評価・改善はそもそも重視されていないことがわかります。

また、キャリア教育の計画を立てる上で重視した事柄として「生徒が学年末や卒業時までに『○○ができるようになる』など,具体的な目標を立てること」と答えた割合は 24.6%で 18 項目中 12 番目,「目標に準拠した評価を実施すること」と答えた割合は 9.7%で18 項目中 16 番目と,目標設定や評価については計画段階からあまり意識されていないこともわかります。年間計画は多くの学校である、しかし評価はしない。ここから推測できる姿は、PDCAサイクルのPDサイクルのみをまわしている姿(計画―実行ばかりを繰り返している)に他なりません。決められたことをやって終わりになってしまいがちな学校の姿は、実は計画段階で決まっているのかもしれません。

新学習指導要領実施に伴って、観点別評価など評価が注目されるようになるでしょう。実は私たちが学ぶべきことは教育活動を改善するための評価ではないでしょうか。

キャリア・パスポートは生徒の指導してほしかったことを形にできるものかもしれない

生徒調査において「指導してほしかったこと」として最も多かったのは「自分の個性や適性(向き・不向き)を考える学習」でした。具体的にどのような指導が必要とされているのでしょうか?

自分の個性や適性を考える際に重要なのは振り返りの蓄積です。何かに取り組んだ後に,自分で取り組みを振り返り,その記録を残して蓄積していくことが大事なのです。その蓄積をもとに、節目の時にその蓄積を振り返ることで,自分の個性や適性に気づくということは少なくないのです。また記録を蓄積する際,他者からのフィードバックがあると,自己理解はより深まるでしょう。

実はここに記録を蓄積するキャリア・パスポートの大きな可能性があるのではないでしょうか。学習指導要領に「キャリア・パスポートの活用に当たっては教員が対話的に関わることで,自己評価に関する学習活動を深めていく」と明記されています。「キャリア・パスポート」を活用して,生徒が定期的に自己評価し,それに対して教員が対話的に関わるということが実現したときに,生徒たちは,新たな学習や生活への意欲をより高め,将来の生き方をより考えるようになるのではないでしょうか。これは生徒たちがもっとも指導してほしかったことなのです。実は「キャリア・パスポート」は生徒が自己理解を深める際に適しているツールということがもっと広く知られる必要があるように思います。

「キャリア・パスポート」について、運用上の課題は多いです。また教育委員会などからの通達で、やらされているだけになっている学校も少ないかもしれません。しかし、キャリア・パスポートが何のために存在するのかという趣旨を理解すれば、キャリア・パスポートの実施によって、生徒が指導してほしかったことが実現し、結果的にキャリア教育はより良いものになるようにも思います。現実はそんなに甘くないですが、キャリア教育の実態調査が7年後も実施されるとしたら、その結果はどうなっているのだろうと未来に思いをはせたりもします。

お読みいただきありがとうございました。キャリア教育の実態調査について、次回ももう少し書きたいと思います。引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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