米国式の学級経営 10のコツ(1)
今回は米国式の学校規則を踏まえた子どもたちの「権利と責任」、そして学級経営の10のコツを紹介したいと思います。
在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師 下條 綾乃
子どもたちの「権利と責任」
アメリカンスクールでは8月に始業式を迎え、翌年の6月に修了式を迎えます。学校の子どもたちは皆、割と自由な恰好や髪型で自分を表現して毎日登下校してきます。ヘアカラーもヘアスタイルもピアスもネイルも特に制限がありません(中高になると肌の露出度の服装規定はあります)。
様々な人種や宗教的背景の家庭で育つ子どもたちが通うアメリカンスクールでは、そのような外見や容姿の自由は権利であり、その制限は、時として差別、不平等にあたります。ですから、日本の学校にあるような、制服の丈や付属するベルトの形や靴下の色、メイクの有無、香水や髪型の制限などの校則はありません。そこだけをお話しすると、アメリカンスクールはなんと自由にあふれた学校なんだと思われるかもしれませんが、実際は異なります。ここで一番大切なことは「自由は権利であるが、そこに責任が伴う」という事です。
オバマ前大統領夫妻は、学校教育の重要性への普及活動にとても熱心な方々で、任期中に国内外の学校を訪れて子どもたちに講演会を行っていました。以前、オバマ前大統領がバージニア州アーリントンの高校を訪れた時の「希望と責任」というタイトルで話された言葉にとても感銘を受けたのでここで紹介したいと思います。
「いくら世界で最も熱心な先生や協力的なお父さんお母さんがいても、世界で最も評価の高い優れた学校があったとしても、皆さんが自分の責任を果たして、きちんと学校に通い、先生の話をよく聞き、周りの大人たちのいう事を聞き、成功するための必要な努力をしなければ、何の役にも立ちません。今日は皆さんの教育に対する皆さん一人一人の責任についてお話しします。皆さんは誰にもそれぞれ得意なことがあります。そして皆さんはそれぞれ独自の能力を備えています。皆さんはそれを見つける責任があります。そして学校こそ教育が皆さんの社会に役立てるスキルを育む場所です」
学校開始から約4か月を迎え、4学期制で構成されている私達の学校は現在、2学期の中盤に差し掛かりました。子どもたちもクラスや学校の一日の流れ、学級でのルーティンにすっかり慣れ、学級経営方針の成果が着々と現れてくる頃でもあります。またこの学期は感謝祭やクリスマスのホリデイや冬休みを迎えるため、学級経営が困難な局面を迎えるケースも稀ではありません。改めて、子どもたちとより良い信頼関係を構築する上で不可欠な「自由とは権利であるがそこに責任が伴う」という、教育を受ける責任について子どもたちに話すこともあります。毎日現場での学校生活に追われると忘れがちではありますが、学級経営で難しいことに直面したときに、私は米国式の学級経営の10のコツを見直すようにしていますので、ここで紹介したいと思います。
米国式の学級経営の10のコツ
1)Greet students at the door and watch them carefully
毎日ドアの前で生徒に挨拶し、生徒をよく観察する
家庭でもそうですが、一日の始まりをしっかりドアの前で行う事によって、一人一人の子どもたちの様子、健康状態がうかがえます。一言二言会話を交わすことによってもっとより詳しく理解することができます。
2)Establish, maintain and restore relationships
生徒との信頼関係を作り、維持し、修復できるようにする
生徒と信頼関係を築くことは容易ではありません。良い関係を築いたとしても学校や家庭で起きる様々な出来事をきっかけに互いの信頼を失うこともあります。それでも信頼関係を修復する努力やきっかけ作りをし、非がある場合はそれを認め、誤りを正し、誠意を尽くし、前に進むことが大事です。それは私たち大人にとっても必要なことです。
3)Use reminders and cues
締め切り合図リマインダーと開始終了合図のキューを使う
教室、学校の一日は時間割で決まっており、課題提出や試験は年間行事として決まっています。学校でも家庭でも、締め切り合図として子どもたちにリマインダーを出すことや、開始終了合図のキューを積極的に使い、知らせることは子どもたちが成長して、将来物事に対して自己管理ができるようになるまで大事なことです。
4)Address behavior issues quickly/wisely and Give behavior=specific praise
生徒の行動問題に迅速かつ懸命に対処し、善い行いへの特別な賞賛を与える
家庭での躾もそうですが、子どもたちが何か良くない行いをしたときにはその場で対処し正すことが一番効果的です。そして更に効果的なことは子どもたちが後にその行いを周りの助けなしに自分で正した時には、教師や周りの大人がしっかり気づいてあげ、褒めてあげることです。
5)Set clear expectations and ensure students understand the why behind the rules
生徒への明確な期待、要望を設定し、その為のルールがなぜ必要であるか確認させる
教師がこういう行動や態度を示してほしいと具体的に例を挙げて、なぜそれが大切か子どもたちに説明し理解を得ることは、学級を運営するために非常に重要であると考えます。子どもたちにはそのルールに従う責任があり、そのルールに従うことがいかに自分を助け周りを助けるのか子どもたちに説明し、認識させる責任が教師にはあります。
6)Actively supervise and celebrate student’s hard work, especially the process not the results
積極的に監督し、生徒の努力、特に結果ではなく努力した過程を祝う
子どもたちは周りの大人、教師をよく見ています。よく気に掛け、声掛けし、応援し、心配してくれる大人に安心感や信頼感を抱きます。結果を褒めることはもちろん大切ですが、一生懸命頑張っている過程を日ごろから褒めてあげると子どもたちは自主的に様々なことに挑戦していきます。
7)Be consistent in applying rules
ルールの適用に一貫性を持たせる
私は学校で子どもたちが大人への信頼を失う一番の出来事、きっかけがこれであると考えています。ルールの適用を有効にするためには一貫性がなぜ大事なのか教師は認識し、しっかり子どもたちと何度も話し合うことも時には必要です。
8)Create and use a variety of communication channels
様々な方法のコミュニケーションのチャンネルを作り、使う
子どもたちは十人十色、親御さんもそうです。日ごろのコミュニケーションも勿論大事ですが、様々な方法でベストなコミュニケーションツールを見つけ活用することが大切です。メールや手紙でのやりとりが明確な場合もありますが、一方通行にならないように電話や対面で追ってやり取りをするように心がけています。
9)Find the effective tone of voice with positive attitude
前向きな姿勢で効果的な声のトーンを見つける
学級を運営する上で、教師の声のトーンは強力な道具です。子どもたちとの関わりやその行動へのサポートという観点からも、あらかじめ教室全体の環境を声のトーンで設定しておくと学級運営がしやすいと考えます。
10)Use hand signals and other nonverbal communication
手信号やその他の非言語コミュニケーションを使用する
手信号や非言語コミュニケーションは時に最も効果的な学級運営ツールになり得ることがあります。これらを確立することは学習の流れを妨げることなく、授業中に子どもたちが自分のニーズを教師に伝えるための優れた方法です。また、私たち教師が素早く静かにメッセージを伝えるための最も簡単な方法でもあります。
一年で一番賑やかな華やかな12月、そして冬休みを目前に、子どもたちの心はウキウキわくわくしています。心ここにあらずといった感じです。しっかり楽しみしっかり心の充電を終えて新年を迎えたいものです。
次回は学級運営を踏まえた米国式の問題の対処法や教職員の権利と責任などを紹介したいと思います。
下條 綾乃(しもじょう あやの)
在沖米軍基地内 公立アメリカンスクール 日本語日本文化教師
日本語学校や領事館等で日本語を教えた後、米軍基地内の公立アメリカンスクールで日本語日本文化を教えて20年ほどになります。何年経っても毎日驚きと気づきがあり、それらの一部を皆さんと少しでも多くシェアできたら嬉しいです。外国の子供達に自分の話す言葉や習慣、文化を教えることの楽しさ、難しさ、面白さを呟いていきます。
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