2021.06.18
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

評価について考える際に大切な視点

前回は観点別評価という黒船が、「何のための評価なのか」を問いかけているということについて書きました。
今回は評価についてもう少し考えたいと思います。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

何のための評価?

6年前の学びの場.comで「教育活動の評価にはレベルがある!~より良い評価を求めて~」という記事を執筆させていただきました。文科省の指定を受けてキャリア教育の授業に取り組んでいた時で、評価についていろいろ学びながら試行錯誤していた時の記事です。

記事では本校キャリア教育授業の運営指導委員会での資料をもとに、評価には大きく分けて「説明責任のための評価」「実践の質の向上のための評価」「生徒の学びと成長のための評価」の3つがあるということを書きました。

観点別評価をめぐる議論では、この3つが混同されているように思えてなりません。たとえば文科省の資料や市販の書籍などでは、取り組みを評価することで実践をよりよいものにするということが強調されます。また生徒が自らの学びや成長を自覚できることが重要ともいわれます。これらは正しいことですし、否定すべきものではありません。

しかしこうしたことが強調されればされるほど、「でも……」と思ってしまうのが学校現場の本音でもあります。次節でこのことについて書きたいと思います。

理想と現実のはざまで苦しむ学校現場

たとえばある生徒の数学の評定が3を目標にしていたけど、結果的に2になってしまったとします。この評定の変化1つが生徒の大学への推薦や高校での進級に影響する可能性があるというのが高校の現実です。つまり私たちは生徒や保護者に「なぜこの評定なのか」を説明する必要があります。これが説明責任のための評価です。

説明ということを考えたときに、テストの点数はわかりやすいです。テストで60点を取ったというときに、本来その60点の価値はテストの問題などをしっかり分析しないとわからないのですが、私たちはそれを客観的な数字だと受け取ります。課題として出したレポートがAでなくなぜBなのかという疑問を持つことはあっても、テストの点数は採点ミスがなければどうしようもない現実だと受け止めがちです。テストの点数以外で評価をするときに説明責任を果たせる完璧なものにしようとすると、そこには大変な困難と労力が伴います。 

身長や体重、50m走のタイムなど、人のある部分だけを評価することはそんなに難しくありません。しかし数学の力など抽象的な力になればなるほど測定するのが難しいという現実があります。そもそも学びに向かう力や思考力・判断力・表現力の評価は簡単ではなく。私たちは難しいことに挑戦しているのです。 

このように書くと「IB教育(国際バカロレア)では評価軸がはっきりしている」という方もおられます。本校がIB認定校なのでIBの内情も少しはわかります。たしかにレポート一つとってもIBでの評価軸は明確です。しかしIBでは担当する生徒数が少ないという現実を忘れてはいけません。1クラス40人の生徒を対象に同じ評価を実施しようとすることは現実的ではないのです。

ここまでテストの点数以外で評価することには困難が伴うことを書いてきました。しかしその一方で、目の前の生徒の、テストの点数にはなかなか表れない力や頑張りを評価したいという思いが私たち教員にはあります。何らかの実践の結果(評価)を参考にして、実践をよりよいものにしたいというのも誰もが持ってる思いです。「説明責任のための評価をしないといけないという現実はありつつ、教育の場として、よりよい実践や、生徒の成長のための評価を何とか実施したい」。これが多くの教員が考えていることはないでしょうか。理想と現実の中で、なんとかより良い方法を考える。これこそが評価に求められていることなのでしょう。

本当に大切な評価は何?

評価の実施については最適解を探していくしかないというのが今の現実なのかもしれません。 

6年前の学びの場.comの記事では、評価を実施する際について大切なこととして「目標を明確にし、共有すること」「負担<効果となる工夫」「いい結果も悪い結果も意味があるので受け止める」の3つがポイントだと書きました。今もその思いは変わりません。そして評価に取り組むことで、結果的に学校の目標が具体化され明確になっていくことも間違いありません。「上から言われたから」「やらないといけないから」というだけで観点別評価に取り組むのはあまりにも、もったいないと私は思います。テストの点数や偏差値などわかりやすい評価指標があるからこそ、実は私たちはそれらに振りまわされ、結果的に評価するということをいい加減にしてきたのかもしれません。

ところで評価について、本当に大切なことは、教員が与えられた物差しの中で、精緻な評価を実施することなのでしょうか?おそらくそうではないでしょう。本当に大切なことは、評価軸を自分でつくること、そして自己評価ができる力を育てることではないでしょうか。次回こうしたことをテーマにもう一回だけ評価について書きたいと思います。

ありがとうございました。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop