2015.07.08
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教育活動の評価にはレベルがある!~より良い評価を求めて~

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

 3回連続してキャリア教育の評価について書いてきました。
 私たちは評価の必要性に気づき、専門家の協力をえながら、
 ようやく年度当初に生徒たちにルーブリックを配布できました。

 評価についての悩みは多くの先生が持っているようです。
 原稿を書いていると後ろから、英語の先生の悩みが聞こえてきました。
「すべて英語で授業し、生徒にもっと英語を使わせたい。
 そうしたときに、(テストや英検○級だけではない指標で、)
 生徒の成長やついた力をどうやって評価したらいいのか、、」
 
 テスト、偏差値などわかりやすい評価があるからこそ、
 実は私たちはそれらに振りまわされ、結果的に評価するということを
 いい加減にしてきたのかもしれません。

 大学入試も大きく変わろうとしています。
 合格すれば世界中の大学への入学資格を得ることができる
 国際バカロレア(IB)プログラムでは、数学についての課題レポートを
 まとめる数学探求についても明確な評価が示されています。
 そろそろ日本でもテストの点数以外の評価について真剣に考える
 時期が来ているのでしょう。
(IBの評価についてのURLは文章の最後にあります)


 今回は今までのまとめとして、評価に取り組むことを考える際に
 欠かすことのできないことについて書きたいと思います。

 

1、何のために評価するのかで評価のレベルが決まる

 

 そもそも何のために教育活動の評価を行うのでしょうか。
 これは最も重要な問いかもしれません。
 成績をつけるためでしょうか?上から評価するように
 言われたからでしょうか?

 
 立命館大学の河井亨先生は教育活動の評価について大きく
 次の3つに分類されています。 
 (本校で実施した、キャリア教育授業の運営指導委員会にて)


 ・説明責任のための評価
 ・実践の質の向上のための評価
 ・「生徒の学びと成長」のための評価 


 たとえば私たちの学校はキャリア教育授業を実施するにあたり、
 研究指定校として文科省から予算をいただいて実施しています。
 税金を使っているわけですから、使った費用以上の成果があったことを
 説明する責任があります。これは説明責任のための評価です。
 

 評価がこのレベルにとどまると、報告書などを通じて
 ”あれこれやってます!”ということは伝わります。
 しかし実際に何をどうやっているのかは外部者からはわからない
 場合がほとんどです。
 

 一方で私たちがようやく気づきはじめ、今まさに実施しようと
 している評価が、実践の質向上のための評価です。
 評価活動を通して生徒を見取り、次の実践につなぐための評価です。
 この評価ではネガティブな結果こそが大事ということが少なくありません。
(説明責任のための評価ではネガティブなことはあってはいけない
 場合が多いので、ここは大きく違う部分かもしれません)

 このレベルの評価をすることにより、実際に何をどうやっているのかが
 外部者からもわかるようになります。しかしその取り組みで生徒が
 どうなったのかまではわからない場合が多いです。 


 最後が、生徒の学びと成長のための評価です。
 このレベルの評価をすれば、何をどうやっているのかに加えて、
 それを通じて生徒がどう学び成長したのかまでが外部者に
 わかるようになります。
 これは私たちがまだ到達できていないレベルの評価なのかもしれません。
 また改めて生徒の学びと成長のための評価について詳しく報告できるよう、
 実践を頑張りたいと思います。

 

 評価の3つのレベル、何のために評価するのかで
 評価のレベルが決まることが伝わったでしょうか?
 読者の方で評価に取り組もうとされている方は、
 ご自身の考えている評価はどのレベルでしたか? 

 


2、評価に取り組む際に大切な3つの視点 


キャリア教育授業で評価に取り組む中で、評価に取り組む際に
重要な視点は3つあることに気づきました。
 
 まず一つ目に「目標を明確にし、共有すること」です。
 「意欲が高い」など抽象的な言葉を使っているうちは
 評価も抽象的になります。
 具体的な生徒の姿(なってほしい姿、現状)を共有することで、
 ようやく評価ができるようになります。


 二つ目が 「負担<効果」となる工夫です。
 どんなに完璧な評価方法でも、あまりに負担が大きすぎれば
 長続きしないでしょう。ルーブリック作成時も研究者の
 知見を100%受け止めると、評価にかける時間も、会議を開く回数も
 実現不可能なものになりそうでした。
 どんな完璧なものでも現場で実践できなければ絵に描いた餅になります。
 負担を0にすることは不可能ですが、「負担<効果」となる工夫を
 考えることは評価に取り組む際に必要不可欠な視点です。
 
 三つ目が「いい結果も悪い結果も意味があるので受け止める」ことです。
 何らかの取り組みをして、その前後で結果が変わらなかったり、
 悪くなったとしても、そこには意味があります。
 大切なことはなぜその結果になったのかを考えること、その結果を
 次の実践に活かすことです。そもそも評価はより良い実践をするため、
 生徒がより成長するためのものです。
 この視点を忘れて結果ばかりを追いかけると評価がゆがんでしまう
 危険性もあります。こうなると長期的には実践のレベルも低下し、
 生徒の成長につながらなくなるでしょう。  
 

3、評価はより成長するためのもの
 


 私たち教員は日々生徒を評価しなければいけません。
 一方で私たちは人事評価などで評価される側にもなります。
 このように評価からは逃げられない時代を生きている私たちですが、
 昨今の評価に関する議論を聞いていると、
「評価は自分の成長のためのものである」ということが理解されていない
 ようにも思います。

 

「教育の場には成果主義や何でも数値化することはなじまない」
 この言葉が間違っているとは思いません。
 しかし、評価=成果主義=数値化という認識のみが広がって
 しまっていることは事実で、そこには違和感があります。
 自分がより成長したい、より良い学校を創っていきたいと思うなら、
 評価から逃げているだけではいけないように思います。
(もちろん、何のためにどんな評価がされるのかによりますが)


 キャリア教育授業はテストを行いません。だからこそ
 「評価は成長のためのものである」ということを実証して
 発信できる可能性が高いのかもしれません。
 評価ということについて、他の先生方の実践も
 ぜひともお聞かせいただきたいと思います。

 

 最後に。よりよい評価を一緒に作りませんか?
  
 最近生徒から「○学部と○学部どっちがいいか選べない」などの
 声を聞きます。確かに選ぶことや選ぶ力を育てることは大事ですが、 
 本当に大事なのは「選ぶ力」だけでしょうか。 

 次回はこうしたことについて書きたいと思います。

 お読みいただきありがとうございました。
 引き続きよろしくお願いします。

<リンク>
http://www.ibo.org/globalassets/publications/math-sl-guide-jp.pdf
(国際バカロレア機構日本語ページ、数学SL指導の手引き) 

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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