2021.06.01
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見た目問題~日本人なのに日本人じゃない?~

前回の進級問題に引き続き、私の勝手な使命感その2です。日本の先生方の目に触れるであろうこちらでの執筆が決まってから、いつかは書きたいと思っていました。
ズバリ!帰国子女について、皆さんは教員の立場からどう感じていらっしゃいますか。

ユタ日本語補習校 小学部担任 笠井 縁

ご迷惑をおかけします。でもありがたいです。

今年度は国をまたいだ移動を控える人が多いので、海外からやって来て6~7月に日本の小学校に体験入学をさせてもらう子どもたちは少ないでしょう。
例年ですとアメリカの現地校が夏休みに入る5月末から日本へ帰省し、日本の1学期の後半にお世話になる児童たちが数多くいます。我が家の息子も何度か実家近くの保育園や小学校にお世話になりました。

日本語が年齢相応ではなかったり文化の違いでご迷惑をおかけすることも多いと思いますが、引き受けてくださる日本の先生方には感謝でいっぱいです。先生方が細部にわたり準備してくださったり温かく送り出してくださると、ただでさえ忙しい先生方には申し訳ないとさえ思います。
その一方で補習校の児童を見ていると、日本での学校生活を体験できた子は、ありがたいことに日本語力もモチベーションもグンと上がって2学期に戻って来るのでやはり貴重な体験です。

この学びの場.comをご覧になる先生方は、海外から来る子どもたちを受け入れる側の方が大半だと思います。私の勝手な使命感というのは、送り出す側の気持ちや考えをお伝えする事です。

子どもにしかわからない事もある

アメリカの field day

水着に着替えてこれから水遊び。教室は先生が片付けているので、荷物は外へ持って出るように指示されました。

実は、送り出す補習校担任としては、我が家の息子のような見た目からしてハーフの子が体験入学をするよりも、見た目が日本人の子が体験入学をする時の方が心配なのです。

見た目がハーフであれば実際の日本語力に関わらず初めから特別枠なので、日本の生活文化や学校文化に慣れていなくて突飛な事をしても「そうだよね。知らないよね」と、大抵は誰もが納得し手を差し伸べてくれるようです。反対に少し日本的な事が出来るだけでとても感心してもらえます。(「お箸が使えるんだ」等)

ところが年々増えているのは、両親は日本人でも海外で長期間生活をして、現地の学校にも通った事のある子どもたちです。
小学校高学年以降に海外で生活した場合、彼らの文化的意識は日本人のようです。この場合は一般的に、滞在先の現地校では苦労しますが、日本に帰国後、再び日本の社会に馴染む時のハードルは比較的低いようです(程度の問題なのでハードルがない訳ではありませんが)。

一方、幼児期や小学校低学年の時期に日本以外で生活した子どもたちは、家庭内では日本文化の割合が多かったとしても、学校文化に関しては現地のやり方しか知らないのです。家庭内の文化と学校文化は別の物です。
保護者でさえ、いえむしろ日本人の保護者の方が、海外の学校文化については知らないことの方が多く、子どもだけが体験している場合が大半でしょう。
だから親でさえ、帰国後に自分の子どもが日本の学校に通い出した時に「え、そんなことも知らないの?」と驚く事もあるかもしれません。親は日本の学校しか知らない。そして子どもは現地の学校しか知らないのです。私も現地校に関わり始めた時は驚きの連続でした。

学校文化の違いの一例として運動会を挙げましょう。運動会は英語では field day と訳されることが多いです。しかし、その言葉から連想されるのは日本とアメリカでは全く別のものなのです。
アメリカで field day と言えば、授業やテストの終わった年度末に、生徒たちがさまざまなアクティビティを楽しむ日で、どちらかと言えば全校でのお楽しみ会やお祭りという感じです。
アクティビティの大部分はPTAや担任以外のスタッフが中心になって運営されるので、教員は児童が校庭で遊んでいる間に教室を片付けたり年度末の事務作業などをします。大抵は初夏の暑い日なので、消防車が来て生徒に水をかけたりもします。アメリカの field day も日本の運動会もどちらも直訳できない、それぞれの文化に根差した行事です。

流暢な日本語が見えなくする内面

図は筆者作成

ここで問題をさらに複雑にするのは、幼児期から低学年の時期を海外で過ごした日本人家庭の子どもたちの多くは「日本語は」達者だという事です。
家庭内では日本語を話していますし、こういう家庭の保護者は総じて教育には熱心で海外でも日本語をしっかり教えているので、読み書きも含め年齢相応の日本語力があります。しかし、言葉に問題がなくても、中身は外国人とも言えます。今回の表題の通り、見た目は全くの日本人でも。

こういう児童が夏休みに日本で体験入学するということになり、補習校担任から書面で学習進度などをお伝えする際、私は「日本での学校経験はありません。日本語や学力面は問題ないですが、日本の学校を知らないのでご配慮いただけると幸いです」というようなことを添えるようにしています。

それは私自身が補習校で低学年を担任した経験からです。見た目は日本人、日本語も上手。でもこの子たちの中身はアメリカ人なんだなぁと、ハッとさせられる事が幾度もありました。
その経験は次回に続く……。

笠井 縁(かさい ゆかり)

ユタ日本語補習校 小学部担任


アメリカの小さな補習校で多文化の中で成長する子どもたちと一緒に学んでいます。アメリカの現地小学校でも非常勤で子どもたちと接し、日本との違いに驚くこともありますが、子どもたちの学びの過程には共通する部分も多いのではないかと思っています。

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