2020.10.10
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発達障害のある子どもへの支援の実際「感覚が過敏な子どもの実例」(NO.8)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

感覚が過敏というと、「発達障害の子どもの中にはそういったタイプがあるから配慮しなければいけない」といった考えが浮かびがちですが、言うまでもなく感覚過敏な大人もいます。しかし、発達障害のある子ども達が大人になっても同様の困難さを抱えるのかというと、決してそういうわけではありません。教育的な成果も期待できますし、医療的・身体的治療が困難さを軽減してくれることもあります。ただ、特性としてもっているものをゼロにすることはできないのです。多かれ少なかれ、私たちは何かしらの困難さを抱え、それと共存しながら生きていくことを覚悟しなければならない存在のようです。

私が以前出会った女性は、大きなイヤリングをしていました。おしゃれな人だなと思ったのですが、後で聞いてみると、周囲の音を選別して聞き取ることが難しいのでイヤリングのシャリンという音に助けられているということでした。自分に経験がないと、わからないものだと思いました。

A君のこと

今回は、感覚過敏の子どもの中でも、最も印象に残っているA君の話をしたいと思います。A君の姿は脚色して描いていますので、ご承知おきください。

特別支援教育コーディネーターという立場だったときに、私はA君と出会いました。特別支援教育コーディネーターというのは、発達障害のある子どもたちなどへの支援を考えるリーダー的な役割を担い、校内の組織を運営したり専門機関などと連携する窓口になったりする仕事を行います。教師の数多い仕事の中の、役割分担のひとつです。

A君は、1年生の頃から嫌なことがあると廊下に出てしまうことがありました。担任も周りの職員たちも、わがままな態度だと思っているようでした。3年生になると状態はさらに悪化し、集団に入ることを極端に避けるようになりました。当時の担任はベテランと呼ばれる年代の方でしたが、A君のような子どもと関わった経験が少ないようで、厳しく叱りつけることが多かったように記憶しています。

当然、叱ったところで何の解決にも結びつかず、学校の外に逃げ出すようなこともあったので、学校としての関わり方を話し合うために、繰り返し会議が行われました。そして、比較的授業の時間数が少なかった私が、A君が逃げ出したときの受け皿になることになったのです。


A君の様子を、もう少し説明したいと思います。彼はとてもIQの高い子どもでした。漢字は練習しなくても正確に書くことができましたし、算数の教科書を読んで自分で学ぶこともできました。あるとき、A君と1000ピースのパズルをしていたところ、無地の何の変哲もないピースを見つけて、「これを探していたんだ」と喜ぶ姿を目にしたときには、その優れた記憶力と判別の力に驚かされたものです。

ところが、深く関わっていくと、彼は教師や友達から変わった子どもだと思われているのではないかという恐怖感があることがわかってきました。出会ったころは、「誰も僕のことをわかってくれない」と繰り返し訴えることがありました。私はその度に、安心感を与えられるような返事をするのですが、なかなか納得してくれませんでした。実際、彼とのこのようなやりとりは数十回に及んだと思っています。きっと頭で理解するのと心で理解するのは別なことだったのだろうと、今更ながらに思い出されます。


私ごとですが、私も心で理解するのが苦手なタイプでした。きっと今もそういう特性をもっていると思います。例えば困難な場面で誰かに励ましてもらったり、状況は決して悪くはないと説明されたりしても、心の傷が疼くのです。頭ではわかっているのに、心が伴わない。きっとA君も私に似ているところがあったのだろうと思います。

前回もお話ししたことですが、まるで火箸を素手でつかんでしまうような刺激を心に受けてしまうのだろうと思います。その傷は深く治りにくいため、心が癒されるまでに時間がかかってしまうのです。そういった子どもたちには、決して否定するような表現を使わないことが大切なのです。そして、成功体験を重ねることを通して安心感を与えていくことこそが大事なのだろうと思います。

教育以外のアプローチ

ところで、特別支援教育コーディネーターだった私は、その立場を活用して、スクールカウンセラーと一緒に保護者と面談をすることもできました。面談の際に学校に常勤する者が、少しの時間であっても同席することはとても意味があるのです。なぜなら、学校での様子を細やかに伝えることができるし、学校がどのような支援をしているかについても説明ができるからです。支援によって、どのように変化していったかを伝えられれば、保護者との信頼も強固なものにしていくことができます。担任では言いにくいことも、客観的な立場の者が伝えることには、大きなメリットがあると思いました。

保護者との信頼関係を築く中で、たくさんの協力を得ることもできました。保護者はA君のためになると思ったことは、積極的に取り入れていってくれたようでした。そして、医療機関などとも連携することができ、A君は大きく変化することができたのです。そのひとつに、身体を整えるための施術を行ったことを付け加えておきたいと思います。保護者が、治療院にも通ってくれたのです。その成果が上がり、A君は小さな刺激による身体の痛みから解放されていきました。また、恐怖心や不安感も軽減されたようで、教室から逃げ出すことも少なくなっていきました。

誰もが身体からのアプローチで解決するとは限りませんが、身体を整えることによって刺激が緩和されることもあるようです。そして相乗効果として、心に受ける傷も軽くなっていったように見えました。

パズルの効果 

最後にパズルの指導の効果について、触れておこうと思います。パズルをしながら話すというのは、不登校の子ども達と関わった時期に有効だと知った方法です。相手の顔や目を見ずに、自然と会話できる場を設けることは、とても大切なのです。それから、パズルでの遊びは、自然な形で友達を巻き込むことができます。競い合うこともなければ、できたりできなかったりということが、問題になりにくいからです。話をしている中で、コミュニケーションの力も付けることができます。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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