2020.09.26
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

発達障害のある子どもへの支援の実際「感覚が過敏な子どもたちへの対応のヒント」(NO.7)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

これまで、キレやすい傾向をもつ子どもや、こだわりの強い子どもたちの特徴についてお話ししてきました。ただ、そういった「特徴」、あるいは「特性」をネガティブに捉える必要はなく、「人はみな、それぞれ異なる」ということに尽きるのだろうと思います。人は肉体的な特徴ばかりではなく、感覚的なもの、物の捉え方、考え方や思いなど全てにおいて異なっているのです。そして、そういった特性は誰もが少なからずもっているのです。

今回はキレやすいとかこだわりが強いなどと似た傾向にある、感覚の過敏さについて取り上げていこうと思います。

長く学校に勤めていると、大きな音や声、光、匂いなどが怖いと思う子どもたちと出会うことがあります。また、皮膚に触られることに痛みを感じる子どももいます。人前では着替えることができないと訴える子どもたちは珍しくありません。恐れを感じると、その場から逃げ出そうとする傾向もあります。一般的に、感覚が過敏だと思われる子どもたちの姿です。

ところで、私たちはある感覚を得るとき、選び取ることができます。例えば、騒音の中で話していても、相手の声を聞き取ることができますし、視界に入る多くの中から見るべきものを見つけ出すことができるのです。しかし、感覚的に過敏な子どもたちは、感覚と向き合う際にワンクッションを置いて選び出すという過程を取りにくいように見えます。

R.シュタイナーは感覚過敏について、「感覚を受容するアストラル体が必要以上に直接関わってしまうので、どんなものをも傷ついた手で掴むように敏感に掴んでしまう」と言っています。そして、「普通の人よりもはるかに強烈に環境を集中して感じ取り、自分の内部においてもそれをはるかに強烈に映し出してしまう」のだと指摘しているのです。

ですから、実際に暑さを強く感じやすい、音が苦手といった環境から受ける感覚の過敏さだけではなく、心の過敏さにも注目しておく必要があるのです。些細なことでも、それを増幅して受け取ってしまう傾向があるということです。緊張感や不安感であるともいえますし、もっと深刻な状態であるならば強迫観念と言い換えることもできるでしょう。

私たちの思考は、ある画像や印象が映像のように流れていきます。よい映像ばかりではなく、好ましくないような映像も流れます。しかし、たいていの場合、流れにまかせていることができるのです。しかし、過敏に感じる子どもたちは、好ましくない映像を何度も思考の中に映し出してしまいます。また、その映像によって引き起こされる悪い感情も伴って、何度も苦しむ可能性があるのです。心的外傷ストレス障害(PTSD)のようなフラッシュバックが、小さな出来事の中であっても起きやすいのだろうと想像します。

その感受性の強さが、ときにはキレる姿となって現れたり、こだわりという形で現れたりするのかもしれません。もし、「キレる」とか「こだわる」ということが見えにくくても、感覚的な受け取り方の違いで、悩み苦しむ人がいることに思いを寄せていきたいと思います。

対応のヒント

前述したように人の感覚というのはそれぞれ異なるので、誰かが「頭が痛い」とか「お腹が痛い」と言っても、どんな感じなのかを想像することしかできません。しかし、自分にも経験がある痛みには、思いやりをもって接することができます。

問題となるのは、自分にとっては大した刺激ではないと思われるのに、オーバーに痛みなどを訴える場合です。漫画にも描いてありますが、「シャワーの水が痛い」と訴えた子どもに対しては、ほぼ全ての教師が首をかしげ、「どうせプールに入るのが嫌で、言い訳をしているんだろう」との見方をしていました。この例に限らず、自分にとっては小さいと思うような刺激に対して、相手が苦痛を訴えたときに受け入れることは難しいのです。  

子どもが痛みや恐怖を抱いているときには、それを受け入れようとする姿勢を見せることが大切です。決して、「そんな小さなことで、くよくよするんじゃありません」とか、「そんなこと気にすることではないよ」などと口に出さないことです。また、たとえ言葉にしなくても、相手の感情を子どもは敏感に感じ取ります。「そういうこともあるよね」と共感していることを示していきましょう。この対応の仕方は、いくら強調しても十分とは思えないくらい大切なのです。

もちろんそれは、感覚過敏の子どもだからこそ大切なのではありません。また、感覚過敏に対してだけ大切だということでもないのです。子どもたちは、それぞれが異なった存在であり、全ての面において異なっています。それを教師や周囲の大人が、自分の好みとか理解できる範囲で軽率に関わることは慎むべきなのです。

次に、そういった心構えを根底に、具体的な支援も考えていきましょう。聴覚に過敏性がある場合には、耳栓を使用するなどの対応が知られています。運動会などで行われる徒競走ではピストルを使用しないなどの対応も行われています。

また、視覚に過敏性がある場合には、色や光を調節していくことが大切です。ある子どもは、カラー印刷から白黒印刷にしたところ、文章や絵・図などからの情報を得られるようになったと聞きます。光に対する過敏性がある場合には、部屋の照明や窓からの光を調整する必要があります。

最近の教科書では、色使いに細心の注意が払われています。例えばある算数の教科書では、大切なポイントを示す文章をグレーの地色と共に示しています。それを見た大人が、「大切なことを示すんだから、赤で書いてくれればいいのにね」と言っているのを聞いたことがあります。しかし、赤のような原色を受け入れにくい子どもがいるのです。色使いの配慮とはどのようなものであるのかについて、その知識が広がっていけばいいと思います。

ちなみに、これらの支援を「合理的配慮」と呼びます。それが当たり前の世の中になりつつあります。学校現場に関わりの少ない皆さんも、ご自身の周囲にある配慮や支援の形を探してみてはいかがでしょうか。きっと社会生活の中にも、たくさんの工夫が隠れているはずです。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

同じテーマの執筆者
  • 松井 恵子

    兵庫県公立小学校勤務

  • 松森 靖行

    大阪府公立小学校教諭

  • 鈴木 邦明

    帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師

  • 川村幸久

    大阪市立堀江小学校 主幹教諭
    (大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年)

  • 髙橋 三郎

    福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop