2020.09.12
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発達障害のある子どもへの支援の実際(NO.6)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

こだわりの強い子どもたち

私たちは、自覚しているかどうかにかかわらず、少なからずこだわりをもっています。そして、こだわりがあることは、プラスの効果をもたらす場合もあります。こだわりを短所と見るだけではなく、長所として生かしていくことも必要だということを、前回お話ししてきました。

本題に入る前に、さらにもうひとつ踏み込んで、こだわりをもつときの心情を想像してみていただけないでしょうか。そうすると、こだわりをもっているときの心情の、別の側面を感じることができます。こだわりを強くもってしまう子どもは、もしかしたらネガティブな気持ちを何度も思い出してしまうタイプなのかもしれません。それによって不安感が強いのかもしれませんし、不快な気持ちが再び呼び起こされるのではないかという緊張感の中にいるのかもしれないのです。大人であっても、同じ失敗をしないようにしようと思うときにはこだわりも強くなりますし、失敗したときの映像が何度も思い出されて不安感が高くなるのではないでしょうか

私たちの心は、決して同じではありません。似たような感情をもつことによって共感することはあっても、重ね合わせたように全く同じ気持ちにはならないのです。相手の気持ちや立場に対して、多面的多角的に想像力を働かせる必要があるのです。

では、今回もこだわりの強い子どもたちの実例をご紹介していきましょう。この子どもたちは、私の出会った子どもたちや、書籍で紹介されていた像をモデルに描いています。特定の子どもを示すものではないことをお断りしておきます。

Aさん

Aさんは、普段から誰に対しても「だって…」と返すことが多く、「どうせ自分なんて…」と思う場面も数多く見られました。その言動が重なるうち、周囲から距離を置かれるようなこともありました。するとAさんは、その場に居辛くなって、保健室に逃げ込んでしまうのです。それがまた、周囲から不評を買ってしまい、さらに距離を置かれるという悪循環が生まれているようでした。

しかし、幸いなことに、Aさんを受け入れることができる子どもたちもいたのです。それで、国語の授業で自分たちの好きな詩とその作者について発表する機会をもったときには、Aさんも友達と一緒に活動することができました。持ち前の勤勉さを十分に発揮して、とてもいい発表をしたのです。普段の姿とは異なる、Aさんの真面目さや知的好奇心の高さが浮き彫りになった場面でした。

そして発表の日を境に、Aさんに対する周りの子どもたちの目も少しずつ変化していきました。Aさんの表情の中に、笑顔も見られるようになりました。友達もできたようで、日記に関わることの嬉しさが見られることもありました。時間が経つと、Aさんに距離を置いていた男子からも、「あいつは公平だから」と評価されるようになっていったのです。彼女の努力も大きかったと思いますが、認められることや友達と関わることが、変化のきっかけになった例です。 

B君

Aさんと同じクラスにB君がいました。彼にも強いこだわりがあったので、詩の発表をするときには、友達との関わり方や練習にも苦労があるように見えました。そんな中でたまたま思いついたのが、ラップ調で朗読するという方法でした。B君も他の子ども達も、ラップ調で読むことをとても気に入り、教室以外の場所で秘密練習を繰り返しました。次第に友達との関わり方も円滑なものになっていきました。

このときの指導法は、実情を知らない人から見ると、特別扱いのように見えます。しかし、ときには特別な配慮が、その後の学校生活に決定的な意味をもつこともあるのです。彼らの自己肯定感や自尊感情(下記に説明)は、年齢相応に育っていないと感じさせられることが度々あります。そんな子どもたちにとって、友達から認められる機会をもつことはとても重要なのです。「自分にもいいところがある」という経験を重ねることによって、自分自身も、周囲の子どもたちも変わっていくのです。

C君

C君は、相手の心を逆なでするような話し方をする子どもでした。話しているとイライラさせられましたし、試されているのではないかという錯覚すら湧き上がってきました。なぜ、素直な表現ができないのだろうと思うこともしばしばありました。彼の本当の心に近づくのは、とても難しかったのです。

漫画に描いてもらったのは、体操の練習シーンです。練習しようと誘うと、「なんでやらなきゃいけないの?」、「どういう意味があるの?」と、何度も聞いてきます。「私もやるから、付き合ってよ」と返事すると、「先生できるの?」と痛いところをついてきます。それが、いざ始めるととても上手にできるし、褒められるとまんざらでもないように見えます。きっと、たくさん褒めてほしいんだなと感じました。

彼の一挙手一投足に自分の感情を動かしてばかりいた未熟な私でしたが、今となっては、口喧嘩のような話ができたのは、親しい証拠だったのかもしれないと思っています。イライラするような話し方の中には、相手への甘えがあったかもしれないのです。私はC君が進学していった先で、本気でC君と向き合ってくれる人がいなかったために、不登校になってしまったという話を聞きました。口喧嘩ができるということは、彼らの心に安心感があるのだということを、忘れないでいてほしいと思います。そして、多少面倒であっても、関わってやってほしいと願います。

Dさん

Dさんは、人との関わりを避けるような傾向のある子どもでした。しかし、人に関心がなかったわけではありません。あるとき、教科書をゴミ箱に放り投げ入れることがありました。それも私が見ている前で行いました。

当時、その行動によって担任に関心をもってほしかったのだろうと気付くまでに、多くの時間がかかりました。経験が少ないということは、子どもの本音に気付くのが鈍いということだろうと思います。Dさんとの関わりの中で、無鉄砲な仕草で合図を送ってくることもあるのだということを学びました。


ところで、Dさんに話しかけるときには、正面に立たずに横に並ぶなどの配慮をしました。この方法は、自閉的な傾向をもつ子どもと関わるときには有効だと感じています。「魂の保護を求める子どもたち」に詳述されています。

私たち教師は、「話を聞くときには、ちゃんと相手の目を見なさい」などと言葉をかけがちです。しかし、目を見つめたり見つめられたりすることを、苦手と感じる子どももいるのです。話をするときには横に立つ、進むべき方向に向かって話をするといった工夫をすることで、子どもが安心して関わってくれるようになることもあります。ぜひ、試してみてください。

 

  

自己肯定感 
ありのままの自分を受け入れる力。得意なことも苦手なことも、いいところも悪いところも自分自身であると肯定的に考えることができる力。

自尊感情 
自分以外の誰かに認められることによって、「自分もまんざらじゃない」という気持ちをもつこと。自分が役に立つ人間であると考えられる力。

参考文献
「魂の保護を求める子どもたち」トーマス・J・ヴァイス 水声社

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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