2022.03.16
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「国語授業」の説明書〜国語の根本・本質・原点〜(9回)

今回が「国語授業」の説明書の最終回になります。
今回は私が国語教育について考えていることを書こうと思います。あくまで、私の考えになります。特定の指導法などを否定するものではありませんのでご理解ください。少しでも参考になれば幸甚の極みです。

木更津市立鎌足小学校 山本 裕貴

【徒然なるままに】

今期の連載では、国語授業について書かせて頂きました。それも今回で最終回となります。そこで今回は私が現時点で考える国語に対しての私見を徒然なるままに書いていこうと思います。
私は、教師を始めて10年目になります。まだまだ未熟であり、自分の考えを形成している最中でもあります。ですが、小学校の学級担任として国語教育を中心に学んできたことで、気付いたことがあります。先人達の理論を学び、自らで実践してみて、少しずつ見えてきたものがあります。それらのことについて書こうと思います。

【授業の目的】

授業を行う目的は何でしょうか。これを問うたとき、人によって答えが違うと思います。すぐには思いつかない先生もいるかもしれません。私も初任者のころはそうでした。しかし、公教育として行われる授業を、実施者の教師が目的を理解していないのは問題であると考えます。
様々なご意見あると思いますが、私は授業の目的は「学力形成」であると考えます。これは、植草大学名誉教授である野口芳宏先生が提唱しているものです。

子どもは何のために学校に来て授業を受けているのでしょうか。友達と仲良くするため、たくさんの人に出会うためなど多くのことが考えられますが、第一は「勉強ができるようになるため」です。ですから、学校の中で殆どの時間を占めているのは教科学習なのです。

よって、授業の目的は学力形成であると考えます。では、学力とは何でしょうか。学力を形成するのは分かったとしても、学力が何か教師が理解していないと、形成することはできません。次は学力について考えてみたいと思います

【国語学力】

学力形成をするならば「学力」を明確にする必要があります。学力の定義とはなんでしょうか。手元の辞書を引いてみましょう。

学力「学習をして得た知識と能力。特に学校教育を通して身に付けた能力」
とあります。これでは抽象的ですね。より具体的に迫るために、文部科学省の公式見解を見てみましょう。少し古いものですが、文部科学省は「学力の三要素」というものを明示しています。それは以下の通りです。

1 知識・技能
2 思考力・判断力・表現力
3 学習意欲

なるほど、より具体的になりましたが、まだ抽象的です。学習指導要領を紐解いてみると、より具体的に書いてあります。しかし、これは10年に1回の改訂によって大きく変わってしまうものです。
そうではなく、いつの時代も求められる不易の学力とはなんなのでしょうか。私は国語教育においては、以下の3つであると考えます。

① 語彙力
② 読解力
③ 作文力

この3つは、いつの時代でも、どのように社会が変化しようとも、必ず子どもに身に付けさせるべき国語学力です。つまり、国語の授業を行う上で、この3つの学力を形成するよう展開していくべきです。
では、それぞれ解説していきます。これらの私の考えは、野口芳宏先生の国語学力論を基に構成されたものです。

【①語彙力】

最も優先して身に付けるべきは、語彙力です。私たちは言語を使って生活しています。文章を読んだり会話を聞いたりしたとき、理解できないことがあると、私たちは単語を調べます。言語とは、単語の意味を理解することで、文脈を理解しやすくなるからです。

現在の教育観では「教師は教えるべきではない。子どもから引き出すべきだ」という意見をよく耳にします。しかし、私は反対の立場です。教師がどんどん教えるべきだと考えます。
子どもから引き出す場面を否定しているわけではありません。子どもから引き出す場面が効果的な場合もあり、教師が積極的に教える場面が有効な場合もあるということです。

子どもは知らない単語が使われている文章は理解することができません。教師がより多くの単語を教え、子どもの語彙力を増やすことで、子どもの国語に対する理解力は向上します。
私たち人間には知的好奇心が備わっています。私の学級の子どもには、教科書に記載されている以上の語彙を数多く教えています。それらを知ったとき、子どもは知識が増える喜びで目を輝かせています。もう一度お伝えしますが、教師は子どもにどんどん教えるべきであると考えます。

【②読解力】

多くの語彙を知ることができたら、その知識は文章を読むことに活用できます。みなさんも受験勉強をしたことがあると思います。英語の長文読解をするとき、英単語を練習した前と後では、長文の理解度が飛躍的に上がることを経験しているのではないでしょうか。語彙力を付けるとはこういうことだと思います。

さて、読解力とは何でしょうか。私は「文脈を論理的に整合させる力」であると考えます。国語教育の中で「子どもの自由な読み取りを尊重する。子どもの読み取りを否定しない」という意見があります。しかし、これに対しても私は反対の立場をとっています。

子どもの自由な読み取りを認める場面というのは「感想」です。感想は「感じ、想ったこと」なので、一人ひとり尊重されるべきです。しかし、国語における読解指導はそうではないと思います。
物語文は解釈の幅が非常に大きいです。つまり「私はそうは思わないよ。こういう読み取りもできるよね」と言ってしまえばそれまでだからです。それでは「文脈を論理的に整合させている」とは言い難いでしょう。

具体例を挙げてみましょう。「白いぼうし」の最後で登場する少女の正体は「モンシロチョウ」です。しかし、急に消えてしまったという場面を拡大解釈するならば、「幽霊」という読み取りもありです。しかし、そのような読みは間違いであり、間違った読み取りは教師が正すべきです。そこで認めたとしても、公的な場での試験のときに、それは正答になるのでしょうか。恐らく殆どの採点者はバツにするでしょう。よって、子どもの誤読を正しい読み取りに気付かせ、導いていくことが必要だと考えます。

【③作文力】

文章を書くというのは高等技術です。人間の言語活動「話す、聞く、読む、書く」の中で最も難しいのが書くことです。書くという行為は今まで培った語彙力、読解力を総動員して文章を構成し、推敲し作っていくものです。成熟した大人でも難しいことを考えると、いかに子どもにとってハードルが高い活動かが分かります。

私は作文力を身に付けるには2つの手順があると考えます。
 ⓵型を教える
 ②何度も書かせる
    の2つです。

これも反対意見が多くあるかもしれませんが、私は文章を書くときには、必ず型を教えます。「作文は子どもの自由な発想で楽しく書かせることが第一である」という意見も多くありますが、私はそうは思いません。
想像してください。あなたが文章を書くときに、紙を一枚渡されて「自由に書いてください」と言われるのと、例文を紹介され、文章構成を説明され、「これを参考にしながら書いてください」と言われるのは、どちらが書きやすいでしょうか。言うまでもなく後者であると思います。
学校教育を修了している大人でさえ、そう思うのです。子どもは一層そう思うのではないでしょうか。

何度も言いますが、私は決して反対の立場を否定しているわけではありません。自由な発想で書かせることも大切です。しかしそれは、基礎基本が習得できてからではないでしょうか。お手本を参考に文章を書き、書き方が分かってきたら、自由に楽しく書くが正しい順序であると考えます。そもそも「楽しい」というのは自由にすることより「できないことができるようになる」ことではないでしょうか。

また、何度も書かせることも重要です。毎回長文を書かせる必要はありません。授業の中でノートに感想を書かせる程度でもよいと思います。何度も繰り返し書く活動をすることで、子どもは書くことに対するハードルが下がっていきます。そして少しずつ、できないことができるようになり、作文する楽しさに気付いていくと考えます。

【無知・未熟・未完成】

私たち教師の仕事は子どもを育てることです。先生方は子どもの本質は何だと思いますか。野口先生は次のように仰います。

「子どもの本質は無知・未熟・未完成である」

そうです。子どもは間違うことがあります。不適切な行動をすることがあります。思い通りにならないこともあります。それは無知であり、未熟であり、未完成だからです。
私たち教師の役割はそれらの頭についている「未」が少しでもはがれていくように手助けをすることではないでしょうか。

とはいう私もいまだに無知・未熟・未完成であります。このような記事を書かせて頂いていますが、国語の授業で上手くいかないことはたくさんあります。学級経営のことで悩むことも毎日のようにあります。初めて知ることも数多くあります。教師としての力量はまだまだ足りないと本気で思います。

しかし、だからこそ「謙虚に」「素直に」学ぶべきだと考えています。このような連載を書く機会を頂いて、私自身がとても勉強になりました。ありがとうございます。
これで私の今期の連載は終了となります。稚拙な文章に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。もし、少しでも先生方のお役に立つことができていたら、こんなにうれしいことはありません。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

山本 裕貴(やまもと ゆうき)

木更津市立鎌足小学校
千葉大学大学院教育学研究科学校教育学専攻
木更津技法研所属

高校、特別支援学校、小学校算数専科を経て、現在小学校の学級担任をしています。
人を幸せにするには、どうすれば良いのか。たどり着いた答えが小学校の先生でした。
教育の根本・本質・原点を問い続けていきます。

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