2020.01.08
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「速さ」ってどうやって表現する? ~ICTで学校教室改造~

今回は、前回に続いてScratchを使用した算数授業についてお話します。小学校6年間の中でも「単位量当たりの大きさ」と並んでつまずく子が多い「速さ」の単元でプログラミングを使用して授業した内容です。

「速さ」は、モノの「量」と違い数字の大小だけでは見えにくいです。かといって、教室で実際に見せるのも困難です。そういうときこそICTの出番です。

大阪市立放出小学校 教諭 大吉 慎太郎

教室で「りんごの数」は表現できても、「走る速さ」は表現できない

「りんごが3つあります。お隣の家からりんごを2つもらうと、あわせていくつになりますか」
このような問題を算数の授業で初めて扱う場合

  • りんごの実物を用意する
  • おはじきやブロックなどをりんごの代わりに用いる
  • 絵で描く

などが考えられます。そこから式を立て、答えを出せるようになります。それを低学年のうちから積み重ねることで、数字だけで理解することができるようになっていきます。

一方、「速さ」の単元では、

  • 50メートルを8秒で走るAさん
  • 40メートルを7秒で走るBさん
  • 50メートルを7秒で走るCさん

のうち一番速いといえるのはだれか、のような問題が出ます。既習の「単位量あたりの大きさ」から「1メートルあたりに何秒」「1秒あたりに何メートル」というように理解していくのですが、意味で考えるとわかったような気がしますし、最終的には「時速」「分速」「秒速」という言葉で速さを表すということを学習します。しかし、りんごの問題のような具体物で確認して、徐々に半具体物に移り、数字で理解するという明快さはありません。それが「速さ」の単元でのつまずきを多くしている原因ではないでしょうか。では、その「速さ」を具体的にわかるようにすれば、つまずきを減らすことができると考えます。
教室を飛び出して実際に走るのもおもしろいですが、狙った速さで走るのは至難の業ですし、そもそも検証中に一定の速さで走り続けるのは不可能です。
そういうことはICTの得意な領域です。ICT導入や活用の話になるとなんでもICTに置き換えないといけないと不安になったり、すべてを無理にICT化しようとしたりする話になりがちですが、従来通り具体物を使ったほうがわかりやすいことや、ICTを使うことでさらにわかりやすくなることがあります。今回の「速さ」については後者でしょう。

正確な数値よりも感覚で理解!?

単元の導入の部分では、あらかじめScratchで作成しておいたファイルを使いました。二人一組で一方の児童が「距離」と「時間」を自由に入力して、もう一方が一番速いキャラクターを当てる活動をしました。それを交互にやります。

「1メートルあたりに何秒」「1秒あたりに何メートル」を学習したら、正解するために計算を繰り返し行うようになります。これは前回お話しした「結果的に20問以上の問題を自ら解いていた」と同じです。また、慣れてきたら、「どちらが速いか」判断するのに時間制限を設けていました。

先日、落合陽一さんのnoteの『量だけでは弱く,質だけでは脆い / #日々短文雑記』(令和元年12月14日)という記事に次のような言葉が紹介されています。

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落合陽一です.筑波大の授業で柔道家の羽賀さんに授業に来てもらった.対談の授業で羽賀さんが言った金言.「量だけでは弱く,質だけでは脆い」.

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これを今回の授業で考えてみると、計算の質を求めて正確な計算ができるようになっても日常生活で即座に対応できる力とはかぎらないともいえます。もちろん、正確に計算することも大事です。しかし、日常生活では正確な数値を必要とする場面はそう多くありません。学校の授業でも感覚的に「○○の方が速い」と判断するための訓練が大事なのではないでしょうか。

教室を広げよう

この単元では「動きの速さ」とともに「作業の速さ」も学習します。これも実際に体験しようにも同じ速さで作業し続けるのは困難ですので、プログラミングを使用します。
ここまで来ると速さを求める計算には慣れてきているので、計算して得た数値を実際にブロックに入力して速さを確認します。

  • 計算→プログラミング
  • プログラミング→計算

を行ったり来たりして、計算の結果と実際の「速さ」というものを確認できるようにします。

この授業のあとの検討では「数値の入力だけでプログラミング?」「ただのプログラミングを使った検証実験?」という言葉もいただきました。確かに、その部分はありますし、プログラミングを専門とする方に言わせると物足りない部分もあるでしょう。しかし、一からプログラミングを組んだり、そのプログラミングの完成まで行ったりすることは現状の学校教育の算数の時間の中では、現実的な取り組みとはいえません。ここでは、机上の計算や「時速」、「1分あたりに何枚」のような意味だけでなく、実際に「本当にこっちの方が速い」ということを目にして感じることを重視してほしいです。これも前回と同じですが、算数の授業の中では、プログラミングを利用してなされていることを児童が知り、ブロックの組み方次第では他にも利用できるのではないかと考えることができれば十分ではないでしょうか。このように従来の教室だけでの学びでは難しい部分もICTやプログラミングを使用することで、その幅を広げていくことができます。教室を広げるツールとして、ICTやプログラミングを使用できるアイディアを考えていけるといいですね。

※Scratchは、MITメディア・ラボのライフロング・キンダーガーテン・グループの協力により、Scratch財団が進めているプロジェクトです。https://scratch.mit.edu から自由に入手できます。
参考資料

大吉 慎太郎 (おおよし しんたろう)

大阪市立放出小学校 教諭
教務主任として「学校の業務の改善」と「行事の精選」を行なっています。また、「プログラミング教育」や「ICTの推進」にも取り組んできました。授業におけるICT活用についての実践を多くの先生と共有しあっていきたいと考えています。

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