2019.12.25
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ヒソカに「学校ゲリラ」

コミュニティワークの世界に、「花ゲリラ(ゲリラガーデニング)」という言葉があります。それは、街中の放置された土のあるエリアに、花を植える活動のこと。本来は公共の土地に勝手に種をまいてはいけないので、「ゲリラ」と呼ばれていますが、それによって地域の人々を幸せにするという意味では、小粋なコミュニティワークでもあります。私は、これと同様、ポジティブな意味を込めて、ときおりヒソカに「学校ゲリラ」活動しています。

東京都内公立学校教諭 林 真未

最新の業績は、お昼の放送・音楽「ゲリラ」

私の中では、快挙!
つい最近、「学校ゲリラ」としてなかなかの業績だったと思うのは、お昼の放送で『ロックンロールは鳴り止まないっ』(by神聖かまってちゃん)をかけてもらったことです。

「業績」といっても、実行するのも評価するのも、私の中だけの話なんですが(笑)。歌詞に「クソ」という、学校的には不適切な言葉が一回出てくるので、どうかなと思ったんですが、子どもたちをあの衝撃的な曲に触れさせたくて、えいや!っと、やっちゃいました。放送委員の5、6年生が「先生の好きな曲アンケートお願いします」と言って来たので、CDを添えてこの曲を推薦したのです。

学校には、こういうアンケートでは先生は“順当な答えしかしない”という暗黙の了解・不文律がありますから、委員会の先生もノーチェックで曲をかけてくれるはず。案の定。
『ロックンロールは鳴り止まないっ』はお昼の放送に乗り、大音量で、学校には不釣り合いな魂の演奏が響き渡りました。ゲリラ成功!

曲がかかってすぐ、放送委員が顔色を変えて私の教室に飛び込んできました。

「マミ先生の好きな曲って、この曲で合ってますか?!」

私は給食を食べている手を止め、ゆっくりと笑顔でうなずいたのでした。
「ええ、合っていますよ」
(どんな曲か興味のある方、ユーチューブで検索して聴いてみてください!)

「学校ゲリラ」の言い分

私は、「学校ゲリラ」活動をすることで、自分の中でなんとか生きるバランスを取っているのかもしれません。

学校システムは、「立派な社会人」を育てるところです。そこの「先生」である以上、人としての当然のマナーを守ることができ、人としての当然の教養を身につけており、人としての当然の心配りができるような人でなければなりません。
その上で、そういう人になるように子どもを導く責任もあります。だから私も、そういう人のフリをしています。だけど、ほんとはちがう。

大学まで出してもらったくせに就職せずにフリーライターなぞになり。結婚して子どもを3人育てなきゃいけないのに、それをほっぽって、カナダの大学の通信教育に無理やり入学してしまい。修了してファミリーライフエデュケーターなどという日本にはない資格で仕事を創り。その上、せっかく創った仕事をまた放り投げて、今度は学校に潜りこんでしまう。

そんな、自分勝手を絵にかいたような人間です。世間の常識より、自分の信念が大事で、世の中とはなかなか折り合いがつけられないし、ごくごく普通の日常生活をおくることさえままならない。子どもの頃から今に至るまでずーーっと、周りの人から「かわっているね」「変な人だね」と言われ続けている。

つまり、ひとことで言えば、「学校の先生」にはふさわしくない人間なのです。
でも。

放課後や休日の子ども向けイベントのように、わざわざ子どもを集めなくても、毎日当たり前に子どもがわんさか集まって、そこで様々な活動をする「学校」は、私にとって、すごーくすごーく魅力的な場所。どうしてもここにとどまりたいから、精一杯「先生」のフリをしているのです(親しい先生に「本性漏れちゃってますよ」と囁かれてしまうこともありますが)。

だから時折、本来の自分らしいことを、したくてたまらなくなるのかもしれません。

「学校ゲリラ」のピンチ

そうは言っても、長く学校に勤めているうちに、学校が掲げる理想の実践に、知らず知らずのうちに、自分が染まりゆくのも感じています。

たとえば。

もともとは、「子どもだって誰だって、食べたくないものは残してもいいんじゃない」なんて能天気に考えるタイプのはずが、

「給食室の方々は、給食を作ることも、お皿を洗うことも、毎日大変な思いをして、あなたたちのためにしてくださっているんです。その方たちのことを想えば、しっかり食べること、そして食べ残しをきれいに取るのは当然です! しっかり残さず食べて、きれいにしてからお皿を出しなさい!」

と、子どもを説教しているベテランの先生を見て、「ああ、こうして、丁寧に一つ一つの場面で、思いやりというものは教えていくべきなんだなあ」と素直に感動している私がいるのです。

「あいさつをしよう!」

ごもっとも。

「時間を守ろう」

そりゃそうだ。

「外で元気に遊ぼう」「手を洗おう」「思いやりを持とう」「粘り強くがんばろう」そりゃもうほんとに、「学校」が教えることに、間違ったことは一つもありません。
   
どれもこれも、「正しいこと」ですから、「そうだよなあ」って思ってしまうし、「そうでしょ」と言われれば、なにも抗うことなどできません。


それでも「学校ゲリラ」であり続ける

だけど、なんだかしっくりこないのです。うまくことばで言えないけれど、
うーん、えっと、「正しいこと」ばかり並べているだけでよいのでしょうか。
「正しいこと」ばかり並べるのは、もしかしたら正しいことではないのではないでしょうか。と思うのです。

「正しいこと」ばかりじゃ、面白くないじゃないですか。ときには逸脱しているけどワクワクすることも体験したいじゃないですか。だから、「学校ゲリラ」活動は、私だけでなく子どもにとって必要なことで、私のような「先生」がいてもいいんじゃないかとヒソカに思っています。

そして、心の奥底で、「学校(ここ)」をもっともっと居心地のいい場所にしたい、という野望のローソクを灯し続けているのです。

あなたも「学校ゲリラ」活動しませんか。

イラスト 有田りりこ

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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