2018.06.26
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カウンセリングの基本的な姿勢・態度

6月初旬に校外学習で富士山に行ってきました。早朝からバスで8台を連ねての大所帯でしたが、広大な自然の中で、ほっと一息。周辺も少し見学をして、学生はもちろん教員にとても楽しい時間となりました。

春学期が半分ほど過ぎたので、今回はカウンセリング(含む学生面談)について考えてみたいと思います。

東京福祉大学 国際交流センター 特任講師 赤羽根 和恵

学生面談・対応の事例「父親の訃報」

留学生の面談では、進学・就職相談、授業料の納付や生活費など経済的な問題、ビザ更新について、この3つが大半を占めます。

今年度、ライフイベント関連の相談が4件あり、その1つをご紹介します。

夜に電話が来て「父が亡くなって帰国したいけど、ビザ更新が終わっていないので帰国してもまた入国出来るか心配」という相談がありました。

「明日の朝、入管に電話をして聞いてみて。私も学校に聞いておきますね。」と答えました。彼は電話ではなく朝、入管に行き聞いて、「大丈夫と言われたけどよくわからない。」日本語の説明がわからなかったそうです。

出国の際に「みなし再入国」の申請をすれば良いのですが、私も心配でしたし、早く回答をして送り出さなくてはと急ぐ気持ちでした。

会っていた時に、手書きのメモを渡しましたが、念のためLINEを入れました。

「1.飛行機のチケットを写真ください。紙は私が書いて学校に出しておきます。

2.空港で「みなし再入国(さいにゅうこく)」の紙を書く。

わからなかったらこれを見せて聞いてください。」

いくらしっかりしている男子学生とはいえ、父親の死への悲しみと、ビザ更新中で慌て不安だったことでしょう。

わが身に起こったら気が動転しているような状況なので、もしメモを紛失したら困ると思い文字を送りました。

丁寧なお礼の言葉を返してくれたので、まずは一安心でした。

カウンセリングの基本的態度「受容―共感―自己一致」

学生の面談・対応を行うにあたり、カウンセリングを学んだことが役立っています。

以前書きましたが、経営学という学問では、機会費用を認識して、合理的な意思決定を重んじます。実学ですから結果を出すことも大切です。

そういった考えが身についているので、つい答えを持たない学生に対しては指示的になりますし、成果を重視しがちなところがあります。

カウンセリングを学ぶにあたり、カウンセラーは、クライエント(相談者)と面談をするために、いくつかの技法を学び練習をしていきますが、私の気持ちにすっと入ったものが、ロジャーズ(Rogers,C)の来談者中心的カウンセリングです。

これによって、相手の言葉を以前より聴けるようになり、待てるようになりました。クライエントとして広義の意味で担任としてあたる学生・保護者面談を含め、成果があると感じています。

ロジャーズの来談者中心的カウンセリングを書くにあたり、宮城まり子著「キャリアカウンセリング」(駿河台出版社)のp118~123より引用をしています。
初めてカウンセリングを学ぶ方にも、復習としても、読みやすくお勧めの書籍です。

ロジャーズは、来談者の生来的な適応・成長能力を信頼し、来談者の持つ自己実現傾向を信頼することが重要と考え、来談者を中心としてカウンセリングを行いました。それまでのテストによる診断と指示を中心とした指示的カウンセリングでは、クライエントの問題解決にはならないと考えてのことです。

ロジャーズの来談者中心的カウンセリングでは、カウンセラーのクライエントへの態度・姿勢が重視されますが、カウンセラーの基本的態度として次の3つが求められます。

1.無条件の肯定

●カウンセラーはありのままのクライエントを無条件に暖かく受け入れる

●カウンセラーからありのままの自分を受容されると、クライエントは自己に対する価値、自己に対する信頼感を取り戻し、自分自身を受容できるようになる

●クライエントは、カウンセラーとの信頼を形成していく

2.共感的理解

●カウンセラーはクライエントの立場にたち、あたかも自分自身のことのように共感する

●クライエントがどのように外部や自分自身を認知しているかを理解し、そこからクライエント理解を目指す

●カウンセラーはクライエントのこうした感情や自分自身が意識出来ていないことを、フードバックすることにより、クライエントの自己理解を促し、肯定的自己概念の形成をサポートする

3.自己一致・純粋性

●カウンセラーはクライエントとの関係において、カウンセラーもありのままの自分、本当の自分を大切にして、カウンセリングの中で相互にいきいきとした人間関係をむすぶ

来談者中心療法のこうしたカウンセラーの基本姿勢・態度は、その他の理論に基づくカウンセリング技法を用いる時でも、カウンセラーの基本的な共通条件であり、カウンセラーとクライエントの深い信頼関係なくしていかなるカウンセリングも成り立たないとしています。

終わりに

私がこれまで行ってきた面談等のうち、メンタルヘルスケアだけでなく、キャリアカウンセリングにおいても、この基本的姿勢・態度は同じです。カウンセラーとして臨むか担任としてか、クライエントが学生、保護者、社会人いずれも同様に、この基本姿勢を心掛けていくと、良い関係が構築できクライエントが問題解決に自ら取り組んでいき結果に繋がっています。

夏休み前に学生面談を行う先生方も多いかと存じます。その際、「受容―共感―自己一致」と心の中で繰り返し、面談に臨んでみてください。

こちらの態度が変化したことを受け、学生に変化が見られたら、信頼関係が構築されたので、さらに同じ姿勢・態度で対応を続けてください。良い信頼関係が構築され、維持できますように。

赤羽根 和恵(あかばね かずえ)

東京福祉大学 国際交流センター 特任講師
経営学・経済学が専門ですが、留学生クラスの担任も兼務しています。これまでの企業経験、キャリアコンサルタント、産業カウンセラーとしての視点も生かせるよう心掛けています。

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