クライシスマネージメント ~もしもトラブルが起きてしまったら~
今回は、学校生活における人間関係のトラブルが起こってしまった時の対処法をお話します。学校生活に子ども同士のトラブルはつきものです。むしろ、小さな人間関係のトラブルを経験して、学んでいく部分も多いはず。ただし、学びに変えるには、それなりの解決や、真っ暗闇に思えても、少しでも明かりが見えるような糸口に導くことが必要です。
兵庫県公立小学校勤務 松井 恵子
子ども同士の大きなトラブルが起きてしまったら。
子ども同士にトラブルが起こるとき、正真正銘の両成敗であることはなかなかありません。立場の強い者と弱い者のトラブルが多いです。特に、「なぐられた」とか「暴言を吐かれてトラブルになった。」などについては、立場の強い者、弱い者の関係が存在するでしょう。
そんな時は、対処の順番を間違えてはいけません。
関係者を全員そろえて話を聞くことが効果的な場合もありますが、事実関係を把握することと共に、立場の弱い子の心をケアするためにも私は、以下の順番を心がけます。
①まずは、何よりも立場の弱い子に事情を聞く。
その子1人と1対1になり、詳しい状況を聞き取ります。いつ、どこで、どんなことが、どんな順番に起こったかをメモをとりながら聞き取ります。その場所に行って、位置関係も確かめることも。時には、学年主任や管理職に入ってもらい、冷静に事実関係を把握します。
②事情を聞いてから、立場の弱い子に、温かい言葉で勇気づける。
立場の弱い子に限って、優しい性格なので「自分もやり返してしまった」とか、自分も悪いところがあると言いがちです。でも、ふりかかってきた火の粉は払って当然。だから、気持ちを理解してあげます。(当たり前のことですが。)そして、嫌だという気持ちをどのように伝えるかも具体的にアドバイスします。売り言葉に買い言葉になってしまいがちな部分を防ぐためです。
さらに、その子の良いところやがんばっているところを話に交えつつ、認められていることを実感させます。自分のよさにも気づかせることで、乗り越えようとしていく勇気を育てるのです。周りに障害物があったら、それを取り除いてあげられるのは、親や先生がそばにいる時だけです。もちろん大人や周りが守ってあげることが第一ですが、それだけではいつまでたっても学びにはなりません。守ることと本人の心を強くしていくことの両輪が大事です。
周囲には、その子を心配している友達や家族がいます。そのことも「○○くんという素晴らしいお友達もいてよかったね」「いいお母さんだね」と安全地帯がいろんな場所にあることも再確認させます。世界は、真っ暗ではないことを、気づかせ、心に光をともしてあげるのです。
③周囲にいた子に、1対1で聞き取る。
周囲にいた子に聞き取る場合も、いきなりたくさんの子に聞くと、噂話が広がり、余計なトラブルが起こる場合があります。
最近は、SNSやゲームの通信機能などで、大人の目にふれないところでも噂を広げることも多いです。だから、周囲にいた子の中でも、より客観的で正しい判断のできる子に聞き取ります。聞き取りをした後は、その子の優しさや正しさも褒め、2人のために、噂にしないことを言っておきます。
④立場の強い子と話をする。1対1か、もしくは、学年主任や管理職などに入ってもらうのもあり。
周囲からの聞き取りも踏まえ、事実関係から確かめていきます。
「昨日の昼休みに、鉄棒の前のドッジボールコートで、○○君と△△君と××君とドッジボールをしていて、もめたね。何があったの?」と、事実をおさえつつ、本人に話をさせます。できるだけ、本人に話をさせます。あやふやな部分を冷静に切り込み、確かめながら、話をさせていきます。
ある程度、話したら、「それで今はどう思う?」と本人に問います。
私の経験の中では、「悪かった」とか「謝りたい」とか言ってくれることがほとんどでした。そこでも、まだ、こちらからの多くの発言はしません。「何を謝りたいの?」とか「それと?」など、心の内をもっと言葉にさせていきます。
謝りたいという言葉を引き出せなかったとしても、ある程度、本人も正直に話していますので、正直に話したことが大事で、次に進む一歩になる。間違った部分を改めていこうと促します。
何も話さなかったとしたら、担任ではない人、学年主任や管理職などに聞き取りをしてもらうのも一つの手です。
⑤双方の思いを繋げる。これからの展望を教師が話す。
最後に、トラブルの当人同士に顔を合わせ、話し合いの時間を短時間でとります。ごめんなさいばかりでおわらす、最後には、必ず、教師がこれからの期待を述べ、明るい方へ導いて話し合いを終わらせるようにします。
女の子同士の友達関係なら、①②を丁寧に丁寧に繰り返し、③の内容などは道徳や学活などで、授業に変えて発信し続けます。
事実関係が把握できることであれば、④も可能です。その時は、「あなた自身の良さを大事にしてほしい。先生はあなたを守りたい」というメッセージを伝えます。
冷静に事実関係を把握することと、寄り添う温かさの両方を大切に
見えている結論に、とかく結論を急ぎ寄り添う温かさがぬけてしまうと、本人の成長には届かないこともありますし、「先生はわかってくれない」とこじれてしまうこともあります。また反対に、担任の気持ちが熱くなりすぎると、事実関係を見落としてしまうこともあります。
特に、担任がいらいらする様子は、必ず伝わります。
断固として叱るのといらいらしているのは全く別物なのですが、その区別ができていない教師も多いように思います。
まずは、「また、あの子が」とか「こんな時期に」という思いが一瞬よぎっても、すぐに捨てましょう。フラットに事実としてまずは受け止める。その子自身が成長できるように、力をつくす。
トラブルを100%起こらないようにするのは、不可能です。トラブルが起こったら、誠心誠意、子どもが乗り越えられるように力を尽くすという思いを保護者や本人に伝えることも、収束部分には大事な要素です。安易に「このようなことがないようにします。」というのは、言える事柄と言えない事柄があります(自分のミスは、この言葉をしっかりつたえないといけませんよ。)むしろ、これから先も、もし何か起こったら、すぐに知らせてもらい、早めに手を尽くすことが、事態の把握と収束、そして子どもの成長につながるのですから、そこをしっかり伝えます。人生には、踏ん張って超えなければならない壁があります。その時の乗り越える力になるように、今をしっかり支えながらも、本人もがんばっていけるよう丁寧にみていくことを伝えます。
松井 恵子(まつい けいこ)
兵庫県公立小学校勤務
兵庫県授業改善促進のためのDVD授業において算数科の授業を担当。平成27年度兵庫県優秀教職員表彰受賞。算数実践全国発表、視聴覚教材コンクール特選受賞等、情熱で実践を積み上げる、ママさん研究主任です。
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