2017.08.25
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

世界の国の子どもたちの勉強事情

「日本の子どもたちは幸せそうですね」と留学生によく言われます。
なぜ彼らはそう思うのでしょう。

近畿大学 語学教育センター 准教授 高橋 朋子

◼ 日本の学生は幸せそう?

 留学生と話していると、「日本の子どもたちは幸せそうですね」と

よく言われます。その理由を尋ねると

「夕方、公園で遊んでいるから」

「小学校を見たら、運動場がある。体操をしている。ボールで遊んで
いるから」

「子どもたち同士で楽しそうに喋りながら、下校しているから」

「可愛い洋服を着てオシャレだから。多分好きな洋服を着ていると思う」

などという答えが返ってきます。

特に多いのが、「スポーツをしているのをよく見る、遊んでいる、
楽しそう」というものです。私たちにとっては当たり前の光景が、
留学生にとってはかなり新鮮に映っているようです。

一体、世界の生徒たちはどんな放課後を過ごしているのでしょうか。

(なお、ご紹介する事例は、私が接している学生の事例であって、これがその国全てを表しているわけではないことをご了承ください)

留学生が、日本語の授業で使う教科書に「〜だった時〜」という文法項目があります。テキストの例は、「私が子ども(小学生、中学生〜)だった時、友達と公園でよく遊んだ」ですが、留学生が書く文章は少し違います。

「私が子どもだった時、夜遅くまで毎日勉強した」

「私が子どもだった時、土曜日も日曜日も学校で勉強した」

「私が子どもだった時、休みがなかった。毎日勉強だけした」

「私が子どもだった時、寮に住んだ。先生が怖かった。勉強した」

・ ・・・・・・

来日して2、3ヶ月の頃なので、日本語の文章はやや変ですが、
意味はわかりますよね。たいていの学生の文章は同じです。
みんな勉強しかしていなかったことがわかります。
だから、自分の書いた文章を順番に発表してもらうと
教室がかなり暗い雰囲気になります(苦笑)

世界、特にアジアは幼稚園の頃からすでに受験勉強が始まっているのです。子どもたちの仕事は1に勉強、2に勉強、3に勉強、4に勉強、、、と
勉強オンリー。

「料理や買い物、お洗濯など家事のお手伝いは一切しなくても良い、
その代わり勉強を頑張れ」と言われていたそうです。
中国の学生は一人っ子だったので、喧嘩する相手もなく、
「いつも寂しかった」という学生も多いです。
ドラえもんが欲しかったという学生は、決して子供っぽかったのではなく、「ポケットから兄弟を出して欲しかった」のです。大人に囲まれて、勉強だけしていた孤独な生活が想像できますね。

だからというわけではないですが、生活力のない学生が目立つのも事実。
勉強はできるけど、自分の身の回りの世話ができなかったり、
うまく自立できなかったり。また一人っ子で皇帝のように育てられたため、コミュニケーションがとれず、一人ぼっちになってしまう学生も。

それでは、いくつかの国の学生生活をのぞいて見ましょう。

◼︎ 韓国—お弁当と英語の日々

 交換留学生として日本の大学に半年か、1年やってくる韓国の学生は、
本当によく勉強ができます。昨日来日したのに、もうペラペラと日本語を
操り、プレゼンテーションをして皆を驚かせることもしばしば。

 「日本にきて楽しいです。大学生活を送っているという感じがします。」と笑顔で答える学生に、韓国での高校生活を尋ねると・・・・

「毎日、お弁当を2つ持って学校に行きます。昼の分と夕方の分。夜はお母さんが学校に届けに来ます」
「夜の分?」と怪訝な顔をする私に、学生は淡々と
「夜12時まで学校にいますから、お腹が空くんです。先生の夜のお弁当は、お母さんたちが順番に作って届けます」とのこと。
「朝は何時から?」と聞くと、「7時からですけど、その時間に行く学生はいないです。みんな6時には学校に来て勉強しています」との返事。
うわー、韓国の高校生は過酷な日々を送っていますね。本当に驚きます。
でも「大丈夫ですよ。慣れていますから。小学生の時は夜、塾に行っていましたから、その場所が学校に変わっただけで、移動がない分、楽になります」と涼しい返事。

大学試験の日は、飛行機も飛ばず、遅刻しそうになったらパトカーが送ってくれる国、韓国。大学が人生の全てを決めるという国ならではの事情です。

「じゃあ、大学に入ったら、解放されますね」と続けると
「いえいえ、大学に入ったら、就職のために今度はTOEFL(英語圏の大学に留学する際に必要な英語の試験)などの点数を高くすることといろんな資格を取ること、留学に忙しくて・・・・」と答えた彼女のTOEFLiBtの点数は108点(満点?)という驚異的なものでした。納得。

英語ができなければ仕事はない、という韓国。
厳しい競争は生涯にわたって続きます。

◼︎ 香港—バイオリンに水泳、ピアノにPC、英語の習い事に翻弄される毎日

 留学生の作文に「あなたの国の問題を1つ挙げて具体例を書きましょう」という課題があります。
先日、クラスにいた3人の香港の学生が全く同じ問題点を書いたので、驚きました。それは、「幼児の時から勉強ばかりして遊ぶチャンスがない」というものでした。
一人の女子学生の作文をかいつまんで紹介しましょう。

「〜私は、香港で幼児塾の受付のアルバイトをしました。
8時にピアノが終わって、子どもたちは受付の前のソファに座って
両親が迎えに来るのを待ちます。ほとんどの子どもが寝ています。
両親がきて、次の習い事に行きます。1日に2つか3つの習い事をして、
12時ぐらいに家に帰り、それから宿題をします。私はいつも
2時ぐらいに寝ていたけど、もっと寝たいと思っていました。
この生活は高校生まで続きます
〜子どもはもっと遊ぶことが大切です〜」

◼︎ 中国—寮生活だから頑張れる

中国の学生たちも過酷な学校生活を送って来たようです。全寮制の
中学高校に在籍していた学生がほとんどで週末だけ自宅に戻るのが
普通です。

「じゃあ、週末が楽しみでしたね?」と尋ねると
「でもお父さんもお母さんも仕事だったし、結局自宅に帰っても
一人でいることが多かった」という答えでした。

中国は男性も女性も働くのが当たり前なので、子どもが帰宅するからと言って特別に休んだりはしないようです。
韓国の学生と同じように、朝から晩まで勉強していたという彼らは、
寮生活で友達と一緒だったから頑張れたと言っていました。
「あの日々は思い出したくないですね。」
の一言が全てを物語っているのかもしれません。

◼︎ アジアは総じて学歴社会

韓国と香港、中国の例を見てわかるように、アジアの児童生徒たちは
総じてかなり過酷な生活を送っているようです。
彼らが見た日本の子どもたちは幸せのように見えますが、どうでしょうか。

「幸せ」の定義が何なのかにもよりますが。。。。。。

もう一度子どもたちにとっての幸せについて考えてみたいと思います。

次回はベトナムやドイツの学生のお話をします。

高橋 朋子(たかはし ともこ)

近畿大学 語学教育センター 准教授
留学生への日本語教育、地域の日本語教室の支援、外国にルーツを持つ子ども達の母語教育支援活動をしながら、多文化・多言語社会について考えています。

同じテーマの執筆者

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop