2017.07.06
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留学を制するのは、語学力や経済力ではなく?

多くの留学生が日本にやってきますが、順調に留学生活を送ることができない学生もいます。
その原因は?

近畿大学 語学教育センター 准教授 高橋 朋子

■日本にはどのぐらい留学生がいる?

今、日本の大学にはどのぐらい留学生がいるかご存知でしょうか。

日本学生機構の調査によると、平成28年5月1日現在
大学や予備教育機関である日本語学校、専門学校などに

239,287人 (前年比 30,908人(14.8%)増)

の学生がいるそうです。
政府は30万人受け入れ計画をしていますので、まだまだ
増やしたいところでしょう。
でも、数だけ増やせばいいわけではありません。受け入れたら
それだけのしっかりした対応が必要です。

日本語能力がそれほど高くない留学生のために
多くの教材、授業、支援があります。それらをうまく利用して
留学生は日本語能力を高め、進学や就職、帰国して起業したり
できるのですが、、、

■ 留学の途中で挫折してしまう学生

最近、留学生のなかに、せっかく留学したのに途中でやめていく人、
引きこもりになってしまう人、何をしに日本に来たのかわからなくなってしまう人
が多くみられるようになってきました。
友達やルームメートが心配して相談に来る場合もあれば
家から引きずり出して学校に連れてくる場合もあります。
それはまだいいほうで、誰にも気づかれず、家の中で数か月
過ごしている学生もいます。
留学生の数が増え、孤独感は少ないはず。
日本語がわからなければ、支援してくれる人もインターネット上の検索サイトもあるはず。
先輩からの情報もあるでしょう。
家が恋しくなれば、LINEやWechatですぐに家族や国の友達とつながれるはず。
日本に来たからには、目標もあるはずです。
それなのに、なぜ????

■30年前のある留学生
30年前、私費留学生(自分で学費を負担している学生⇔国費留学生)は
ほーんとうに苦学生でした。奨学金もそんなにない時代。
お金がなくて、アルバイトをしながらでなければ
日本で生活することはほぼ無理でした。
私が最初に教えた中国人の留学生 王さんは夜はラーメン屋、朝は新聞配達
昼は学校に来て、夕方は居酒屋でバイトするという今では
信じられない生活をしていました。中国と日本の経済格差がまだまだ大きかったころです。
彼は、毎日学校の受付に「中国から手紙来ていませんか」と尋ねに来るので有名でした。
お母さんからの手紙を待っていたのです。
2,3か月に1回、届く手紙を、授業中に机の下に隠してこっそり読んで
涙していた姿を昨日のように覚えています。
メールもLINEもない時代、手紙を送っても届くのは数週間後のことでした。
電話もかけられず、家族が元気かどうかも数か月に1度の手紙だけ。
さびしくて、バイトも辛くて、日本語も難しく、それでも、彼は2年間まじめに勉強して大学へ行きました。
NPOや地域の日本語支援も少ない時代です。
彼は、今、日本で起業してちゃんと社長をしています。

■今の留学生は?
一方、今の留学生はとても恵まれています。
両親からの仕送り(全員ではありません)、車を持っている人もいるし
休みごとに帰国して家族で過ごす人もいます。
長期休みには、国の家族が来日して日本旅行。
さびしくなったらLINEもあるし、電話もできるし、リアルタイムでつながることができます。
学校が終わったら「スタバへ行こう」なんて教室を出ていきます。
USJの年パスもあるし、GWにはTDLにも行きます。
「君の名は」に感動して聖地巡礼もしています。

それなのになぜ引きこもったり、不登校になったり、
目標を見失ってしまうのでしょうか?
答えは1つではないと思いますが、
うーん、今の学生には「ハングリー」な部分がちょっと欠けているように感じます。
「もうちょっとやってみよう」とか「悔しい、負けたくない」とか
そういう気持ちの希薄さを感じることが多いですね。
「めんどくさいし、もういい」
「もっと簡単にできる方法はないのか」と聞いてきますが
ほかの先生に聞くと、日本人大学生にもこのような傾向がみられるとか。

■留学に必要なもの
留学の成功は経済力や語学力がすべてではない
必要なものは何なのか、いつも考えています。
・今、自分が何をしなければならないかをよく考えて行動できる力
・自分を振り返る力
・粘り強く頑張る力
・あきらめない気持ち
・好奇心
・それから、それから・・・・

答えは1つではありませんが
こういった態度や姿勢は、やはり子どものころから養われていくものではないでしょうか。
また、昔の留学生が全員模範的だったわけでもありません。
ただ、今の留学生は便利すぎて、快適すぎて、国との距離がなさすぎて、と感じるのです。

日本政府は、日本人大学生をもっともっと海外の大学へ送り出したいと思っているようです。
でも、ただ送ることだけが目的ではなく、何かもっと大切な部分が抜けているのではないかと思います。
その大切な部分は、大学生になってからでは遅く、小学校や中学校から少しずつ種をまいて
静かにゆっくり育てていかなければいけないのでは?

歩きスマホにヘッドフォン、スタバのコーヒーを片手に集まっている留学生を見ながら
そんなことを感じています。

高橋 朋子(たかはし ともこ)

近畿大学 語学教育センター 准教授
留学生への日本語教育、地域の日本語教室の支援、外国にルーツを持つ子ども達の母語教育支援活動をしながら、多文化・多言語社会について考えています。

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