2017.07.03
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納得解を目指す算数教育

先行学習している児童とそうではない児童をいかに同じ熱量で算数の時間に向かわせるか、教師にとっては大きな課題ではないでしょうか。

兵庫県公立小学校勤務 松井 恵子

分数÷分数

分数÷分数は、わる数を逆数にしてかけるという計算方法です。

塾などで先行学習している児童は、分数÷分数の答えの求め方を考えるとき、「逆数をかけたらいい。」とすぐに言います。特に今年の6年生はこの傾向が強かった。

式化するときも、なぜそうなるのかをなかなか説明できないことも大きな特徴と感じました。正解を与えられることを待っている姿勢が強いのです。

私が子どもに求めるのは、正解をつかみ取る姿勢。納得を感じられる正解にする姿勢です。

なぜなら、将来、未知の出来事に出合ったとき、必要になってくるのは、従順に課題をこなす姿勢ではなく、自ら、乗り越えようという姿勢だからです。

丁寧なホップ、ステップ

分数÷分数の課題にすぐ入らず、まずは同じ問題を簡単な整数にして提示します。

「(   )㎡のかべを(    )dLでぬることができるペンキがあります。

 1dLでは何㎡ぬれるでしょう。」

画用紙に問題をかいておいて、(  )の部分をくりぬいておきます。

まずは、4㎡のかべを2dLでぬれるペンキにして提示。

そこで4÷2を式化させる。なぜその式になるのかを説明させる。ここで、なぜわり算になるのかを耕しておきます。

次に分数÷整数にする。教科書はここから始まっています。ですが、学級全員を同じ土俵にのせて、学習にむかわせるためには、4÷2が必要なのです。

「先生、÷3分の1が×3になるのはわかるけど、逆数をかけたらいいっていう考えにはモヤモヤする。」

上述したホップ、ステップを踏み、「3/5㎡のかべを1/3dLでぬれるペンキ。1dLでは何㎡ぬれるか」という課題を考えた時間が終わったときのことです。

終わりのあいさつの後、黒板前によって来る女の子2人。

「先生・・・この問題は、×3になるってわかるけど、他もそうなん?ほんまに逆数なの?」

その通りです。1/3には適用できても、それで全て逆数にしたらいいなんて、言い切れません。他に2/3 とか4/5とか、分子が1ではない分数でも適用できるのでしょうか。

次の時間の課題をこの子達の疑問にしました。

「分数÷分数は、逆数をかけていいのか調べよう。」

昨日と同じ問題を提示しつつわる数になるペンキの量の数値を変えます。

(あ)3/5㎡のかべを1/2dLでぬれるペンキ。1dLでは?

(い)3/5㎡のかべを(   )dLでぬれるペンキ。1dLでは?

ここで子供達に相談をかけます。

「(あ)はみんな同じ数値でやってほしいんだけど、(い)のペンキの量は、みんなで同じ数値で確かめる?それともグループごとにちがう分数で確かめる?」

子どもはぜったいにこういいます。「自分たちで自由に決めて、ちがう分数にしたい。」

この小さな選択も、子ども達の熱量をあげるポイントです。

しかしあまりにも自由すぎても困りますので、必ず真分数を当てはめるという限定をつけます。

グループごとに色々な分数を使って確かめました。

それでもまだ、グループで悩んでいる児童がいます。

「逆数にするのは関係図でわかるけど、それが式のどこにもでてなくて、それでいいのかな。わる数を逆数にするなら、わられる数も逆数にすべきなのかな。」

そこで、このグループの迷いについて、全体討議を始めました。

「わる数を逆数にするのは、意味があってしているけど、わられる数を逆数にするのは、意味もなくしていることになるから、だめだと思います。」

この発言で、グループの迷いは解消しました。

そして、9グループのデータを黒板に提示し、どんな分数でも逆数をかけて計算していいのか検証。

2/7でも、1にするには、逆数をかける。

3/8でも、1にするには逆数をかける。

「ぴったり1ゲーム」で逆数をカードゲームで習得したので、子どもの言葉から、「ぴったり1ゲームといっしょで」という言葉がでてきます。その言い方ですとんと落ちる子もいました。逆数という言葉は、子どもにとっては遠いようでした。それが「ぴったり1ゲーム」という以前の活動とつなげると、納得出来る子も多かったようです。

グループの中には、29/46などという分数にするところも。はい、私の自称年齢/実年齢です(笑)ただ、数字が大きすぎて本当に合っているのかわからない。そこで、答えの確かめ算を用いて、3/5にもどるか検証していました。ちゃんとわられる数にもどったようで、とても満足気でした。

「塾で習っていたけど、なぜそうなるかがわかってすっきりしました。」

振り返りには、逆数をかけるというのは知っていたけど、なぜそうなるかがわかってすっきりしたという言葉が多く見られました。

教室で求めるのは、正解のその先。納得する正解、「納得解」

その土壌は、正直に学びに向き合わせようとする教師の教育観が土台です。

松井 恵子(まつい けいこ)

兵庫県公立小学校勤務


兵庫県授業改善促進のためのDVD授業において算数科の授業を担当。平成27年度兵庫県優秀教職員表彰受賞。算数実践全国発表、視聴覚教材コンクール特選受賞等、情熱で実践を積み上げる、ママさん研究主任です。

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